中編3
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人形倉庫

隆一さんの実家近くにある山のふもとには

《人形倉庫》

と呼ばれる廃墟があった。

正確には農機具などを入れておく木造の物置なのだが、中にはおびただしい数の人形が放置されていたのである。

日本人形からテディベア、ソフトビニールやフィギュアなど様々な種類があったがいずれも薄汚れていて、持ち主がいるとは思えない。

噂では何年も前に心を病んだ者が、何のためなのか使われていない物置に人形を運びいれることを始めたという。

その人物もいつの間にか訪れなくなり、供養か体のいい処分か、場所を知る人らが人形を持ってくるのだとのこと。

有り体にいって不気味である。

子供の目には単なる心霊スポットにしか映らない。その場所に入ると呪われる、というのが同級生のあいだで定番の怪談話であった。

隆一さんも、ヒロキくんという友人と興味本意でその場所を訪れた。

外装の剥げた扉を開けると、作り付けの棚にも、床にも、びっしりと人形が敷き詰められている。

その倍の数の《目》がいっせいに二人を見たような気がした。

隆一さんは怖くなって中には入れなかったのだが、ヒロキくんはずかずかと二、三の人形を踏みつけながら中へと入った。

《見てろ》と言うなり、プラスチック製の小さな人形を手に取り首をもいだ。

隆一さんが呆気にとられていると、向こうが思っていたような反応が得られなかったのか、二体目へと手を伸ばした。

おびえる隆一さんは散々にからかわれ、臆病者のそしりをうけた。

首のもげた人形が十体を数えるころ、隆一さんが制止し、その日はそれで終わりとなった。

次の日、学校へ行くと。

自分の机に、昨日ヒロキくんがもいだ人形の首が入っていた。

呪いではない。犯人はヒロキくんであった。

《驚かそうと思って》

と悪びれない彼とケンカになった。

つまらないことでどういう訳か関係がこじれ、絶交状態にまで発展。

しばらく口もきかない間柄になってしまったが、ヒロキくんはその後、別の友人を誘い人形倉庫で首もぎを披露していたのだという。

それからも、机に人形の首が入っていることがたまにあった。ヒロキくんに誘われ物置へ同行した人間が《やっているのは彼だ》と報告してくれた。

いわく《ついていっても、一人で異様に熱中し人形の首をもいでいるので皆がヒロキのことを不気味がりはじめている》とのこと。

ヒロキくんは教室内で孤立しはじめた。

それでも、隆一さんの机に首が入れられることは続いた。

すっかり様変わりした友人を看過することができず、あるとき隆一さんはヒロキくんへその行為をやめるように言った。

しばらくじっとして隆一さんの声を聞いていたヒロキくんだが、突然大きな声で奇声をあげ、手足を振り回し暴れはじめた。

教室内は騒然とし、皆の見ている前で教師に取り押さえられどこかへ連れていかれた。

そして、ヒロキくんは学校に姿を現さなくなった。

そのまま関係が修復されることはなく進学し、疎遠になってしまった。

ヒロキくんはそれからも人形倉庫へ通いつめていたらしい。

時は流れ隆一さんが高校生になるころ、母親が《自宅の郵便受けにこんなものが》と言って市松人形の首を見せてきた。

それを機に半年に一回ほどの頻度で、郵便受けに人形の首が入っている、ということが続くようになった。

警察に相談したが、犯人の特定には到らなかった。

ヒロキくんの名前は出さなかったという。

彼と音信不通になり、十数年が経過している。向こうの実家はすでに転居しているらしく、本人と連絡をとる方法がない。

人づてに聞いた噂では、しばらく地元でヒロキくんの姿を見ることがあり、自ら人形倉庫へどこからか拾ってきたような人形を運びいれていたそうだ。

今では人形倉庫も解体され、影も形もない。

隆一さん自身も二回転居し、現在は都内に在住しているが、未だに一年に一度はもがれた人形の首が届くという。

Concrete
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