短編2
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白いモノ

てんぐさん事件からさほど日が過ぎていない頃のことだったと思う。

その日はめずらしく夜夫が早く帰ってきていた。

私が子供達をお風呂に入れ、頭と体を洗い終わった順から子供達を夫に渡していった。

最後に私が上がり、その時夫は体を拭き終わった息子に寝室でパジャマを着せていた。

私がそばに行くと、息子が寝室の押し入れを指さし、

「あれ~~あれ~~」

と私に言う。

な~に?と笑いかける私に、息子はまた押し入れを見て、その後私を見て

「あれ~~」

と言う。

押し入れは中が二段になっていてふすまで閉じられている、よくあるデザインのものである。

その時、押し入れは閉じられていた。

押し入れが開いているのならば、中に入っている物の何かを指さしているのだとわかるが、息子が指さす先には閉じられた押し入れしかない。

なんだろうと思う私を残し、夫が息子をリヴィングに連れて行ってしまった。

何を言いたかったのかわからずじまいだった。

その夜の、確か二日後くらいのことだ。

寝室には、ダブルサイズのベッドを、頭が押し入れの方を向く形で置いてあり、そのベッドに私と娘と息子の三人で寝ていた。

息子がすぐに寝入り、娘も目を閉じていたのだが、急に娘が

「あのね、ママ」

と話し出した。

「なあに?」

と話を促すと

「この前、ここに白い女の人がいたの」

と言う。

こことは?

「ここって、どこ?」

と訊くと

「押し入れのところ」

と言う。

ぞわっと怖気が走る。

「いつ?」

つたない娘の話を整理していくと、どうやらその日とは、息子が

「あれ~」

と押し入れを指さした夜のことだとわかった。

「その白い女の人は、まだ、いるの?」

と訊くと、もういないと言う。

「どんな人だったか覚えてる?」

つい私は訊いてしまう。

娘は目を閉じながら、「白い女の人」と言った。

その「白い女の人」は押し入れの前に座っていて、しばらくすると寝室を出て玄関の方へ歩いていったのだと言う。

「どうしてすぐにお話してくれなかったの?」

と訊くと

「ママ、怖いって思うかなと思って」

と言う。

「あなたは怖くなかったの?」

「ママが一緒だったから怖くなかった」

気づかず寝ていたのは私だけか。

寝ている私のベッドと押し入れの狭い間にその女性が座っていたと、そういうことか。

あの頃、いったいうちにはなにがいたというのだろう。

今なら子供達もそれらを上手に描写し説明できるだろうに、肝心の記憶がないのだから、なんともはがゆいものである。

Concrete
コメント怖い
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@りこ-2さま
いつもコメントありがとうございます。子供達のアレルギーは大きくなるにつれておさまってきたのです。居る時に居ると言われても、どうしようもないですからね~(^^;)
居たと言われてもどうしようもないのですが・・・(^^;)

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@達磨 さま
幼い子供のつたない説明は、聞いているこちらの想像力を掻き立ててしまうのです(^^;)
「白い女の人」とは着ている服が白かったのか女性の体も白かったのか、いったい何が白かったのか、当時三歳の娘にあまり詰問するわけにもいかず・・・。
座っていたというのも、どんな風に座っていたのか、私の頭の中でイメージが膨らみそれがまた恐怖を大きくさせました(^^;)

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@かがり いずみ さま
あの頃は、息子の「あれ~」がちょっと怖かったです(^^;)
子供達にしか見えないものを「あれ~」と指さすのはもう、ありませんでしたが・・・

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@りこ-2 さま
子供達はもう、なにも視えないようです。時々娘が金縛りにあうとは話してますが、その時はなにかがすぅ~と娘の頭の横に座るそうで、そうすると金縛りがとけるようです。当時、子供達が二人ともアレルギーがあった為、念の為にと猫達の居住場所を限定しておりました。今は家中自由に歩き回ってますので、妙な「なにか」がいれば猫達が感知してくれるかな~などと思っておりますが・・・(^^;)

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子供がママに気を使ってたんですね
あとから聞きいたというのがまた怖いですね

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