中編7
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化物達

一人の老人が、山道を歩いていた。見た目は70才くらいだろうか。杖をつき弱々しい足どりだか少しず坂道を下っている。もう時間は23:00を過ぎた所だろうか。山道故に辺りに電灯などなく、時々老人が持っているランタンが点滅している。あかりはこれくらいである。

?「ちょっとそこのおじいさん!こんな所でなにしているんですか?!夜にここを歩くのは危険ですよ!」

見知らぬ男に突然声をかけられて、老人は面食らった。

老人「はぁ‥まぁごらんの通り私は年寄りで、他に趣味もなく、最近の楽しみは散歩をする事位なのですよ。家がこの近くなものでね。」

男「そうですか。とにかく早く家に帰ってくださいよ。この辺りは化物が出るみたいですから。うわさですけどね。とにかく、こんな夜中に歩いてたら危険ですから。では私はこれで。」

老人「親切にどうも。」

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老人がしばらく山道を歩いていると、声をかけられた。

?「見たな?」

老人「‥」

?「気の毒だが。お前さんはこれから死ぬ。なんで死ななきゃいかんのか解らないのはかわいそうだから、一応説明してやる。俺は遥か昔、人が刀で戦争をしていた時代に、戦場で盗みをしていたもんだ。何でも盗んだし、なんでも食った。いつぞやの戦場から逃げてきて、この山の中で死んだ。その罰をこうやって今でも受けているんだよ。この山からは出られない。腹は死ぬほど減っているのに何も食べることが出来ない。

ただし、この姿を見て、見たと言った人間だけは食べる事が出来る。お前さんは不運かも知れないが、俺は腹が減ってしょうがないんだ。さあ。『見た』と言え。」

老人「こんばんは!どなたか存じませんが、いきなりそんな話をされましても、私には何がなにやら‥まぁ作り話としては楽しめましたが。」

?「何を言う。作り話ではない。この姿が見えないのか?大体のやからは俺の姿を見ると震え上がって、見たと言うもんだ。お前は一向に怖がらないようだが。」

老人「そうは言われても‥私目が見えないもので‥だから、この杖が手放せないんですよ。」

と、老人は杖を相手に見せた。杖には何やら文字が彫ってあったが、化物は読むことが出来なかった。

?「なんだよ‥俺の姿を見ないと俺は食べる事が出来ないんだ‥もういい。どっかへ行ってしまえ。」

老人「親切にどうも。お話は中々楽しめましたよ。声の調子からきっとさぞかし綺麗なお顔をされているのでしょうね‥では‥」

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老人がまたしばらく山道を歩いていると、声をかけられた。

??「見たな?」

老人「‥」

??「お気の毒だが。あんたはこれから死ぬ。なんで死ななきゃいかんのか解らないのはかわいそうだから、一応説明してやろう。私は今から少し前の時代に山賊をやっていた者だ。

たびたび町へ下りて行っては盗みを働き、色んなもんを食った。生きるためだ。後悔はしていないさ。追手から逃げて、この山に戻ってきたはいいがここで死んでしまった。その罰かな。この山から出られず、腹は常にすいているのに、私を見て「見た」と言った人間しか食べられない。こんなかわいそうな話があるかね。というわけで、さっさと『見た』と言ってくれ。」

老人「‥」

??「おい。なんとか言えよ。目が開いてるってことは私の姿が見えているんだろう?」

老人「‥」

??「おい。いいかげんにしろ。こっちは

腕に覚えもあるんだぞ。なんなら力づくでも‥」

老人は自分の口を指差し、×印を指で作った。

??「お前‥まさか口がきけないのか‥?」

老人は頷いた。そのあと、パントマイムの様な身ぶり手振りをしたが、化物にはその意味が解らなかった。

??「あぁ‥残念だ‥見たって言われないと食べられないんだよ。久しぶりの獲物がこんなんだとは‥もう良い。あっちへ行ってしまえ。」

老人「‥」

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老人がまたしばらく山道を歩いていると、声をかけられた。

???「見たな?」

老人「‥」

???「お気の毒ですが。あなたはこれから死にます。なんで死ななければならないのか解らないのはかわいそうですから、一応説明してあげます。僕は最近まで殺人をしていました。上手いこと成功して、10人も殺したんですよ。でも最後に失敗してしまいましてね‥この山に逃げてきて、いっそ死刑になるならと自殺しました。後悔はしていません。その罰なのでしょうか。この山から出られず、常にお腹は空いているのに僕の姿を見て、「見た」と言った人間しか食べられないんです。そういう訳ですから、早く『見た』と言って下さい。」

老人「こんばんは!今日は月が綺麗ですねぇ」

???「そんな挨拶は要りませんから。さっさと‥」

老人「こんな所で人に会うなんて思いませんでした!いや何分こんな歳ですから!耳を悪くしましてねぇ!全然相手が話している事が聞こえないんですよ!その癖おしゃべりは大好きとくる!一方的に私がしゃべるだけなのにねぇ!ところで、あなたはなんでこんな所にいるんですか!?」

???「なんてこと‥僕の話が聞こえないのか‥?いいですか!!!見たと言ってくださいよ!!!」

老人「なんですか!あーえっとお若いですって?!うれしいですねぇ!私この近くにすんでましてね!最近夜の散歩を楽しみにしてるんですよ!」

???「馬鹿野郎。さっさとどっかへ行ってしまえ。」化物は手で追い払う手振りをした。

老人「気を悪くされたらすいません!きっと良いお声なんでしょう‥」

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その夜、化物達はいつものように集まり話始めた

?「畜生。今日はせっかくの獲物を逃がしてしまったよ。目が見えないとかなぁ。運が悪かったな。あのジジイ今度あったら覚えておけよ。」

??「なに?じじいだと?私の所にもきたぞ。口がきけないから逃がしたが、目は見えているとのこと。」

???「ちょっと。まさか僕の所に来た耳の聞こえないじいさんの事じゃないでしょうね?なんてことだ。」

?「馬鹿にしてやがる。俺だって好きでこんなことしてるんじゃないんだ。そんな俺らをおちょくって楽しんでやがるのか。ただじゃおかねえ。今度は3人で待ち伏せるぞ。流石に逃げられないだろう。」

???「確か近くに住んでて、散歩が趣味って言ってたから、近いうちにまた来るはずですよ。」

??「そうと決まれば明日にでも」

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次の日の深夜、老人はまた山道を下っていた。

化物3人「おい」

老人「おや。これは皆さんお揃いで。やっぱりお知り合いでしたか。」

?「うるせえ。よくも俺をおちょくってくれたな。いつもは食べるやつに少し良心が痛むが、お前は違う。骨の髄まで貪ってやる。さあ『見た』って言え。」

老人「わかったわかった。もう逃げられないな。じゃあその前に一つだけ教えてくれ。お前ら3人は

、昨日と今日山道を降りてきたこの私の姿を見たということだな?」

化物3人「「「見た。」」」

老人「その言葉を聞きたかった。しかも3人いっぺんにな。」

言うが早いか、老人は杖を逆手に持ち変え、目にも止まらぬ早さで化物3人を殴り倒した。杖には何やら文字が書いてあったが、殴られた化物達が立ち上がる事はなかった。

その後、老人は石を化物達の口をこじ開け、石を取り出して歯を砕き始めた。抜け落ちた歯、砕けた歯を3人分全て集めきった老人が川の水でそれを洗うと、それは月の光を反射して鈍く光っていた。

老人「これだけあれば。当分‥」

老人は一人呟き、軽やかな身のこなしで帰っていった。山道を登って。

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楓「これが、私のお話だよ。どうだったかな?」

舞「あー‥なんつうか。色々とひっくり返ったけど、一つわかんねえのはなんでこの化物達は見たって言わせたかったんだ?普通に食べちまえば良かったのに。」

咲「なるほどね。この前楓にお化けの法則について教えてって言われたから何事かと思ったけれど。この話のためだったの。」

楓「そうそう。」

舞「いや、わかんねーよ。」

咲「前に言わなかったかしら。怪異が発生するためには、その理由が必要なのよ。勿論例外はあるけどね。例えば交差点に現れる幽霊は、そこで車にひかれた被害者であることが殆どでしょう?他人への恨み辛みが重なって生き霊や怨霊になったり。いじめられてた人が幽霊になって復讐するなんて、あまりにもよくある話じゃないの。」

舞「さらっと自虐を‥」

咲「その霊の力が強ければ強いほど、逆に発生させるための条件は厳しくなる。それこそ、人を呪い殺す位の力ならその人に殺されたから、って位のね。この場合、その人に恨みがないのに人を食べていた訳だから、それを発生させるためには「見た」って言われる事が必要だった。そういう事かしら?」

楓「そんな感じだよ。さすが咲ちゃんだね。」

咲「この辺の事は昔の話にまとめてあるから、良かったら読んでみなさいね。」

舞「誰に向かって話してんだ?」 

楓「それにしても、私たちもこんな風にして話してたらこの話みたいに誰かに消されちゃったりして‥」

咲「そのネタは前にやったでしょう。もう無いだろうし、来ても返り討ちよ。」

舞「そうだな。」

Concrete
コメント怖い
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@五右衛門

まぁ。引き取り手はいるでしょうね

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