中編3
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警告の音

今からもう30年も前のこと。

当時つきあっていた彼と彼の友人とその彼女の4人でS県のI町(現在は名前は変わっている)に1泊で旅行に行った。

車は彼の友人の車だが運転は彼と友人で交代しながら運転していた。かなりの長距離を乗っていたがまだ20代前半の4人、疲れより楽しさの方が勝る。

ペンションで夕飯をとり部屋に落ち着いたがまだ遊びたりない。ドライブがてらコンビニまで買い物にでも行ってこようという話になった。

彼が運転し、友人が助手席、助手席の後ろが私、私の右隣りに彼女が乗る。

時刻は確か夜中を回っていたと思う。

宿泊先はかなりの田舎だったが、少し走ればコンビニくらいあるだろうと軽く考えて車を出した。

車は山中を走る。この山は小説の題材などにもなっている有名な山だが真夜中の山中は真っ暗な闇がのっぺりと車にまとわりつく。昼間、この道を通ったはずだが夜の山道はがらりと顔を変える。

対向車などもまったくない。もちろん街灯などもない。

何回かトンネルを通る。そのひとつに「I隧道」と書かれていたのが見えた。トンネルではなく隧道と書かれていたので、ライトに照らされちらっと見ただけだったが目に入ったのだ。

峠のようなカーブが続いていた。

コンビニどころか人家もない。まったくの山の中である。

しばらくは、くだらない冗談などを話したりしていたがあまりにも長い時間山道が続くのでそのうち私はうとうとと眠り始めてしまっていた。友人も助手席で寝てしまったそうだ。

その、私と友人が寝ている間のことだったらしい。

いきなり、車に取り付けられていた速度取り締まり機などを感知するレーダーが鳴り出したのだと言う。

人家もなにもない明かりもない山の中である。まさかこんな山深い峠道に、速度を取り締まる機械など設置されているわけがないと思うのだが、レーダーは警告音を鳴らし続けている。

当然彼は驚く。友人の彼女も後部座席から身を乗り出す。

すると、寝ていた助手席の友人が急に「ブレーキ!!ブレーキ!!」と叫び始めたのだと言う。眠りながらである。

私はといえば、起きようとしても体が鉛のように重く、首が後ろにもたれたまままったく動かなかった。

警告音が鳴っている間、友人は眠りながら「ブレーキ!!ブレーキ!!」と叫び続けていたという。

そして、警告音がやむと友人もまた黙って寝たと言う。

結局コンビニなどどこにもなく、I山中をドライブして宿泊先のペンションに戻ってきた。

車がペンションに着いたとき、友人は何事もなかったように起きたようだ。私はといえば、なんであんなに起きられなかったのだろうと、それを気にしながら車から降りた。

そして、私と友人が寝ていた間の話を、彼と友人の彼女から聞かされたのである。

彼は心霊ものを信じる人ではなかったが、まっくらな山中でのいきなりの警告音と隣で「ブレーキ!!」と叫ぶ友人の声がかなり怖かったらしい。

いったい、何に反応しての警告音だったのか。友人はなぜ「ブレーキ!!」と叫んだのか。友人はそのことをまったく覚えていない。

余談だが、その旅行には一つ目的があった。それは、そこに行って鐘を鳴らせばその恋人達は結ばれるという岬があり、そこに行って鐘を鳴らそうと、それが目的だった。

友人と彼女はのちに結婚したが私と彼はまんまと別れることになった。

あの岬の鐘は嘘である。

Concrete
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