中編4
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首里

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新しく小説を書いているのだけれど、

この地球では、

フィクションでは追いつけないほど多くのことが起きていて、

どうすれば現実より酷い展開の物語が創れるのか、

まったくわからないでいる。

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ホラー小説を書こうと、何度も試してみた。

どうしても怖くならない。

ごく僅かながら文学に触れてきたけれど技術が捉えられず、

太宰治と椎名麟三、ドストエフスキーとカート・ヴォネガットによって文体をなんとか捻り出した。

理想は泉鏡花の『外科室』だが、

あんな鮮烈な作品はおそらく、私のゴミみてぇな生涯では一つも書けないだろう。

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さて、最近のニュース。

都内在住の高校生が爆薬を製造し、

さらに放射性物質「アメリシウム」を所持していた。

90年代のオウム事件では歪んだ原理主義集団として動機が与えられていたテロ行為だが、

今回の事件に関わった数名がいったい何を標榜していたかは未だ詳報が無い。

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古くは学生運動で若い運動家によって鉄パイプ爆弾が使用されたり、

あるいはコロンバイン高校銃乱射事件の犯人も日常から手製の火薬を試していた。

またはアメリカ合衆国も、そうしてかつての日本も。

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いつだったか映画のワンシーンを気取って、

灰皿の上で紙切れを燃やしてみたことがある。

それが窓からの風で本棚へゆらりと飛んで、

あやうく火事になりかけた。

慌てて寝床の枕を押しつけ消したけれど、

種田山頭火がやや燃えた。

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ごくあたりまえの事実だが、

火で遊ぶと碌なことに為らない。

またはアメリカ合衆国も、そうしてかつての日本も。

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「武器を手にするとそれを使いたくなる」

これも映画のワンシーンで知った言葉だけれど、

実際に日本刀を手に持った時にそれを実感した。

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日本刀の所持は、

銃砲刀剣類登録証の交付によって許可される。

知り合いに日本刀を幾つも所持している人がいるので、

御自宅にお邪魔して、

試しに一振り、握らせて頂いたことがある。

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鋭く、木の葉のように薄い刀身を想像していたのだが、

実際にはやや包丁に近い厚みで(モノによるだろうけど)、

やはり鉄の塊だけあって重かった。

古の合戦の場に於いて、

日本刀は“斬る”というより“叩く”ものだったと聞いたことがある。

この重みで敵の頭蓋を叩き折るのかと思うと納得できた。

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高校の授業で剣道を少し習っていたので、

その場で、柄を握って中段に構えてみた。

不思議な高揚感に襲われた。

こんなことは、その場にいた人達には口が裂けても言えないが、

ややムラムラしたのは確かだ。

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……誰でも良いから斬ってみたい!

確かに私はあの時、

本当に極々僅かではあったにせよ、

そんな衝動に駆られてしまった。

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世には妖刀の謂われの逸品が在るという。

そんなものは漫画や小説のフィクションかと思っていたけれど、

実際に刀を握ってみると、あながち嘘とは思えなくなってきた。

人を斬らせる刀はきっと、今も誰かに研がれているのだ。

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余談だが、

うちの親父は子供の頃に、

戯れの真剣白刃取りに失敗して指を四本ほど落としている。

けれど、その切断面があまりに綺麗だったために上手く接合されて、

のちにエンジニアとしての彼の人生を支え、

そうして今もその四本は動いている。

嘘みたいでしょ?

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ちなみにその親父は40代の頃に海老名インター付近で横転事故を起こしたけれど、

かすり傷だけで無事だった。

50代の頃には胃潰瘍が破裂して4リットルの出血(およそヒトの総血液量)、

何日間も人工心肺、ICUで意識不明だったのに助かった。

今では減塩味噌汁を飲んでいるらしい。

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私の両親は現在、生まれ故郷の沖縄で過ごしている。

母は信じられないほどに優しくて、

嘘みたいに忍耐強い、この世の誰よりも苦労した、

私にとって給水所のような人だ。

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私が未だ自殺せず生きているのは、

間違いなく母さんのおかげだ。

どれだけの迷惑をかけてきたか全て書くならば、

『カラマーゾフの兄弟』の三倍の厚みが必要になる。

嘘みたいでしょ?

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ちなみに、

私の祖父は沖縄で初めて補聴器を付けた人物である。

天国でも補聴器は要るのかな。

おじぃ、聴こえてる?

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首里城が燃えた翌日、

母から、酷く悲しそうな文面のメールが届いた。

私も酷く悲しい意のメールを返した。

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歴史を鑑みれば、首里城とは琉球の証明でもある。

世界遺産が危機に曝されたというだけの話ではない。

沖縄県民がそもそもは琉球民族であるという象徴の一つが焼かれたのだ。

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聞いたところによると、電気系統のショートが原因らしい。

まだ混沌の最中なので嘘か本当かわからないけれど、

あんな火事で誰も死んだり怪我をしなかったことをまずは喜びたい。

事故なら誰も責められない。

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沖縄には優しい言葉がある。

たとえば「愛しい」は「かなしい」と読む。

その他いろいろ。

呟いたところで何も解決しないけれど、

呟けば少し、救われる。

なんくるないさ。

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