中編3
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ひとり多い

弟は視えるらしい。

弟が自分からそのことを話すことはないが、弟の嫁、つまり義妹がそう、話す。

弟家族が私の実家の母屋に引っ越してくる前に住んでいた家での話である。

その家は、弟の長男が生まれた年に中古物件で購入した。

閑静な、比較的新しく作られた住宅街の中にあり、前の住人が庭造りに凝っていたのか、小さいながらちょっとした築山に小ぶりな松の木が植えてあり、庭石を囲むように様々な植物が植えてあった。

家の中もカウンターキッチンで区切られたダイニングとリヴィングがあり、アパート住まいの私からはとても羨ましく思えた。

二階にも部屋が四部屋あり、そのうちの一部屋は必要に応じて二部屋にできるという。

「それで、この家はだいじょうぶなの?」

視えるという弟にはこの家でなにも視ていないのか、義妹に訊くと

「なんにも言わないんですよね」

という。

「でも」

と義妹が続ける。

「ここの階段、十三段なんですよ」

通常、階段を十三段にすることはないのだという。

「数えたんですよ」

と義妹が言う。

十三段あるのだという。

その階段は四段ほど登ったところでL字に曲がりさらに上に階段が続くという作りになっている。その階段を、降りてくるときも昇るときも、途中のある場所がひんやりとするのだという。

私は背中がひんやりとする。

弟の子供達は二つ違いで男の子が三人おり、下の二人は双子である。

私の子供達と上も下も同じ年なので、子供達はいとこ同士仲が良い。

子供達が幼稚園の頃だったと思う。

うちの娘が義妹の家に泊まりに行った。

子供達四人でお風呂に入った。

上がった順からバスタオルで体を拭き、リヴィングで待ち構えている義妹のところに行って、さらに髪の毛を拭いてもらい、下着を渡される。

「お風呂あがった~~」

という声と、走ってくる「バタバタバタ・・・」という音のセットが四回聞こえ、みんな上がったと思った時。

バタバタバタ・・・・

もう一人分の足音がしたのだという。

義妹は子供達の数を数えた。リヴィングには楽しそうにはしゃぎながらパジャマを着ようとしている子供達が四人いる。

「ひとり、多かったんですよ」

次の日、娘を迎えに行った私に、義妹は話してくれた。

その弟の家には猫が一匹いた。

子供達の夏休みに、弟家族が義妹の実家へ帰省するというので、その間、猫のごはんとトイレの掃除に私が通うことになった。

猫はとても人見知りをする猫で、私がいる間は上手に姿を隠してしまう。

私は猫を驚かさないように、そっと動き、ご飯の食器を洗い新しいフードを開ける。キッチンとリヴィングを行ったり来たりしているだけだが、リヴィングに置いてあるソファの横を通る時、右目の端にそこに何かが座っているように思えるのだ。

ちらっとそこを見ると、特に何もない。ソファの上に、弟が寝枕にでもするのであろう座布団が一枚置いてあるだけである。

気のせい気のせい・・・

とまた、ソファの横を通るのだが、目の端に、ソファにこしかけるなにかがうつる。

じっと見てみる。

私にはなにも視えない。

猫はどこにいるのか、鳴き声ひとつ、体をそっと動かすような音さえも聞こえない。

義妹が帰省している五日間、毎日通い、猫にフードをあけ、トイレを掃除した。

ソファは目に入れないようにした。

とうとう猫の姿を見ることはなかった。

「お世話になりました~」

と義妹がお土産を持って挨拶に来てくれた。

「だいじょぶでしたか?」

と訊く義妹に

「だいじょうぶだったよ」と私は応えた。

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