中編3
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煙か土か食い物

葬儀屋にかかってくる電話の内容って、みんな想像つくかい?

1割はクレーム、1割は自分や家族の葬儀や身辺整理についての相談、1割は宗教(というか葬式や通夜の時のマナーや作法についてだな)への質問。

残り7割はご想像通り、葬儀の依頼だね。

要は、人が死んだって知らせ。

そんな電話を24時間365日受けてりゃ(悲しいことに大げさでも何でもない。葬儀屋は太陽暦と無縁の仕事なのよ。盆暮れ正月ゴールデンウィークなにそれおいしいの?ってなもんだ)、まあ、電話もおかしくなるのかもしれん。

これはそんな話。

ある日の昼、唐突に電話が鳴った。

「はい、⚫⚫葬祭です」

電話をとったのはまだ若い事務の女の子。

さて搬送かね相談かね、せめて座ったまま昼飯食い終わりたいから相談にならないかなあ、なんて思いながら金ちゃんヌードルすすってた私の前で何やらやり取りしてたんだが、なんかその子、様子がおかしい。

何度も何度も相手になにかを聞き返してて、そのうち泣きそうな顔になってきた。

おかしなクレーム電話でも取ったかな?

目配せで電話を代わるように合図しながら、金ちゃんヌードルのスープを飲み干して受話器を受け取った。

「お電話代わりました、施行担当の⚫⚫と申します」

『…――…ガァ…―…』

ザーだのガーだのひどいノイズの向こうで、しわがれた声がなんか言ってる。

「恐れ入りますお客様、雑音がひどいようで、もう一度よろしいですか?」

『――トガァ―……ンダ、ラァ……』

「申し訳ございません、まだお声が遠いようで」

まあ、普通の電話じゃないのは分かってたんだけど、あえて普通に返したよ。

その時の私の腹は、珍しくちゃんと作ってきた梅かつおおむすびだけを呼んでいたので。

あくまで丁寧に返すこっちに焦れたのかなんなのか、急に向こうはがさがさに割れたダミ声で怒鳴りつけてきた。

『ヒドガジンダラナンニナルウウウウウ!!!!』

―――ジリリリリンッ!

その瞬間、事務所の電話が一斉に鳴り出した。

いつもの電子音じゃなく、古い黒電話みたいな耳障りなベルで。

もう女の子半泣きだし他の事務員さんも固まってるし外回りから帰ってきた副店長は凍りついてるしで、OK、孤立無援か上等だ。

「人も獣も死んだら煙か土か食い物に決まっとるわボケこのアホンダラアアア!!」

元バンドボーカルの声量なめんな。

後に、「私ちゃんの声で鼓膜ビリビリした……」と副店長にちょっと涙目で言われたレベルの怒声を叩き込み、受話器もガチャンと元に戻した。

途端、鳴っていた他の電話もぴたりと鳴り止んで、事務所はようよう動き出す。

「わ、私ちゃん」

「はい?あっすいません大声出して」

「いやそれはえんやけど……電話、なんて?」

「人が死んだら何になるんやっておっしゃるんで、焼かれて煙か腐って土か食われて食い物つっときました。たぶんおっしゃる本人も、もうそのどれかでしょうにね」

「……そう……」

「はい。あ、ご飯たべていいです?」

「いいです……」

何故かちょっと青い顔のままの副店長に断りを入れて、私は悠々と梅かつおおむすびにかぶりついたのでした。

あ、最初に電話とった女の子がお礼に分けてくれたデザートのフルーツ、美味しかったです。

おしまい

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