中編3
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味のついた氷の思い出

子供の頃、毎年夏休みに田舎の祖父母の家へ遊びにいく決まりがあった。

家と一体型の店舗で飲食の商売をしていてね。

ちょうど掻き入れ時と重なってしまうから、あまり構ってくれる訳ではないけど、親に内緒で小遣いをくれるし可愛がってはもらっていた。

小学五年生の夏まではね。

あの夏、ひとりで留守番をしていたんだ。

本もゲームも飽きてオヤツでも食べようか、と冷蔵庫を開けた。

目当ては祖父母の手作りのアイス。

おれはこれが大好物だった。

とはいっても、製氷皿に市販のジュースを入れて凍らせた程度のもの。

実は当事、親から許可がない限りはアイスを食べてはいけない禁止令が出ていたおれのために、祖父母が判ってて用意してくれていたわけ。

禁忌と愛情を同時に感じて、特別美味い訳ではないはずのものを実質以上に感じていたのかもね。

だけど、珍しく何も入ってない。

前の晩に他の親戚も大勢来たからそれで食べられたな、と落胆した。

おれのために用意されてるもの、という特権意識みたいなものがあってさ、余計に納得出来ない。

だから普段は触らないようにと念押しされていた店舗の冷蔵庫の中身を確認することにしたんだ。

ちょうど祖父母は夜の営業に向けて買い出しに出かけていたから、忍び込むのに訳はない。

厨房の奥にある、台所の冷蔵庫よりずっと大きな、壁にはめ込んである業務用冷蔵庫。

開けると肉やら野菜やらが入っていたけど、めぼしいものはない。

もちろん、冷凍室を開けてみた。

ほかはギチギチに押し込んであるのに、そこだけは空間に充分な余裕を持って製氷皿があった。

取り出してみると。

恐らくはただの水の氷ーーその中に。

小さな小さな人形が閉じ込められていたんだ。

とても精巧な、生きた人間を小さくしたまんまのような少女の。

白い肌に長い髪の……妖精みたいな。

製氷皿に収まった氷のすべてに一体ずつ入っていて、どれもまったく同じ姿形をしていた。

食べられないことはすぐに判った。

だけど、これは何だろう、何でこんなことをするんだろう、と思いつつ手で触れずにはいられなかった。

今考えると、あまりにも美しくて魅了されていたような気がする。

傾きかけた夏の光を透かして眺めていたらさ。

人形だと思っていた少女は目をパチリと開けて、おれを睨んだの。

《ぎょろっ》

って。

びっくりして取り落としてしまった。

氷は粉々に砕けて、中にいた小さな少女は耳から血を流して苦しそうにしていた。

まずいことをした、と思った。

そこで、おれは悪手を打ったんだ。

氷のかけらと少女を掬って、流しの排水口に投げ入れた。

このままではばれてしまう、と一つだけ穴のあいた製氷皿に水を流し込んで、元の状態に戻そうとした。

そしたら。

ぬるい水が触れた他の氷がばきばきと音をたてて、その中に入っていた他の小さな少女たちが、一斉に目を開けておれを睨んだんだ。

全部放り投げて、部屋に戻ってぶるぶる震えていた。

そのあとのことは定かじゃないけど、祖父母に怒られたとかの記憶はない。普段通りだったはず。

その翌年からだ。

恒例の夏休みにおれだけが祖父母宅への訪問を禁じられるようになった。

父も母も弟も妹もよくて、おれだけ。

当然理由も訪ねたらしいけど、教えてくれなかったんだって。

それがずっと続いて、一昨年二人とも入院したんだけど、おれだけ面会は禁じられた。

両親によると、祖父は《会えない》の一点張り、祖母に至ってはおれのことをもうほとんど覚えていなかったらしい。

それでとうとう先日旅立ったんだけど、《葬式にも顔を出すな、墓参りにも来るな》と遺言に遺すほどの徹底ぶり。

他の親戚にも周知されることになって、結局最後の最後まで会えなくなった。

たぶん、原因は《アレ》なんだろう。

だけど、理由は判らない。

あの氷は何だったのか?

なぜ、会うことを拒絶したのか?

たまに自宅でジュースを凍らせて色味のついた氷をつくると、憧憬と後悔の味がする。

Concrete
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