短編1
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父が亡くなったときの話

恵里子さんの父が亡くなったときの話。

長患いで入院しており、父が意識を失ったある晩。

泊まり込みで看取っていた恵里子さんが雨で濡れた犬のような臭いを感じ、ふと俯いていた顔を上げると。

薄暗い病室のなか、父が眠るベッドのそばに、妙な人物がいる。

人間であるかどうかも定かではない。

まるで《牛と二人羽織り》をしているかのように、幅の大きなずんぐりとした体躯。

頭からすっぽりと被った布は腐った毛布のように汚れ、毛羽立ち、ぞろりと地面にまで着いていた。

そのせいで、顔どころか二本の足で立っているかどうかも判らない。

片方の手だけを身体の前、布の合わせ目から突き出している。

老人のようなしわだらけのその手を意識のない父の身体に置き、指でコツ、コツ、と叩いた。

《待ち時間をせかすかのような仕草》だったという。

父はその日の未明に息を引き取った。

部屋には真夜中にも感じたあの臭いが残っていた。

しばらくあとに経をあげてくれた坊主に訊ねると《お父様を導いてくれる存在でしょう》と言ってくれたが、恵里子さんはどうもそのようなものではなく、禍々しい印象をうけたという。

父は金融関係の仕事をしており、厳しい業界を生き抜くために危ない橋を幾度も渡ったと酒の席で豪語する人物であった。

安らかに眠っているとよいが、と恵里子さんはため息をついた。

Concrete
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「件」(くだん)のようですね。
お父様の冥福をお祈りいたします。

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