中編3
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数が足りない

いつもの如く葵と楓は仏間でオヤジの話とラジオを聴くのが楽しみになってしまった

楓はタブレットでお絵描きをしながら聞いていた

私は窓側に座って外を見ながら聞いていた

「今からな、じっちゃの知り合いの人から聞いた話をするからな」

「うん!!!」

「じっちゃ!!どんなお話?」

オヤジのヨタ話がはじまった

昔な江戸時代のことだ

ある村に住む百姓の夫婦には8人の子供がいた

もちろん百姓の労働力として子供は多いほうがよかった

だが、この百姓は小作人で8人は多すぎた

ましてやその年は米が不作で年貢米としてお上に奉納し残ったお米はほんのわずかしかなかった

お腹を空かせた子供たち

それでも野良仕事は毎日しないといけない

小さい子供は田んぼのまわりの雑草をとって食料として家に持ち帰っていた

ほぼ毎日が水と雑草だけの食事だった

父親は朝から晩までよく働いた

母親もよく働いた

しかし、父親は徐々にボケの症状が現れ始めた

なんとかその日の暮らしだったがなんとか生活はできた

父親がボケでから半年たったある日父親は子供の数が一人足りなくなっているのに気付いた

「おい!!俺の子供たちは全部で8人だったよな?」

すると母親は

「え?あんた!!何を言ってるの!子供は7人でしょ!大丈夫?」と言われた

「そっかぁ・・?7人だったか!あははははは」

と笑い飛ばした

3週間が過ぎた

またしても父親は子供の数が一人足りないことに気づいた

「おい!!一人足りんぞ?全部で7人だったよな?」

すると母親は

「あんた・・・しっかりしておくれ・・・子供は6人でしょ!」

「そっかなぁ・・たしか7人だったはずだが・・・」

父親のボケも段々と症状が進んでいた

また2週間が過ぎた

朝起きて父親は子供の数を数えた

(え・・・5人?・・俺の子供って5人だったけ?)

「おい!!おっかぁよ、子供ってたしか6人だよな?」

「あんた!!何を寝ぼけたことを言ってるんだい、子供は5人だよ」

「そっかぁ・・5人だったか・・・」

「ここ最近、夕食にお肉が少しだけ入ってるよな、これどこで手に入れた?」

「あぁぁ・・・これはあんたほら・・猟師のあの人からすこしだけおすそわけしてもらってるんだよ・・・家族分をね・・」と母親の目は完全に泳いでいた

「そうだったか・・・」

さらに3週間が過ぎた

父親のボケもさらに症状が進行した

夕方になり父親が先に家に帰った

順々に子供達も帰ってきた

父親は帰ってくる子供の数を数えた

(4人・・・4人???・・・あれ・・・5人だったはず)

最後に母親が帰ってきた

「おい!!帰ってきた子供を数えていたんだが一人足りないぞ!!たしか5人だったろ?」

「あんた・・・だいぶボケがひどくなってきたね、子供は4人だよ」

「え・・4人??・・だったけ?・・・」

そんな調子で半年が過ぎた

父親のボケも最終的な段階になっていた

家族の顔と名前をほとんど忘れてしまったのだ

「あれ・・・たしか・・・俺の子供は・・4人?3人?2人?・・・今いるのは一人・・・

一人だったか」

「あんた・・・子供は一人だけだろ・・・」

母親は父親のボケの度合いを見計らっていた

母親は子供たちに

「あの子・・・ごめんね・・・あんたたちが寝てるときにいなくなってしもうたのよ・・・」

「そんな・・・おかか・・・」と一人一人いなくなっていくたびに子供は母親に聞いていた

「じっちゃ・・・子供たちって・・・本当にいなくなったの?」と楓が聞いてきた

「いや・・・そのぉ・・・いなくなったわけじゃない・・・」

「え?・・・どういうこと?じっちゃ?」

「まぁ・・話として聞いててくれればいいよ、楓ちゃん」

「よくわかんない・・・」と楓は頭を傾げた

「あたちも・・・なんだぞ」と葵も頭を傾げた

私はすぐに分かり吐きそうになった

おやじよ・・・子供たちにそんな話をするなよ

幸いにも話の内容を理解していなかったから良かったものの分かったら大泣きするぞ

いくら飢餓でもな・・・・

想像をしたら体がゾゾゾと寒気がした

まさに母親は鬼子母神だな

Concrete
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