長編15
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予測アプリ

俺の1個下の妹…香保は、今はそんなでも無いけど、昔はかなり人見知り激しい子で、今でいうコミュ障だったんだ。

家族以外では、昔から付き合いのある気心知れてる人間じゃないと、あんまし会話出来なかった。人前だとテンパってしまって、喋れなくなる事が子供の頃から結構あったんだ。

性格はいたって優しくて可愛いんだが、そこがちょっと難点で…親父もお袋も「心配だ」ってよく言ってたよ。

それでも勉強の成績だけは良かったから、大学のゼミの先生の助言もあって、まだ就職難だった当時としては、まあまあ良いとこに就職したんだ。(同じ大学通ってて、俺はそのままフリーター生活一直線だったけどなwww)

で、その就職先には香保を含め同期入社が5人(男2人女3人)がいたのだが、その女子の中に安田さんって子がいた(以下安田)。

安田は同期の中で1番社交的で、積極的に自分から関りを持っていくタイプ人だった。仕事も同期の中で一番飲み込みが早く、おまけに口も達者で要領も良いときた。

すぐに上司や先輩社員から「見込みがある」と評価され、半年あった新人研修を上司が早期終了させて、営業部の中でも出世コースと言われていた部署への配属されたのだ。

これは会社としてはかなり異例な事で、期待の新人として、安田は一躍注目の的になったんだとか。

その一方で、香保は知っての通りだったから、研修中もかなり苦労していた。

どちらかと言えば器用だし、勉強もかなり出来るんだけど…会話のやり取りで躓いて、なかなか思うようにいかなかったらしい。

だから入社して暫くは、よく泣き言聞かされてた(俺全然参考にならないのにwww)。

けど、幸い教育係り兼上司が良い人だったそうで、香保はどーにかこーにか3ヵ月の研修を終えたのち、事務に配属になり、他の同期達も総務とか経理とか、まあ総合職的な所に配属された。

…と、入社早々にエリートコースと平凡コースが色濃く別れるみたいな事が起きたのだが、香保達は特に気落ちするとかは無かったそうだ。

と言うのも、そもそも彼らは対抗意識も無ければ、出世欲もさほど無い子達だったんだ。「とりあえずは安定してれば良い」的な感じで、黙々と業務をこなしてる方が得意なタイプ。

だから配属が決まった時、とりあえずは適職に就けて良かったよね!って喜んでて、安田に対しても嫉妬なんか全く無くて、むしろ純粋に「あの子スゴいね!」って話してたそうだ。

で、それからは配属先でひたすら仕事に勤しむ日々が続くのだが…入社から1年が過ぎようとしていた頃、ある事が起きた。

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入社から約1年。香保は業務にもようやく慣れ、忙しく仕事に励んでいた。

同期の皆も同じだったそうで、以前はよく一緒に昼飯行ったり飲み行ったりしてたのだが、そういう交流もほぼ無くなっていた。でも、SNS上では繋がっていて、互いの投稿見たりして、近況は何となく知っていたそうだ。

香保は喋りは不得意だがSNSではわりと饒舌で、気軽に写真や文を投稿出来るとあって、大学生の時に始めてからずっとハマってた。

俺はめんどくさくなってすぐ辞めちゃったんだけど、香保は趣味のコミュニティにも入って色々交流を増やしてた。

オフ会にも率先して足を運んだり、オフ会で会った子達とイベント行ったり…とにかく以前よりも生き生きとしていて、「あんなに引っ込み思案だったのに」と家族みんなで驚いたし、何とか社会に溶け込めてるんだなって安心してた。

そのはずだったのだが…

ある夜、この日は久々の同期飲みって事で帰りが遅かったんだ。午前0時は回ってたと思う。

ちょうど寝ようかって時に帰ってきて、さぞ楽しかったんだろうなって思ってたら、香保の表情がすんごく暗くて、ギョッとした。

もしかして飲み過ぎて具合悪いのか?って最初は思ったんだけど、全然酒臭くないし、そーいや下戸だっけ?って…じゃあ、何だ?と…俺は思わず、どうかしたのかって聞いたんだ。

そしたら香保、すんげえ沈んだ声で、「コミュ障過ぎて、生きてるのがツラい」って…只事ではないって、一瞬で分かったよ。

ちょうど次の日は休みだったし、それに聞き流すなんて出来なかった。俺は、香保に一体何があったのか、詳しく聞いたんだ。

香保曰く…飲み会の始めの方は、同期が集まるのが久々だったから盛り上がって、楽しかったそうだ。…と言っても香保は聞き役で、同期の話に相槌打ちながら過ごしていた。

そうして、他愛ない事を話しながら暫く4人で飲んでいたのだが、後から合流してきた安田が来るなり、一気に場の空気が変わったという。

安田の事は、たまに社内で人伝に話が入ってきて、同期の皆も何となくだが動向を知っていたそうだ。新人ながらも直属の上司からエラく可愛がられていて、仕事も最前線でバリバリこなしている…と。

実際稼ぎが良いのか身なりもだいぶ垢抜けて、ファッション誌のモデルが着てるような、バリキャリOLさながらの出で立ちだったという。まあそれは良いとして…

安田は席に着くなりバタン!と大きい音を立ててカバンを放り投げたり、乱雑にメニューを開いたり、飲み干したビールのグラスをガンッ!と思い切りテーブルに置いたりと…ハッキリと分かる位、かなりイラついた様子だったんだと。

でも、周りがどうしたの?って聞いても「ほらほら~飲もう!」って話を逸らしたので、何故なのか理由が聞けず…だが、その後も安田は苛立った空気を出していたそうだ。

モヤッとした感覚ではあったけど、それでもやっと同期全員揃ったし…って事で、幹事の男子がとりあえず仕切り直そうってなったのだが…その最中。

安田、堰を切ったように話を始めたそうだ。

上司や先輩の愚痴に交えて、ビジネスがなんたらプロジェクトがうんたらとか…?とにかく専門用語の多い、難しい話だったらしい。

それをいきなり、すごい勢いで語り始め、突然の事でみんな( ゚д゚)ポカーンとしていたそうだ。

安田はそんな周りをよそに延々と話を続け、そしてひとしきり喋り倒すと…今度は何故か香保に向かって「あなたならどう考える?」「あなたの見解は?」と、いきなり疑問を投げて来たんだと。

突然ガーッとビジネスの話をされて、しかも意見を求められたことに、香保はあっけにとられ固まってしまったという。…まあ、当然だよな。

でも、安田はすごく真剣な表情で聞いてきたそうで、ちゃんと答えないと…と、必死に色々考えた。そうして何とか、至極まっとうな意見を考え付いたのだが…知っての通り香保は喋りが苦手。

伝えようにも言葉が上手く見つからず…しどろもどろになってしまったそうだ。

再び( ゚д゚)ポカーンとする周囲…それでも、「何となく言いたいことは分かる」的な反応ではあったらしい。

…だが、安田は話を聞くなり、

「あなたさあ…一体何を言ってるの?」…と言うなり、次々と厳しい言葉を香保に投げ付けてきたという。

以下、香保が覚えている限りのもので、

「そんな会話力でよく仕事出来るわね?」

「聞き役って楽よね?そんなんで世の中渡れると本気で思ってる?」

「ほんとあなたってクズよね?コミュ障だかなんだか知らないけど、甘えてる!」

…と。しかも、安田は口調がハキハキズバズバしているのだが、この時はさらにキツい口調だったそうだ。

「…マジで?」

俺は信じられなかった。クズって…なんでそこまで言えるんだ?イライラしてるにしても、ここまで言われる筋合いはないはずだぞ?

気が付くと香保はボロボロ泣いていた。自覚がある分、他人からハッキリと言われて、情けないし恥ずかしいって。

香保は、安田から散々に言われるのが耐えられず、そのまま店を飛び出して帰ってきたそうだ。安田はその間、香保が店を出る間際まで色々言って来たという。「逃げるなんて弱虫だ」…とか何とか。

さっきから香保のスマホが鳴っているのは、恐らく同期の誰かからだろうと、何となく察しは着いた。

だが、ぐったりとうなだれた香保には、もう電話を取る余力は全く残っていなかった。

俺は勤め先が同じじゃないし、会社の中の事も知らん。だが、今まで香保から聞いてきた限りでは、安田は「新入社員の中で1人だけ、ズバ抜けて仕事が出来る人」ってだけだったのだが…

とにかく俺も混乱したし、香保はボロボロだった。休みの間、何故?って色々考えたけど、香保の方から何かした訳でも無いし…そもそも部署のあるフロアが違ってて、会う事自体が1年振り。

SNSを見させて貰ってもトラブった形跡も全然無かったし、何が原因だったのか…結局何の理由も分からないまま時間が過ぎた。

その後安田とは、飲み会を境にまた疎遠になったという。お互い関わる事も、向こうから何か仕掛けてくるとかも全くない無いそうだ。

同期も飲み会の後からずっと、色々と心配して気に掛けてくれていたそうで、少し安心した。

だけど、だいぶ深く刺さってしまったんだろうな…香保は、昔の感じに戻りつつあったんだ。心を閉ざしがちな、人前で喋ることに恐れを持っていた頃に。

SNSの投稿も、友人との交流もいつの間にか止めてしまって、一時期見せていた生き生きとした表情が段々と減っていってしまった…

だが…それから半年が過ぎた頃だ。

バイトから帰ると、家の前に誰かが立っているのが見えた。不審者か!?って思って様子を伺ってたら、向こうが気づいて挨拶してきた。俺や香保より少し年上の女性で、首から見覚えのある紋章の社員カードを下げていた。

彼女は、香保が勤めるの会社の営業部の社員で、安田の「元先輩」だった。

安田は、いつの間にか会社を辞めていたのだ。

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安田の元先輩…山野さんは、ご丁寧に菓子折り持参で俺達の家に訪ねて来た。香保にはアポを取っていて、入るなり香保が色々と対応してくれた。

外見からして、とてもおしとやか…というか、大人しそうな女性だった。山野さんは、リビングの椅子に座るなり、俺達に謝罪してきた。

突然の事で俺は「?」だったが、香保は「あなたのせいじゃありませんから…」と、山野さんの事情は知るものの、困惑気味だった。

そもそも、何故家まで直々に謝罪に来たのかが俺には疑問だった。だが…山野さん曰く、「元々は私の安易な考えで…あの子の為だと思ったのがいけなかった…」と。

そして、一体何が起きたのか…何故安田は辞めたのか、その経緯を教えてくれた。

山野さんは、安田が配属されて早々に教育係を任された。噂に聞いていただけあって、安田は意欲と気力に溢れ、今時の若者には珍しい出世欲も兼ね備えているとあって、かなりの期待株だったという。

しかし、研修と実務では作法は色々と違ってくるとあって、山野さんは業務の取説を作って指導にあたろうと考えていたそうだ。だが…

「わざわざ教えてもらわなくても出来ますから」

「このやり方効率悪くありません?」

「その業務、私がやるんで先輩は見てて下さい」

…と、取説を無視し、指導を突っぱねてばかりで、かなり手を焼いたのだという。

堪らず上司に言っても「まあ根気良く」としか言われず…だがその間も安田は、覚えるべき順序を破り、2人で役割分担されていた業務を「私の方が早いから」と全部取り、更に部署内の雑談中も、さりげなく山野さんを弾き出すような事までしていたという。

上司から可愛がられているとあって、かなり暴走気味だったそうだ。

しかし、「私の方が出来る」と言うものの…中身はなかなか雑だったという。作ったデータは順序や何やらごちゃごちゃ、会議用の書類もホチキス止めがガタガタ、折り目もぐちゃぐちゃ…おまけに他部署への業務依頼も「ちょっとやっといてくれる~?」等々…。

とにかく、お世辞にも良い仕事ぶりでは無かったそうだ。

それなのに、上司から叱責を受けるのは山野さんだった。「指導不行き届き」と…新人の管理が出来ていないと言われてた…と。

いやいや、ここまでされたら俺キレてるわ…ってレベルの暴走っぷりでマジで引いた。香保も、内情がそんなだったと初めて知ったようで唖然としていた。

で、そんな暴走に振り回されること2ヵ月…山野さんはある事に気付いたそうだ。

この話が5年前なんだが、ちょうど時期を同じくして、女子の間であるアプリが活用され始めた。

生理予測アプリってやつ。

俺は当時の彼女(今の嫁)から聞いて初めて知ったんだが、生理の前後やそれ以外のホルモンバランス何かが分かる、女子向けの体調管理系アプリだ。

今はだいぶ普及して俺も見慣れたけど、一寸前まではそんなんあるんか!?とビックリしたし、…それ以前に生理云々とかの知識が全然無くて、よく彼女(今の嫁)と喧嘩になったな…

俺の彼女曰く、生理自体もキツいけど、ほんとは生理前がいちばんツラいんだと。まあそんな感じはいつもしてた。

突然イライラピリピリメソメソ…精神的に不安定になって、自分でも上手くコントロール出来なくなるんだって。

しかもそれが、仕事にもプライベートにもかなり影響されてしまう…更にツラいのが、それを理由に休んだり、言い訳が出来ないってことだ。

当時はまだまだ女性社員の生理休暇って少なくて、生理そのものにも理解が無かったりで、いま思うと色々大変だったんだな…。

それでも、アプリが出来た事で自分の体調が把握しやすくなって、旅行やなんかの計画をたてるのに役立てたり出来たそうだ。

で、話を戻すと…山野さんは安田が時折、かなり不機嫌になることがある…と気付き始めた。

突然口調がキツくなったり(すれ違い様にキッツーい言葉言われたんだとか)、目付きや表情がいつになくピリピリしていたり…

それでふと、以前トイレで「実は生理来てて…」と安田から言われたのを思い出して、そのアプリを使ってこっそり時期を計算したそうだ。そして、その結果…生理前の情緒不安定な症状が出る時期とバッチリ被ったのだ。

だが、肝心の本人にその自覚が無く…どう対応すべきか悩んでいる間に仕事も忙しくなり、気が付くと入社から半年経ってしまっていたそうだ。

もうこの頃の安田は暴走が更にエスカレートして、山野さんに楯突くだけでなく、上司にまで「業務方針が云々」と、口論を仕掛ける程だったそうだ。

部署内でも「あれはねーよな(笑)」と口々に安田を邪険扱いし、上司も頭を抱えるようなっていた。

部署の雰囲気も段々と悪くなり始め、山野さんは流石に危ないと踏ん切りが付き、腹を括って安田を会議室に呼び出したそうだ。

安田は最初こそ、「あなたに話す事なんて無い!」という態度だったのだが、アプリを見せ、生理前の症状に理解がある事を伝えた途端、エンエンと泣き始めたという。そして、「生理を理由に舐められたくない…」と、ようやく色々話してくれたそうだ。

そして山野さんは、安田の話を全て聞いた上で、「今のあなたは自分が見えていない」と懇々と説得し、その場でアプリをダウンロードさせ、体調管理の徹底を指示したのだという。

すると、アプリ作戦(笑)が巧を奏したのか、暫くすると苛ついた態度も落ち着き、仕事も以前より丁寧になったそうだ。

が…

「彼女…最後の最後まで私を信用してなかったのね」山野さんの声が、急にか細くなった。

そう、ひとまず一件落着かと思えたそのまた半年後…例の同期飲み事件が起きたのだ。

「佐久田さん…あなたもアプリ、使ってる?」

山野さんは一通り部署での事を話した後、香保にそう訪ねた。香保は一瞬俺の方をチラッと見た後、無言で頷いた。すると山野さんはカバンからスマホを取り出して、

「じゃあ…これ、見てくれる?」

と、ある写真を俺達の前に見せた。

そしたら…

「…ぇ…!?」

画面を見た途端、香保が突然、声にならない悲鳴を上げた。

山野さん曰く、写真は安田のスマホ画面を隠し撮りしたもので、生理予測アプリの画面を幾つか写真に納めたものだった。

「何で…なんで安田さん…」

「やっぱり…お兄さん、こういう話、ちょっと抵抗あると思うけど…聞いて?

安田さん、このアプリに佐久田さんのプロフィールを入力してたの。飲み会の時の、妹さんに対する発言は、全て計算済み…彼女の体調を知っての事だったのよ」

俺は抵抗感を抑えて、画面を覗いた。

するとそこには…確かに香保の生年月日と、更に香保の名前まで登録されていた。

「あの、え…?えーっと…これって…」

「生理前…個人差はあるけど、女性は情緒不安定になるの。飲み会の時、妹さんは正にそういう時期だった…普段は気にならない言葉にも、ナイーブになるのよ。安田さんはそれを知ってて…ほんと、あの子何なの…!」山野さんは、そう言葉を詰まらせた。

要約すると、安田はアプリに香保のプロフィールを入力し、飲み会の際、香保が生理前で情緒不安定な筈だと踏んで、わざと(いや本音かも知れんが)酷い言葉を浴びせ、精神的に追い詰めようとした…って訳らしい。だが、分からない事がある。

「え、だって私…生理の事なんて、同期に話した事…1回も無いです…でも、これ…生理の時期も…身長も体重も…全部合ってる…!?何で知ってるの!?」

そう、名前や生年月日は社内のリストで調べられるかも知れないが…身長体重、それに、前回の生理が来た日程…安田は一体、どうやって知ったんだ?

途端に、背筋に何か冷たいものが走った。

女は陰湿だって良く聞くけど…まさかこんな手段で!?怖ぇ…

てか、そんなの聞いたらもはや、香保が心配すぎて、安田の辞めた理由とかもうどうでも良かった。

と言うより、安田を小一時間問い詰めたい…土下座させたろか?って、マジで思ったよ。

…だが、安田は今、誰とも連絡が付かない状況だった。「退職した」のでは無く、突然職場に来なくなり、音信不通になって「解雇処分」になっていたのだ。

山野さんは、安田の事で何か知らないか?と、それもあってわざわざ家まで訪ねて来たのだ。

しかも、安田の辞めた理由はこのアプリに関係するものだと考えていて、根拠もちゃんとあるようだった。

山野さんはそのまま画面をスライドさせて、別の画像を見せた。

そこには、安田のSNSでの投稿ページが載っていたのだが、コメント欄を見てまた衝撃を受けた。

安田が投稿した、これと言って大したことの無い写真や呟きに対して一方的な罵詈雑言、卑猥な誹謗中傷…意地汚いコメントが、かなり大量に書き込まれていた。

「今回の妹さんに対する行いは許すべきじゃないし、必ず見つけて謝罪させる。けど、安田さんもまた、誰かの被害を受けていた…それを調べているの。勿論警察の手を借りてね」

安田のスマホは、物的証拠として警察が捜査のために回収したそうだ。そして、安田の家族によって、今現在、捜索願いが出されているという。

結局香保は、思い付く限りの事は全て、些細な事も思い出したが「直接的な理由は分からない」と答えた。希望は薄いかも知れないが一応被害届は出す事になり、ひとまず事の進展を待つ事になった。

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結末は、呆気なくカタが付いた。

安田は恋人だという男の家に隠れていた。

男ってのは、趣味でハッカーしてる奴で、都内の某クラブでたまたま仲良くなったそうだ。それで、安田は男に、ある時酔った勢いで、色んな人の個人情報をハッキングさせて遊んでいたそうだ。

で…その「遊び」の中に、香保がいた訳だ。

警察での取り調べで、安田は香保の事を密かに羨ましいと思っていた、と供述したという。

安田は本当は営業部よりも、香保や他の同期が配属されているような、目立たない部署に行きたかったそうだ…そんなん今更言われても、こじつけにしか聞こえないんだが(笑)

更に、香保や山野さんの様な、しおらしい感じに憧れと嫉妬があって、当たってしまった…と。生理アプリを使って口撃してたのは、そのためだったそうだ。…アホらし、バカだろ安田www

で、恋人だっていうハッカー、安田のSNSに悪口書きまくってた張本人だった。

安田の思い付きに嫌気が差して、複数アカウント使って口撃したんだと。それも、生理アプリで生理前の時期を計算して。

ハッカーは逮捕されて、安田も幇助で警察連れてかれた。因果応報だよな。

それから、俺達や山野さん、会社で安田と関わりのあった人達も色々聴取受けて、まあ大変だった…あんなのは、2度と体験したくねぇよ。

香保はその後も、その会社で地道に働いてる。他の同期は寿退社とか異動とか…?まあ残ってるみたい。大したもんだ。

何より、またコミュニティ繋がりの友人と、生き生きと行動するようになったから、俺的にはハッピーエンドなんだけど。

まあでも、思い出してこう、文にするとさ…人間って、こんなにも浅はかな理由で暴挙に出るんだな…てか、本当に人間は…女は怖ぇよ。

5年経ってほとぼりの醒めた今だからこそ、「目に見えないホルモンとやらのもたらした、とんだ災難だった」と言えるけどさ…。

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