短編2
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来訪者

熊本県。

皆川さんが小学生のころ、自宅の一階にいると。

二階から

《ドスン、バタン、ガタン》

と尋常ではない音が響いてきた。

巨大なハンマーで、壁を殴り付けているような音である。

しかし、そのとき家にいるのは自分と母だけのはずだった。

台所で家事をしていた母に

『二階でへんな音がする』

と言うと

『ああ、仏壇を壊すことにしたから。のむらさんに頼んだの』

と、事もなげに返してきた。

確かに、音が鳴っているのは二階、仏間のあたりである。

あれは、仏壇を破壊している音らしい。

しかし皆川さんの祖父母から受け継いだ家と仏壇であり、父母ともにそれなりには信心もある。そんな話は初耳だった。

なにより、《のむらさん》という名前にまったく聞き覚えがない。

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『のむらさんって、だれ?』

と訊くと

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『のむらさんに頼んでるの。仏壇はもう壊すから』

とまた同じ調子で繰り返した。

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二階の音はだんだんと大きくなり、家自体が揺れはじめるほどになった。

母にもう一度声をかけようとしたが、台所に立つ後ろ姿がいつもとは違う禍々しいものに見える。

皆川さんは家から出て助けを求めようと、玄関へ向かった。

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『ただいま』

そのときちょうど扉が開き、父が帰宅した。

泣きながら父にすがりつき事情を説明、一緒に台所へ向かうと、いつも通りの母が

『なんで泣いてるの』

と呆れて訊いてきた。

母は

《のむらさんなど知らないし、二階から音などしていない》

と主張した。

そもそも、母は何度か皆川さんに話しかけたものの、返事がないので寝ているのだと思っていたーーと、互いの意見が食い違った。

ともかく、例の音はうそのように静まっている。

三人で恐る恐る二階へ上がり様子を確かめたが、部屋はいつも通り。

ただ、仏壇には一ヶ所、強く殴り付けたようにへこんだ箇所があった。

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なぜその日、何者かが仏壇を破壊しにきたのかは判らない。

可能なかぎり調べたが、皆川さんの祖先に《のむら》という姓名は存在していなかったという。

たった一度きりのことである。

Concrete
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