短編2
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無線番

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初めて投稿させて頂きます。

私は昔、タクシーの無線番をやっていました。

お客様から電話がくると、そこへタクシーを向ける業務です。

その日、私は夜勤で、先輩と二人きりで仕事をしていました。

私は電話受付、先輩は配車担当、という形で行い、深夜の2時ごろの事でした。

二人で他愛もない雑談をしていると、電話が鳴りました。どうやら公衆電話からのようです。

「ありがとうございます。◯◯タクシーです。」

電話の向こうからはか細い女性の声が、ぼそぼそと、聞こえてきました。

「タクシーを、一台お願いします。」

「今、どちらにいらっしゃいますか?」

「◯◯の町のコンビニです。でも、怖い人たちに追いかけられて、逃げてきました。」

「え...?」

正直、そんな状況なら電話するのはここではなく警察だろと内心思っていましたが、

「大丈夫ですか?すぐにタクシーを向けますので、今いる場所を教えて下さい」

「◯◯町のコンビニの裏通りです...でも...怖い人たちがいると思ったら、もういなくなってて、クスリが無くて困るんです。それで、バナナが落ちてると思ったら、スポーツカーだったんです...」

これは完全にヤバいやつだと確信しました。やっちゃいけないクスリをやってるなこれは...と。

すると急に電話の相手は無言になり、もしもし?と問いかけても返事がありません。

15秒程経った頃でしょうか、電話を切ろうかと考えていると急に、ハッキリと、そして野太い声で、

「やめてください」

と言われ、電話が切れました。

なんだったんだ。と思いましたが、とりあえず気にせず仕事を続けていました。

それから1時間程経った、夜中の3時ごろです。

また仕事が入りました。今度は近くの飲み屋さんからの電話でした。

先輩に場所を伝え、先輩は無線機をとりドライバーに

「◯◯号車、△△店お願いします。」

と伝えます。

ドライバーからは「了解」の返答。それで終わりの筈でした。しかしドライバーからは、

「◯◯さん(先輩の事)、今一人で仕事してますか?」

私と先輩は顔を見合わせて、この意味がわからない無線を不思議に思っていました。先輩が、

「いえ、今は後輩の◯◯と仕事していますよ」

と無線を入れると、「...了解」と返答が。

不思議には思いましたが、その後は何事もなく、仕事が終わりました。

点呼に上がってきた先程のドライバーに、さっきの無線はなんだったのか聞いてみたところ、

「いやぁ、◯◯さん(先輩の事)が私に無線入れた時に、後ろから女の笑い声がしたんですよ。野太い感じの。」

私は男です。もちろん先輩も男です。事務所には女性は一人もいません。

あの公衆電話から掛けてきた不気味な女性は、いつの間にか事務所まで来ていたのでしょうか。

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