中編6
  • 表示切替
  • 使い方

眠りの召喚者

註:下品な表現、不快な表現が御座います。苦手な 方は申し訳有りません……

────────────────────────────

「あれが……あれが、奴の正体か」

屹立する、巨大な存在が異形の存在を見ている……その足元にて、何故か寝息を立てている男。

───そいつは、軽自動車でやって来た。

昼下がり、事務の女の子が怪訝な顔をしながら、現金を封筒に詰めている。

「随分と分厚い中身だな」

「ええ……社長直々なんですよ」

窓の真下の道に一台の軽自動車が停まり、運転席のドアが開いて、ヒョコヒョコと小太りの男が現れる。

(………)

妙だ。通常なら、ドスンドスンと足音がしてもおかしくないのに、ガチャンと出入り口の扉が閉まって以降は、余りにも静かだ。いや、静か過ぎる。

トントンと扉を叩く音がして、事務の女の子が返事をして促すと、先程の小太りの男が登頂部よりニョッキリと現れる。

「あっ、済みませんで」

ヌボーっとした何だか眠たそうな顔付きで、事務の女の子の目を見て会釈する。

「あっ、済みません。どうぞ」

すぐさま事務の子が封筒をゆっくりと小太りの男に差し出すと、胸元よりボールペンを取り出す男、三文判や朱肉も取り出し、捺印も行う。

手続きを事務の子に確認しながらこなし終わると、再び会釈し男は出て行こうとする。

「待てあんた」

声を掛け、寝呆けた表情の男を制止し凝視する。

「あー申し訳有りません、御挨拶致しますか」

挨拶を交わそうが何だって良いが、その眠そうにしている顔をペシャリと張りたくなる。

だが、その無理して笑みを浮かべた口許に対して、無理に笑う意思すら見せない眼光奥の視線で、殴り飛ばそうとする意思すら吸い取られる気になり、やる気が失せた。

「じゃあ名前だけ聞こう。あんた誰」

「園部……園部元蔵(そのべ・もとぞう)と申します」

「……そうか」

名乗ろうとするも、園部が「聞く必要性を感じない」表情で退散しようとしているので、肩を掴む。

「名乗らせろや」

「嫌そうです」

「何だと」

やはり見透かす様な目付きなのが気に喰わないが、周囲の目も気になり、取り敢えず園部と名乗った男も解放する。

────────────────────────────

「社長っ!!何々スかあいつは!何様なんです」

「何がよ」

「先刻(さっき)の……あの軽自動車の奴ですよ!」

「うるさいわねェ。どうこう言える立場なの」とばかりに、まくしたてる男を睨み付ける。

「あのねェ灘江(なだえ)君、そんなにあの人を嫌うのは何でよ。生理的に受け付けないってので片付けたら、駄目ですからね」

事務の子が「ヒっ」となったのは見逃さぬものの、灘江と呼ばれた男は、社長に凝視されている。

「確かに愛想は無いけどさ、礼儀はキチンと有ったでしょ。余程嫌悪感が有るんなら、一度一緒に仕事して見たら」

「ああ?一緒に仕事するだァ?」とフザケンナ顔になりそうだったが、社長や事務の子の手前、ブツンと来る訳にも行かず、灘江は致し方無く頷く他無かった。

───灘江民斗(なだえ・たみと)。いわゆる見える体質で、除霊やら悪霊退治と称した持ち込まれる怪事件をこなしている。とは言え、その手の商才や経営技術も皆無である為、社長の居る探偵事務所に厄介になっている。事務の子も、彼を邪険に扱っている訳でも無いので、依頼さえこなせれば居心地自体は誠に良い。

口調からして御分かりだと思われるが、社長は女性である。

「よう、ナダ君」

「あっ、サナさん」

事務の子や社長に挨拶し、灘江にも穏やかな表情で声を掛けて来るスーツ姿の男。

───灘江は対照的に、革ジャケットにデニムのボトムである。

タイミングを計った様に、社長が招集を掛けた。

次の依頼は、心霊スポット───震災時になぎ倒された防風林近くの、復興途中の土地との話である。

「で、彼の出番でもあるのよ」

「!!」

何故か灘江は、先程の自分が肩を掴んだ男を思い出す。

「そうなるとですね……運転手役になりますかね、もしかすると彼は」

スーツの男───佐縄(さなわ)が、社長に何と無く訊いて見る。

「御明答!彼にもその話は通したし、依頼した日の翌日は、彼の休日でもあるから……」

あの野郎、掛け持ちで此処に出入りしているのか……そう思うと、何だか灘江は癪(しゃく)に障る。

「あっ、園部さんの本職はサービス業なのよ。飲み会でも、飲めない体質だからハンドルキーパーしてるみたいだから……」

訊いてもいない事迄社長は言及し、依頼遂行の日時調整は、園部と名乗った男の本職の都合に合わせたのだと云う。

怪事件の依頼承りと遂行、解決が腰掛けと捉えられていると考えると癪だと感じた灘江だが、此処は園部の御手並み拝見ではないかと考え直す。

「あっ、佐縄君。灘江君に、園部君の話を教えて見たら」

「あの事ですか?ああ、ハイ。分かりました」

「興味無ェよ」が本音だが、大先輩である佐縄の前と言う事もあって、何故にあの男が出入りしているのかを聴き始める。

「見えないんだよ、彼は」

「え?眼鏡は掛けてまし……」

「いや、違うんだ。何て言うか、聴覚では感じられるのに、現物が目の前に現れちゃくれないって話だね」

「ああ、そう言う事ね」と納得する灘江。

「面白いのが、彼が寝てからなんだ。それが又ね……」

────────────────────────────

心霊スポットに足を踏み入れた瞬間、巨大な女───と言うよりは、うすらでかく細身な女の姿をした存在に出くわす。

対峙する準備を整えるも、運転して来た園部が寝てしまう。

狼狽する佐縄含む数人の要員。

その時、ゴーレムを思わせる巨大な存在が現れたかと思えば、上半身裸の赤いパンツとブーツを履いた逞しい男───今は亡き面長で長身のプロレスラーそっくりな体躯の存在───へと姿を変えたのだ。

チョップを繰り出し、本来当たる筈の無い打撃技がヒットしたのか、うすらでかく細身な女の姿をした存在が勢い良くのけぞり、地鳴りの様な声らしき音を発する。

「ぬうううううううおおお……ぽぽぽ……」

異変が起こる。ぬうっと見ているだけだったプロレスラーそっくりな物体が、明らかに怒りの表情になる。

「ボクハ……アポーナンテ……イワナイッテ、ナンドイッタラ……ワカルンダ─────っ!!」

「?!」

ハッキリ聞き取れる声、確かあのプロレスラーが彼の真似をするタレントに困惑した際の台詞が……何故か怒りの雄叫びへと変化している。

「!!」

うすらでかく細身な女の姿をした物体の後ろに、巨大な口だけが現れて、歯がグチャリグチャリと半透明な筈の存在を、舌を交えながら旨そうに咀嚼(そしゃく)しているではないか。人間なら赤黒い鮮血を滴らせたりするが、黒い鮮血らしき霧状の物体をシュワシュワと噴出しながら、女の姿をした物体は巨大な口に噛み砕かれて行く。

プロレスラーそっくりな巨大な体躯の存在は、先程の現れた際の無表情のまま、その行方を見ているだけである。

「何だありゃあ……」

すると、誠に下品な音が木霊(こだま)する。

「ゲフウウウウ……」

生臭く強い風に、腰の抜ける佐縄と要員数名、凄まじい位の嘔吐感を覚える。尻餅をつきながら見上げる一同の前で、闇に巨大な口が呑み込まれて行く。

───「ニヒー」と、満足そうに歯と薄紫色の歯茎を見せながら。

カクンとなって、園部が目覚める。

プロレスラーそっくりな存在も、いつの間にやら消えていた。

「あっ……済みません」

「……いや、良いんだ。終わった……みたいだからな」

「へ?」

園部、少々の疲労感を覚えるが、仮眠を取れた感覚なのか、運転に支障が無さそうな表情で、運転席に歩いて行く………腰を抜かしてしまった佐縄含む残り要員も、同じく歩き出す。

──────────────────────────

「そんな……そんな馬鹿な事が……」

自身の発した言葉に、「しまった」と佐縄の顔を見て謝る灘江。

だが、佐縄の表情は変わらず穏やかである。

「私もその話聴いて、ぶっ倒れそうになったわよ」

社長も苦笑いする。

事務の子はどうやら外出しているらしく、灘江は何故か安堵する。

「何もあいつに……いや、園部ってのに異常が起きてない事の証明が、先刻の……遂行料金の受け取りって話に……なるんですかね」

「うん、そうなるね」

───あいつ……と園部に対し、訳の分からぬ対抗心が灘江に芽生える。

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ