長編11
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逢魔時

お昼過ぎに楓と葵を連れて裏通りを散歩していた

初夏の心地よい風が頬を伝わっていった

あちらこちらで散歩をしている人の多いこと

やっとジメジメした梅雨が終わったからなのかな

2人の娘はおしゃべりをしながら歩いていた

「パパ!!今日はお散歩する人が多いね」

「多いんだぞ」

「今日は少し頑張って裏山の頂上まで行こうね」

「うん!!」

家から近くにある裏山

たまに写真撮影をする場所だ

四季折々の顔を見せてくれる

子供時代は4人でよく遊んだ

ゆっくりと時間をかけて頂上まで歩いた

この頂上からは自分の住んでいる町全体が見渡せる

心地よい風が頬を撫でていく

さすがに頂上は私たちしかいなかった

頂上は何もないからね

あるとすれば360度の景色だけ

娘たちは勝手にはしゃぎまわっていた

ベンチに座りボケッーとしていたらウトウトと眠気が襲ってきた

子供たちの声が聞こえなくなった

寝てしまったようだ

「パパ!!起きて!!もう帰ろうよ」と楓の声で目を覚ました

2時間ほど寝たようだ

時計を見たら午後4時過ぎだった

「そうだね、そろそろ帰ろう」

「帰るんだぞ」

帰りもゆっくりと歩いた

やっとこさ神社のところまで歩いてきた

時計を見たら午後5時過ぎになっていた

これは・・まずいな・・・早く神社から離れないとな

昔、小学生の時に4人で山の頂上で遊んでいて下山をしたのが遅かったために神社あたりへ来た時にはもう午後6時を過ぎていた

ここで少し休憩しようと神社の中へ入っていった

その時に遠くから声が聞こえてきた

「おい!!おまえら神社へ行くな!!早くそこから離れろ!!」

その声はオヤジだった

オヤジが心配して探しに来てくれた

「あ!!パパ

お兄ちゃん!!パパだよ」と小さな声でF子が指をさした

私たちは慌ててオヤジの方へ走った

「おまえら・・・これからの時間帯は絶対に神社へ行くなよ

逢魔時といって非常に危険なんだぞ

化け物が神社の中へ入ってくるんだ

化け物を見た者は死ぬんだぞ」とオヤジは真顔な顔をして話してくれた

まぁ・・・当時としては何を言っているのかわからなかった

それ以来夕方以降は神社へなるべく近寄らないようにしている

「休憩をしたいけど早くここから離れようね」

「パパ!!少し休みたいんだぞ」と葵が訴えてきた

「もう少し神社から離れてから休もうよ」

「あたち・・・足が痛いんだぞ!!」

結構歩いたからな・・・無理もない

仕方ない・・・神社から少し離れた広場のところで休憩をした

娘たちに私が小さいときの思い出を話した

「ええ・・・そうなんだ、パパ、怖いよ!」

「怖いんだぞ!!でも足が痛いんだぞ」

神社から20メートル位離れているから大丈夫だろう

「パパ・・なんか・・・神社の方から・・誰かに見られてるような気がするよ」と楓が神社の方を見て話しかけてきた

「見られてる?・・・やばいな・・・早く行こう」

「パパ・・・なんか足が重いんだぞ・・・」と葵が自分の足元をさすっていた

「え・・・大丈夫?・・」

「あんまし・・・なんだぞ」

なんかやばい状況だ

「楓!!!どうした?」

楓が急に神社の方へ走り出した

「パパ・・誰かが助けを求めてるよ、助けなきゃ」

「え!?・・・ダメだ!!行っちゃダメだ!!」

私は葵を背負って楓を追いかけた

3人とも・・・神社の中へ入ってしまった

「なんでこった・・・」

「ええ・・・私・・・どうして・・・パパ!!」

「入っちゃったな・・・とりかえずは鳥居まで行こう」

「うん」

((ミタナ!!ミタナ!!ココカラダサンゾ))

「え!?・・なに?パパ、何か聞こえたよ」

「パパも聞こえた」

「あたちも」

「パパ!!あれ!?何かがいるよ」

楓が指をさしたほうを見ると何やら黒い影がユラユラと動いていた

「ダメだ!見ちゃダメ、葵、楓、目を閉じろ」

「うん!!!」

((オカシイナ・・・オイシイニンゲンノニオイガシタノニナ・・・ケケケケ

クンクン・・・))

「パパ」

「しっ!静かに」

((ココラヘン・・・クククク・・・チカイゾチカイゾ・・・ケケケケ))

私はゆっくりと葵と楓の手を握って目を細めながら鳥居まで歩いた

「静かに・・目を閉じてパパの手を離しちゃだめだよ」と小さな声で葵と楓に言った

((ニンゲンノニオイガスルゾ・・・オカシイナ・・・))

((ヒサシブリニニンゲンガクエルカトオモッタノニナ・・・ケッケツケッ))

私は静かにゆっくりと歩いた

突然、カラスの大きな鳴き声に楓が驚いて声を出してしまった

「キャッ!!」

「楓!!」

((イタゾイタゾ、ニンゲンノコドモダネ・・・ウッスラトシカミエナイネ、オカシイネ))

うっすら・・・もしや・・・お守りが効いているのか

もう少しで鳥居に着く

((オヤオヤ・・・サンニンダネ・・・オイシソウダネ・・・))

見つかったか!?

「やばい・・・楓、葵、パパ、走るからな、手を離しちゃだめだぞ」

「うん!!」

「わかったんだぞ」

私は目を開けて娘2人の手を強く握って鳥居まで猛ダッシュで走った

鳥居のすぐ傍で葵が転んでしまった

「パパ、痛いんだぞ」と葵の悲痛な声

((ケケッケエ!!!イターーーーイタゾーーミンナ!!コドモダゾ!!タベチャエーー))

わたしは咄嗟に楓を抱えて鳥居の外へ置き

すぐに葵の元へ駆け寄り葵を背負っておもっきし走った

ものすごい数の影が葵を目かけて追いかけてきた

もう心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど全速力で鳥居の下をくくった

黒い影は鳥居のところまで来てユラユラとゆらめいていた

((クククク・・・モウスコシダッタノニ・・・ザンネン・・・))

((ザンネン・・・ザンネン・・・ケケケケケ))

((オナカスイテイタノニナ・・・))

((ワタシャ300ネンカンモニンゲンヲタベテナイゾェ))

鳥居の向こう側から複数の不気味な声が響いていた

「助かった・・・」

「パパ・・・」

「葵、転んだところ痛くないか?」

「痛いんだぞ・・パパ」

私は娘2人の手を引っ張って神社から急いで逃げ出した

「もうここらへんなら大丈夫だろ」

「うん!!」

「葵、あぁ・・・血が出てるな・・・パパの背中に乗ろうか」

「うん!!パパ」

あたりはもう真っ暗

腕時計を見たらもう午後8時を過ぎでいた

「え!もう、夜の8時かぁ・・・」

そんなに時間が過ぎていた

感覚的に30分の時間かと思っていた

遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた

「おーーい!!」

オヤジの声だ

「おい!!ここにいたか!探し回ったんだぞ」

「じいちゃ!!」

「おおお、楓ちゃんに葵ちゃん・・・あれ、葵ちゃんの足、血が出てるぞ、どうした?」

オヤジに今さっきの出来事を話した

「だから!言ったろ!午後5時過ぎに神社あたりをうろつくなって!

その黒い影は魔界の者だろう

もう少しで奴らのエサになるところだったんだぞ」

「ごめん・・・オヤジ」

「とりあえず帰ろう!!みんな待ってるぞ」

「じっちゃ・・・ごめんね」

ようやく家に着いた

「パパたち、どこに行ってたの?心配したんだぞ」とS子の大きな声が響いた

「ママ・・・ごめんね」と楓は頭を下げた

「あたち・・・足が痛いんだぞ」と葵は座り込んでしまった

「あっ・・血が出てるんだぞ、お風呂場へ行こうね、葵ちゃん」

「うん、ママ」

葵はS子と一緒にお風呂場へ行った

リビングでは私たちの帰りが遅いので心配してたようだ

「おやおや・・・遅かったね・・・さぁさぁ楓ちゃん、夕食をお食べなさい」とおふくろは楓に夕食を持ってきた

「F!!・・ちゃんと遅くなるのなら連絡しないとね!小さい子がいるんだよ」とおふくろから注意された

私たち3人は遅い夕食をはじめた

みんなに今日の出来ことを楓がおしゃべりをした

「F!!あとで私のところへ来なさい」とおふくろから言われた

もちろん1時間ほど説教をくらった

心配そうに楓と葵は廊下で待っててくれた

オヤジほどの説教じゃなかったけれど結構重い話を聞かされた

「パパ!!大丈夫?」と楓が私の顔を見て話しかけてきた

「大丈夫だよ、ばあちゃんから少しだけ怒られただけだよ」

「そっかぁ!!よかった」

「パパ・・あんよ、ママが絆創膏をつけてくれたんだぞ」

「そっか!少しの間、痛いけど我慢しないとね」

「うん!我慢するんだぞ」

「おい!F!、今晩は楓ちゃんと葵ちゃんを仏間で預かるからな

あいつら・・・絶対にあきらめないぞ、匂いを辿って必ず家に来る

仏間の結界の中なら安全だ

俺が必ず守るからな」

「オヤジ、すまん」

「オヤジ、仁と匠はいいのか?」

「だぶん・・・いいはずだ・・・あいつらに見られてないからな」

「そっか・・・匠と仁は客間で寝てもらおう」

「それがいい!何か起きてから2階までは間に合わないかもしれん」

仏間ではオヤジが楓と葵の話し相手になっていた

「怖かったろ」

「うん、怖かった・・・でも目を閉じてたから少し怖かっただけ」

「あたちもだぞ・・転んだんだぞ」

オヤジはラジオをつけて落語を聞き始めた

娘たちも落語を聞いていた

わたしは仏間の窓側に座り込んで窓の隙間から外を眺めていた

相変わらず外は車や人の往来で騒がしい

ラジオを聴いている3人の笑い声が聞こえた

「さぁさぁ葵ちゃんや楓ちゃん、夜も遅いよ、もう寝る時間だよ」とおふくろが仏間に入ってきた

「ばっちゃ!わかった寝るよ」

「あたちもだぞ」

「いい子だねぇ」

「おやまぁ・・・匠君と仁君はもう寝てるのかい」

おふくろは隣の部屋で寝ている子供たちを見てほっとした顔になっていた

「わたしはS子ちゃんと一緒にいるからね」と言い部屋から出て行った

夜も0時を過ぎていた

やっと外も静かになった

ガラガラ

玄関の戸が開く音がした

「わっ!」と私はびっくりして声を上げてしまった

「誰だ!こんな時間によ!」とオヤジのイラついた声

「ただいま~~~」とF子の声

「あぁーーF子ちゃんだ」と笑顔でオヤジは仏間から出て行った

オイオイ・・・いまさっきのいらたちは何だよ

仏間にF子とS君が入ってきた

「アニキ!ひさしぶり」とF子の挨拶

「あぁ・・・」とめんどくさい返事を私はした

「ところで・・今の時間帯に何で帰ってきた?」

「あのね・・・アニキ・・」

とF子が語り始めた

S君とF子がスタジオで編集作業をしていた

「アニキ!何か胸騒ぎがする」

「え・・・」

「Fアニキたちやばいような・・・アニキ!家へ帰ろうよ」

「おいおい・・・まだ編集が終わってないぜ

終わってから帰ればいいだろ」

「アニキ!!私が帰ると言ったら帰るの!わかった?」

「あぁぁ・・・・」

という感じで帰ってきたみたい

「図星だ、夕方な、ちょっとあってな」と

S君やF子に夕方に起きたことを話をした

「え!なんでまた・・・パパが言ってたでしょ、夕方はだめだよ、アニキ」

「わかってるんだが・・・昼寝しちゃってね・・・」

「もう!!楓ちゃんや葵ちゃんにもしものことがあったらどうするの?アニキ!!」

「あぁぁ・・・おふくろからも言われたよ・・・」

「当然でしょ!!」

「でも・・・今夜・・・危ないかも・・・あぁ・・・それでここに葵ちゃんや楓ちゃんが寝てるんだ、さすがパパ!!」

「エヘヘヘヘ、ほめられちゃった」

オヤジのにやけた顔

「とりあえずは私はS子ちゃんといるから、Sアニキは仁君の部屋にいてよ」

「おう!!」

「おい・・・S君・・・完全にF子のお尻についてるじゃん・・・」

「あぁぁ・・・今日はな、機嫌が悪くてな・・・

俺は・・・隣に行くよ」

「ビールが冷蔵庫の中にあったぜ」

オヤジの機嫌よさそうな声

ラジオを聴きながらオヤジはビールを飲んでいた

私もラジオを聴きながらまた外を眺めていた

別に仏間から見る景色は何もないけどね

たまに車が走ってくるだけ

ガガガガジィジィーー

「ありゃ、ラジオ・・・おかしいな」とオヤジはラジオを叩いた

「ノイズがすごいな、オヤジ、壊れたんじゃない?」

「いや・・壊れてないはずだぜ」

オイシイ・・・ニンゲンノコドモノニオイガスル

ジィジィーーーガァーー

突然、ラジオから聞こえてきた

「何だ、今のは・・・」

「何か聞こえたぜ・・・」

コッチコッチ・・・クンクン・・・ニンゲンノコドモノニオイダヨ

ホントダホントダ・・・キキキ

「え・・・もしや・・・あいつらか」

「オヤジ・・・あいつらだ」

私はそぉーとS子の部屋へ行き

「あいつらが来そうだ、明かりを消して・・・静かにしてくれ

スマホあるよな・・・スマホの明かりだけにしてくれ」

「わかったんだぞ、パパ」

「アニキ・・」

「とにかく、静かにな・・・」

「S君・・・奴らが来そうだ・・・子供たちを頼む」

「おう!!いいぜ、明かりを消すよ」

仏間の明かりも消した

もちろんラジオもだ

ココラヘンダヨ・・・・キキキ・・・ニオイガスルネェ~~

オナカペコペコダヨ・・・

「おい!!オヤジ、ラジオのスイッチを消せよ」

「消したぞ・・・」

ラジオのスイッチを消しても聞こえてきた

私は鳥肌が立った

ミツケタヨ~~~クククク

コッチコッチ  ケケケケ  

わたしは窓を見た

ユラユラと黒い影が映っていた

「奴らだ・・・」

「そうだな・・・」

サァ・・・ハイロウヨ・・・ミナノシュウ

ガタンガタン

窓の外から何かが当たる音がした

ハイレナイゾ・・・オカシイナ・・・

ハイレナイネ・・・

ソッカソッカ・・・・ケッカイカァ・・・コレハコレハ・・・

カミノツカイカァ

ドコカラカ・・・ハイレナイカノォ・・・・

イエ・・・ゼンタイ・・・コレハコレハ・・・

アァ・・・・・アソコノテラノ・・・クククク

イイニオイガ・・・アタマガオカシクナルヨ・・・ハヤクニンゲンノコドモヲクイタイノォ

ラジオから魔界?の声が聞こえていた

「オヤジ・・・どうするんだよ?」

「今はじっと静かにしてろ

結界が張ってあるから入ってはこないぜ」

「オヤジ・・・あいつらを逆に食ってくれよ」

「あほーー、あいつらなんか食ったら俺、1週間はのたうち回る羽目になるじゃねーかよ

あんなまずいもの食えるかよ」

「まずいのかよ・・・」

「まずい、あいつらは魔界の中でも一番下のレベルの連中だよ

相手にせず諦めるまで待つしかないぞ」

相変わらず窓には黒い影が複数ユラユラと揺れていた

ケッカイガジャマシテルネェ・・・・

アノテラノ・・・コレハコレハ・・・カミアイテジャ・・

アキラメヨウカェ・・・

ザンネン

ザンネン

アノテラ・・・イズレハ・・・クククク

ラジオからは正常に落語の声が聞こえてきた

「諦めたようだな」

「そっかなぁ・・・」

私は少し不安になっていた

突然、葵が「足が痛いんだぞ!!」と大きな声を出してしまった

私はあわてて葵の口をふさぎ

「葵、声を出したらダメだよ、痛いの?」

「うん・・痛いんだぞ・・パパ」

私は葵の足を見た

少し足が腫れてるようだ

「葵、もう少しの我慢だよ、静かにね」

「うん・・・パパ」

私は葵の体に毛布を掛けながら

「葵、毛布を掛けるからね、目を閉じてるんだよ」

「うん」

毛布を葵の体にかけた

これなら目を開けても何も見えない

冷汗が出てきた

あいつらが戻ってきたらどうしよう・・・

30分が過ぎ

1時間が過ぎた

「どうやら・・・いいと思うが・・・」とオヤジは辺りを気にしているようだ

もう朝の5時過ぎだ

もうそんな時間なのか・・・

どうやら危機は去ったようだ

Concrete
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