短編2
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跨線橋の上で

二年前に死別した女と、偶然再会した。

ようやく梅雨も明け、新緑の合間を心地よい風が吹き抜けてゆく、初夏の夕暮れどきだった。

場所は日暮里の駅から、谷中の墓地へと抜ける跨線橋の上。

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彼女は水色の欄干にもたれかかり

なかば身を乗り出すようにして、ぼんやり夕日をながめていた。

眼下から吹き上げてくる生ぬるい風に、長い黒髪がたなびいていた。

だいだい色のサマーニットが紅く燃える夕景に溶け込んで

その姿は、半分透けているようにも見えた。

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私は最初、声を掛けるのをためらった。

相手は死人なのだ。

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周囲を見回してみたが他に人影はなかった。

こちらに背を向けているせいで、彼女の表情はうかがえない。

おそらく私の存在には気づいていないだろう。

そっと引き返そうか……。

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この跨線橋は、かつて二人がデートの待ち合わせでよく利用した場所だった。

彼女は、いつもこうやって欄干にもたれかかり

私が来るのを待ちわびていた。

そうだ、もしかすると……。

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今でも自分の死に気づかず、ここで私が来るのを待ちつづけているのかもしれない。

恐ろしいと思う反面、彼女のことがとてもいじらしく感じられた。

このまま、待たせておくのも可哀想だ。

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意を決し、私は恐るおそる声を掛けてみた。

「や、やあ……」

彼女の肩がぴくっと震える。

長い髪がざわりと逆立った。

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ゆっくりとこちらを振り向いたその目が

私の姿をみとめた瞬間、かっと血走った。

口のなかで、舌が別な生き物のようにうねうねと蠢く。

やがてその口から空気が漏れ出し

それは、徐々に甲高い悲鳴へと変わっていった。

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そこで私はようやく思い出す。

死んでいるのは自分のほうだった……。

Concrete
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@りこ-2 様、いつもコメントありがとうございます^^

知り合いにお寺の息子さん(本人は、お坊さんではない)がいるのですが、やはり事故などで急に亡くなったかたは、自分の死に気づいてない場合が多いらしいですね。お寺に招いて、戒名を教えてあげると、たいていは成仏するそうです。自分の死を知ってなお、この世に残ろうとするのは、やはり強烈な未練があってのことなのでしょうね……。

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