中編4
  • 表示切替
  • 使い方

夜中の道案内

これは自分が去年元旦に経験した話。

nextpage

夜中2時ごろ、家の前で俺はいつものように一服していた。その時、誰かが引くキャリーケースの音が家に近づいてきていることに気づいた。

nextpage

帰省だろうか?夜中ということもあり多少うるさかったが、これから正月ということもあり、何も珍しいことではない。

nextpage

俺はたばこの煙がなるべくその人に当たらないよう気遣うつもりで自分の家のドアの方を向いた。すると家の前で音が止まった。

nextpage

正直この時間に家の前で止まられると焦る。何か用だろうかと振り返ると、

nextpage

「あの〜すいません。この辺に○○幼稚園ってありますか」と柔らかな表情を浮かべた30代半ばほどの女性が立っていた。服装も不審な点はなく至って普通の女性だった。

nextpage

なんだ、ただ道がわからなかっただけか。彼女が求めている幼稚園は確かにこの近所にあった。

nextpage

俺は道を教えてあげるとその女性は丁寧にお礼を言って去っていった。「今となればこんな時間に幼稚園に何の用だ」との疑問は残るのだがその日は何事もなかった。

nextpage

翌日、夜中の2時ごろまたキャリーケースの音が聞こえてきた。

nextpage

何故か昨日と同じ服をきたあの女性だった。

nextpage

「あの〜すいません。この辺に○○幼稚園ってありますか?」

と全く同じ質問を柔らかな表情でしてきた。

nextpage

少し変に思ったが、

「昨日教えたと思うんですけど、もしかして見つかりませんでしたか?」

と聞くと、

nextpage

「そうなの。ごめんなさいね。方向音痴で」とにこやかにその女性は言った。

nextpage

見た目は至って怪しいところはないので、それなら申し訳ないことをしたなと俺は思い、今度はジェスチャー付きでわかりやすく教えてあげようとその女性に近づいた。

nextpage

昨日はあまり近寄って話さなかったので気づかなかったが、酷い匂いだ。言っちゃ悪いが駅のホームを寝床にしているホームレスの横を通った時にふと感じる匂いだろうか。服の汚れは目立たないが正直体臭がきつかった。

nextpage

露骨に失礼のないようにしながらも俺はなるべく遠くからその女性にジェスチャーで道を教えてあげた。

すると

nextpage

「ごめんなさいね。よくわからないから案内してくれませんか?」とニコニコしながらいってきた。

nextpage

何となく恐怖を感じた俺は適当に理由をつけて忙しいからと断って家に戻った。なにかよくわからないがとにかく気持ち悪いと感じた。

nextpage

翌日嫌な予感がしていた俺は、わざと時間をずらし夜中の1時半ごろにたばこを吸うために外に出た。

nextpage

ガラガラ

ガラガラ

まただ。またあいつが来た。

nextpage

「ねえ、○○幼稚園知りませんか?」

女はまた同じ服を着ていた。それよりもおかしい、キャリーケースの音が聞こえ始めた途端俺は家に戻ろうとしたはずだ。

nextpage

音が聞こえ始めてから家の前にくるのが早すぎる。

色々考えてパニックになっていると

nextpage

「ごめんなさいね。教えてもらってもわからないから道案内してくれませんか?」

にっこりと女が言ってきた。

nextpage

すると、これは今でもわからないのだが、

「分かりました」

俺はそう口にしていた。

nextpage

勝手に言わされたとか、取り憑かれたとかいうのは俺は絶対に信じないたちなのだが、何故だろうか、

よくわからないが俺はそう口にしていた。酷く自然に。

nextpage

俺はその女と一緒に歩いていた。意識ははっきりしている。ただ、身体は自分のものではないように、動いていく。だが感覚がないわけではない。

nextpage

自分自信が怖くなってきたが、何よりその女と共に歩いているということが怖くてたまらなかった。

nextpage

幼稚園に続く道を歩いているのは確かだった。歩いている間女は、ひっきりなしに

nextpage

ごめんなさいねえ。ごめんなさいねえ。

nextpage

と言っていた。

nextpage

ガラガラガラガラ。キャリーケースの音がうるさい。

nextpage

一刻も早く逃げ出したい。その一心で歩いていると幼稚園の前に着いた。

nextpage

その瞬間身体が楽になり、いつもどおりの自分の身体に戻った。

早く逃げ出さないと、早く、

nextpage

shake

「ここじゃないのおおおおお!!○○幼稚園はどこおおおお!!

shake

りゅうちゃんのいる○○幼稚園はどこおおおおおおお!!!」

nextpage

いきなり女が発狂しだした。

nextpage

全速力で俺は走った。途中、様子をおかしく思った男性にどうしました?と話かけられても、

nextpage

逃げてください!とにかくここから離れた方がいい!

と叫んで、とにかく家まで駆け込んだ。

nextpage

そのあとは情けなくも、怖くてたまらなくて布団で丸くなっていた。あれはなんなんだろう。

nextpage

見た目は普通だし霊とは思えない。だけど、人間にしてはあまりにも奇妙だ。狂ってる。なんで同じ服着てるんだ。キャリーケース引く必要ないだろ、あらゆる疑問が頭の中をよぎった。

nextpage

当然その日は一睡もできなく、翌日朝人が増えてくる時間帯を見計らって、警察に連日の出来事を報告しに行った。

nextpage

あれから、女は家の前には来なくなったし、警察からも何の音沙汰もない。だが、

nextpage

キャリーケースの音を聞くだけで、未だに身体が震えてしまう。もう二度とこんな経験はごめんだ。

Concrete
コメント怖い
3
7
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信