中編5
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電話

こんな話がある

ある男がいた。年齢は30才位の、どこにでもいそうな会社員である。結婚して仲の良い妻もいる。仕事もまぁ順調と言えた。その日も、男はいつもの様に午前の仕事を終え、会社の食堂で特に仲の良い同僚Aと二人で昼食をとっていた。

同僚A「んでさ、あいつが酔い潰れて大変でさぁ」

男「そいつは災難だったな。ところで、お前最近なんかやつれたんじゃないか?」

同僚A「ん?あぁ。そうかもな」

不意に、Aの携帯が鳴った。その音がなった瞬間、Aは血相を変えて2コールもしない内に

A「もしもし!」

と叫んだ。その後、戸惑った様な、何やら納得がいかない様な表情を浮かべ、電話を切った。

男「どうしたんだい?いきなりそんな様子で電話に出てさ。一応俺と喋ってるんだから断り位いれないかな?まぁいいけど。取引先でミスでもしたか?」

A「いや、なんでもない。」

男「なんでもないって事は無いだろ。顔色悪いぜ?俺で良かったら相談に‥」

A「いや、本当になんでもないんだ。すまなかったな。今回は俺がおごるよ。じゃあまた。」

Aがいなくなってから、男は考えた。

男「何でもないって言ってたけど、絶対あの様子はなんかあるだろ‥まぁあんまり俺が気にする事じゃないかもだけど、少し気になるよなぁ。」

次の日、男は会社の机で書類を書いていた。この会社の机には電話機がおかれてあり、内線や外線、会社関係の連絡に使用されている。電話が鳴った場合、その席の近くにいる人間が応答することになっている。

男「お、着信だ。今回は俺が‥」

男が受話器を取ろうとすると、少し離れた所で同じように書類を書いていた同僚Bがいきなり近寄ってきて、男から受話器をひったくり

B「もしもし!」

と言った後、戸惑った様な、何やら納得がいかない様な表情を浮かべ、電話を切った。

男「何すんだよ!」

B「いや、なんでもない」

男「なんの連絡だったんだよ。俺の方が受話器近かっただろ?てか、そんな焦ってとる必要ないだろうに‥」

B 「本当になんでもないんだ。すまなかったな。じゃあ。」

男「おい待てよ‥行っちまった。一体なんなんだ?昨日のこともあるし、なんか変だよな。」

次の日、男は今月の業績を上司に報告していた。

男「今月の売り上げは‥」

上司「なるほど」

この上司、中々仕事に厳しく誰かの報告中にこっそりスマホでも弄ろうものなら叱責は免れないほどの人間だった。そんな時、机の電話が鳴り始めた。普段だったら、「近くにいるものに取らせろ。」と言う上司が、男の報告中にもかかわらず顔色を変えて机に近寄り、受話器をとって

「もしもし!」

と言ったのだ。その後、戸惑った様な、何やら納得がいかない様な表情を浮かべ、電話を切った。

男「どうされました?上司自らが出られたということは、よっぽど重要な」

上司「いや、なんでもない。」

男「本当に大丈夫なのですか?因みに、どのような要件で」

上司「なんでもないと言っているだろう。報告を続けなさい。」

この日、男はわけの解らない気分をかかえていながら、帰路についていた。

男「なんなんだここ数日。謎の電話。なにやらみんなは知っている様子だったが、俺は何も知らない。解らない。そもそも電話に出させてもらえない。同僚はしめしあわせて俺をからかっているのかも知れないが、堅物の上司がそれに手を貸すとは思えないし‥」

妻「あなたお帰り!」

男「ただいま。最近おかしな事があってな。」

妻「どうかしたの?」

妻がそう言った直後、家の電話が鳴った。

男「俺が‥」

その直後、妻は血相を変えて受話器を取って、「もしもし!」と言った後、戸惑った様な、何やら納得がいかない様な表情を浮かべ、電話を切った。

男「なんだったの?」

妻「いや、なんでもないのよ」

男「またか!もううんざりだ!なんなんだよ!いい加減にしろ!何かあったんだろ!」 

妻「本当になんでもないのよ‥」 

男「待てよ‥そうだ!かけなおそう!この手がああったじゃないか。なんで今まで‥」

男は喜び勇んでリダイヤル機能を押した。電話がコールしているという事は実在の電話番号なのだろう。だが、相手が出ることはなかった。

妻「ねぇ。顔色が悪いわよ?そんな事気にしない方がいいわ。きっと間違い電話よ‥」 

男「うるさい!番号は覚えたんだ!こうなったらやけだ!ひたすらかけまくってやる!」

その日から、男は常にその電話の事を考えて過ごした。暇さえあればその番号にかけまくり、仕事もミスが増えた。かかってくる電話には1コール目で出るようにしたが、男の携帯にその番号から電話がかかってくる事はなかった。

たちの悪いことに、会社や家には結構かかってくるらしいのだ。最も、その場合は妻や会社の他の人間が先に出てしまい、男は結局出ることができず、原因不明から来るストレスで男はどんどんやつれていった。

ぼうっとする瞬間が増えた。あんまり考える事が出来なくなった。妻ともこの件で疎遠になってしまった。会社でもミスが増えたせいで、出世コースから外されてしまった。

そんなある時、隣の机に置いてある受話器が鳴った。この時、その机には少し抜けている後輩C一人がぼんやり座っているだけであった。

チャンスだ!今しかない!男はCの机に近寄り、受話器をひったくり、

男「もしもし!」と怒鳴った。

電話の相手は、男か女か解らない、ただはっきりとした中性的な声で

「あなたは狂っている」

と一言だけ言った後、その電話はすぐ切られてしまった。

その声を聞き、男はこれまでの事を思い出していた。こんな一言のために、俺は電話を追い続けていたのか。昔の自分に比べ、今の自分はどうなってしまったのか。こんな‥

C「どうされたんですか?その電話、僕の担当ですよね。そんな大事な要件だったんですか?電話どんな内容だったんですか?」

自分が狂っているって言われたなんて、こいつに言えるわけがない。いや、狂っているのかもしれないけどな。一体、どこの誰がこんなことを‥

男は戸惑った様な、何やら納得がいかない様な表情を浮かべ、言った。

男「いや、なんでもない。」

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令「こんな話がありましたよっと。」

幽「中々興味深いお話でしたね。結局、電話の相手は幽霊だったのでしょうか。そうは思えませんけど。」

令「まぁ、そりゃ会社にも家にも電話かけたりしてくる時点でおもいっきり主人公に恨みがありそうな人間だったり幽霊だったりって結論付けることはできるかもしんねーですけど、別にどっちでもいいんじゃないですかい?そこは話の肝じゃないですし。」

幽「そうですね。野暮なことを聞きました。‥それにこれ、多分被害にあっているのは主人公だけでは

ありませんしね。怖い話ですよ。本当に。」

令「さて。俺の話は終わり。さっさと給料下さいよ」

幽「まだまだこれから。最近は外に出られませんからね。部屋の片付けに御飯作りにマッサージなど、やることは一杯残ってますから。頑張って下さいね。」

令「‥あんたは何をするんですかい?」 

幽「録画しておいた番組を消費します」

Concrete
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