中編3
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山の怪談

「あんの山には幽霊が出るってことだ

 道に迷っても声がする方には行っちゃなんねえぞ

 ついていったものはみんな死んでしもうたから」

まだ朝の早いうち、山に登るまえに立ち寄った喫茶店で、私の格好を見た、地元のご老人がこう話しかけてきた

よくある山の怪談のようだ

霧が立ち込め、道に迷ったとき

「おーい、おーい」と声がする

その声を頼りに歩いていくと、

 ガタガタ!

と足を踏み外し、崖下に真っ逆さま

崖から飛び降りた自殺者が、仲間を増やすために声を出している、というような

しかし、今の御時世、そんな幽霊が出るものだろうか?

私は老人に挨拶をする

老人は、今日登るつもりだった山を示してくれた

「この先、右だ、」

私は装備を確認し、山に登り始める

日が少し高くなってきて、ジリジリと肌を照りつける

長袖を着てきてよかった

今日登る山はさほど高くはないが、あまり整備されておらず、

手付かずの自然に近い雰囲気が堪能できる

一応地図は持っているが、道は一本しかないのは確認しているので、あまり取り出す必要もなかった

確かに、山の幽霊や妖怪が出るとしたら、この山はふさわしい

果たして、昼の休憩を取り、午後、下山を始めた頃に、本当に霧が立ち込めてきた

こう、霧が濃いと、コンパスや地図を持っていても、現在地が把握できない

待てば晴れるのだろうか?

足元の道は、道と呼べるか呼べないかギリギリのものであり、むやみに歩き回れば、本当に遭難しかねない

仕方がない、少し見通しが効くようになるまで待つか

私は椅子を出して座った

しばらくすると、私は耳を疑った

 「おーい、おーーい」

霧の中から声がする

幽霊を信じているわけではないが、今朝の話を思い出して、背筋がゾッとした

「おーーい、おーい」

声はだんだんと近づいてくる

声についていかなければいいのだろうか?

それにしても、近づいてきたらどうしたら良い?

私はとっさに木の陰に身を隠した

祖父が言ったことを思い出す

「物の怪は、人の息を嗅ぐ。息を止めておれ」

私は息を止めた。タオルで口を覆う。

「おおい、おーーい」

声はますます近づいてきた。複数の人の気配

草ずれの音、石を踏む音

私は身を低くする

しかし、怖いもの見たさに木の陰から覗いてみた

なんてことはない、警察官だった

複数いるのは、地元の村の人だろうか、

皆同じハッピを着ている

ロープを手にしてはぐれないように歩いていた

「何を探しているんですか?」

私は声をかけた

さっきまで物の怪だと思っていたのがバカらしい

「おーーい、いたぞー」

警察官が声を上げると、10人近い村人が集まってきた

口々によかった、よかったと

私が事情を聞くと警察官は言った

「今朝、店で、独り言をいいなら食事をして

 そのまま自殺の名所の山に一人で登っていったと

 そう言う話を聞いて、村の人と探しに来た」

え?

私が登った山は決して自殺の名所ではない。

調べてきたのだ

しかし、警察官が言った山の名は私が目指していたのとは違っていた

『そこ、右だ、』

そう言った、あの老人

老人と話をしていたのに、喫茶店の店主は『ひとりごと』と

「おーい」と呼ぶ方と逆に行っていたら、私はどうなっていたのだろう

あの老人こそがこの世のものではなかったのだ

Concrete
コメント怖い
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あっ、、怖いも押したでゴザル。

返信

今回も面白いでゴザルな。
毎回楽しみにしているのでこれからも頑張ってほしいでゴザル。

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