中編2
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寝言に返事

僕が学生のころ、週末の夜は馬渕という同級生の家で集まり、酒盛りをするのが定番になっていた。

大体決まった面子の男ばかり四、五人で食料品を持ち寄りテレビ番組や映画なんかを観たり。

必ず日付が変わるまではそうしているので、必然的に全員が六畳間に雑魚寝で朝を迎える。

その夜も、まったく同じ状況だったんだけれど、馬渕だけは早々に酔い潰れて先に寝てしまったんだ。

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『……でたらめじゃん、それ……』

イビキをかいていた馬渕が急に、起きている三人の会話とは無関係な発言をした。

よく言われる都市伝説で《寝言に返事をしてはいけない》というのがある。不眠症になるとか、脳に悪影響を与えるとか。

そんなことは毛ほども信じていないから、誰ともなく

『でたらめなんかじゃないよ』

と返した。

『……時間がかかるなあ……』

馬渕が間髪いれずに意味不明な返事を寝言で返したことに全員が大爆笑。

その後も馬渕は十分に一回ほどの間隔で不明瞭な寝言を繰り返し、僕たちはそのすべてに返事を返した。

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『……少し寝る……』

『いま寝てるじゃないか』

『……電源きった……?』

『入れっぱなしだった』

『……それでもいいよ……』

『馬渕が良くてもおれがダメ』 

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こんな感じで一時間ほど遊んで、午前一時を過ぎたあたりに馬渕が、また。

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『……いってもいいか……?』

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それに、『ああ、来いよ』と返したら。

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《いまからいく》

馬渕の口から出た声は、馬渕のものではなかった。

全員が顔を見合わせたその途端。

玄関口の扉が、何十人もの人間が同時に殴り付けているようにノックされた。

《あけろ》

と馬渕が言う。

泡を食って『帰れ!帰れ!』と叫んでも、ノックの音はやまない。

それどころか、いっそう激しさを増していく。

《あけろ》

僕が寝ている馬渕を叩き起こすと。

音はぴたりと止んだ。

馬渕の話では、夢などは見てかったとのこと。

他の二人は《酔っぱらっていてよく覚えていない》などという。

だけど、絶対に夢なんかじゃない。

僕だけは下戸で、酒は一滴も入っていなかったのだから。

いたずらでも、誰かの寝言に返事をすることはしないように。

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