中編3
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私が目を覚ますと、そこは知らない部屋でした。

ぼんやりとした頭を上げて辺りを見回します。

天井にはぽつんと裸電球がひとつ。

コンクリートそのままなのでしょう。灰色のザラザラとした壁。

あとは私の寝ている簡易なベッド、むき出しのままの便器があります。

私はベッドから降りるとドアに向かいました。

ドアは。

ドアは場違いな程頑丈な鉄の扉です。

取り敢えずノブを回しますがやはり開きません。

どうやら外には出られないようです。

電球の下には小さな机と椅子が二脚。

机の上には首がひとつ載っていました。

不思議と恐怖は感じません。

私はいつもそうしているように、その首を手に取りました。

女性の首でした。

ぱっちりとした目。

通った鼻筋。

艶のある黒髪。

綺麗な顔立ちの女性の首です。

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どんな素材で出来ているのでしょうか。

まるで本物の人間のような質感でまるで生きているかのようです。

私は両手で掴んだ首の口元をぎゅっと左右に広げてみます。

多少歯並びの悪い歯を見せ、それはにっこりと笑いました。

手を放すと口は閉じ先程と同じ顔に戻ります。

いえ、さっきより口が少し大きくなりました。

私は試しに指の腹で目を横に撫で付けます。

するとさっきまでの二重の大きな目は消え、切れ長の一重瞼が現れました。

どうやらこの首は私の手でいかようにも顔を変えることが出来るようです。

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そうやって首の顔をいじっていると、

ふいにドアが開きひとりの男性が部屋へ入ってきました。

突然の見知らぬ男性の来訪に驚きましたが、

「ただいま」

と言う彼の言葉に、私は自然と

「おかえりなさい」

と声を掛けます。

私は彼が夫だということを思い出しました。

「食事を持ってきたよ」

ひとり分の食事を並べると、彼は机の隅の首を手に取りました。

そして手にした首と私の顔を見比べると

「君の目はこんなに細くないよ」

と言って優しく微笑みました。

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私が食事をしている間、彼は首と私の顔の違いを指摘し私が食事を終えると

「じゃあ、行ってくるよ」

と、部屋を出ていきました。

残された私は、彼の指摘に沿って首の顔を変えていきます。

もう少し鼻は低く、耳朶をふっくらと。

そうこうしているうちにまた彼が食事を持って現れ、首と私の差異を教えてくれる。

そんな生活が続きました。

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ある時、私はふと思い付きで首の髪の毛を掴むとぎゅうっと後ろに引っ張ってみました。

見ると首は、大きく見開いた目、めくれあがった唇と目を背けたくなるような恐ろしい顔になっています。

そうだ、これを彼に見せて驚かせてやろう。

そう思い私は彼の帰りを待ちました。

やがて帰ってきていつものように食事を並べる彼に、

私はそうっと横から近づくと後ろ手に隠していた首を

さっと彼の目の前に差し出しました。

化け物のような顔を目の前にして

彼は思った通り驚いた顔で後退るとこう言いました。

「それが君の顔だよ」

Concrete
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@天津堂 様
コメントありがとうございます。
不安になってどんどん足し算をしていく、という気持ちは解らなくもないですね。
現状で満足する、若しくは引き算をするというのは意外と勇気がいるものかもしれません。

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