中編5
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鬼が

咲「今日の話は鬼にまつわるお話よ。」

舞「鬼かぁ。小難しい話は勘弁してくれよ?あたしはそんなに頭よくねえからよ。」

咲「大丈夫。ちょっと混乱するかもしれないけど、話は単純だから。さて、はじめましょうか。」

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咲「とある男がいて、この男、温泉を回るのが趣味だったの。それも代表的な所は回り尽くしていて、最近はわざわざ田舎に出向いて、あんまり有名ではない旅館についてる温泉、こういったものを見つけて、これを知っているのは自分だけ、みたいな感覚を楽しんでいたのよ」

楓「気持ちはわからなくもないかな。人は知らなくて自分だけ知ってるのは確かに楽しいかも‥」

咲「その日も、男はまだ行ってない地方をみつくろってふらりと出かけて、あんまり流行ってなさそうな温泉宿を見つけたのよ。さっそく一晩の予約をフロント、といって民宿だから玄関みたいなね。ですませて、目的の温泉に入ることにしたの。たまたまは平日だったのもあって、温泉にいたのは男以外には一人だけだったのよ。いた男をBとしましょうか。

Bはなんかめつきが鋭くて、額に傷がある少し怖い感じの男の人だったんだけど、男は気分が高揚していたのもあって「こんにちは。あなたもご旅行ですか?」ってBに声をかけたのよ」

舞「知らない人間によく声かけれるな」

咲「話の都合上、ね。でもBは聞こえないのか、無視してたのよ。男は一瞬気を悪くしたけど、まぁ他人だからって思ってその場はそれっきりにしたの。温泉からあがって、自分の部屋でくつろいで、食事の時間になったから食事の場所に向かうと、食堂にいたのはさっきのBで、一人とっくりにお酒を入れて飲んでいたの。まぁ田舎の民宿なんてこんなものかと、料理を一通り食べたあと料理を運んできた女将に、「料理は美味しかったけど、なんかあのBって人、私のこと無視するんですよね。あんな人いつもいるんですか?」って聞いたのよ。

でも女将さんは「えっと‥そんな人いますか?今日のお客はあなた一人ですよ」って」

男「いや。あそこにいるでしょう?お酒飲んでる‥」

女将「どんな人ですか?」

男「えっと、めつきが悪くて額に傷があって‥」

と、一通りBの特徴を説明すると、女将の顔がさっと青くなって、「ちょっとこっちへ‥」と別室に案内されたの」

舞「まぁありがちな話だな。そいつが鬼だった

ってオチか。お前が持ってくる話にしてはまぁまとも‥」

咲「まだ終わらないわよ。女将は話始めたの。

女将「驚かないでください。実はそいつは鬼です。人間じゃありません。前々の時代から出没し、この辺の地域に迷惑をかけてます。流石に人を食べたりはしませんが、温泉の食材や酒を盗まれたり、鬼がいるだけで、運気が落ちます。この宿だって、今一つ流行らないのはそのせいです。あなた、本当にそいつが見えるんですか?」

男「いや、ちょっと待って下さいよ。この時代に鬼ですか?からかってるんですか?私には普通の人間にしか‥」

女将「そう思うのも無理は有りませんが、事実なのです。今うちのスタッフを呼んでそいつの姿を確認させましたが、やっぱり見えるのはあなただけの様です。少し前に姿がぼんやり見える人がいたんですけど、その人はもうご老体で頭が少し‥そこで、お願いがあるのですが‥」

男「困ったな。何をすれば良いのですか?」

女将「あなたのやることは簡単です。あいつは何故かシュークリームが好きなんですよ。うっかり店先に出しておいたものなら、真っ先に盗まれるくらい。今、冷凍したやつを大急ぎで戻しています。」終わったら、それを2つあいつの両手に握らせて下さい。そうすればあいつの位置がわかります。スタッフの力の強いものが、あいつを取り押さえますから、この石をあいつの頭に叩きつけてください

。それだけです。」女将は、力の強そうなスタッフを二人呼んで、その二人に「わかっているわね?」と指示をしている様子だった。

女将「お願いできませんか?その代わり、宿泊費、その他のサービスは無料とさせていただきます。あとその他にも少ないですが謝礼金を出させていただきます。」

舞「素人に鬼退治なんかできるんかな。いやこの場合は、女将さんたちがプロ集団なんか?」

咲「男は少し考えた後、引き受ける事にしたの。俺のやることはシュークリームを渡して、石を当てるだけ。人助けにもなるし、これで宿泊も無料になるなら‥ってね。実際にやってみると、案外簡単に進んだの。

食堂に戻ると、そいつはまだいたし、シュークリームを「食べないかい?」と差し出したらそいつは両手に受け取った。それを見たスタッフが飛び出してきて、乱闘があったものの、無事に男は渡された石を頭に当てることができたの。そいつは気を失ったのか静かになり、袋につめられてどっかへ運ばれて行ったのよ。」

楓「無事終わったのかな?」

咲「それから、

女将さんが「あなたのおかげで無事に終わりました。本当にありがとうございました。すみませんが、宿の信用に関わりますので今日のことはどうか内密にお願いします。後、謝礼金を‥」って言って差し出した封筒を見ると、かなりの札束があったの。

でも男は「大したことじゃありませんよ。お札のお金は結構です。宿泊費だけ無料にしてください」と女将さんに伝えて、無事に帰ってきた、ってお話。」

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舞「やっぱりそーいう話じゃねーかよ。」

咲「ええ。男が退治したのが本当に鬼だったのなら、ね。」

舞「は?何だと?」

咲「考えなかったのかしら?これ、女将さんたちが全部演技して、ぐるになって男を巻き込んで厄介な客、というか宿に邪魔な人間を殺させたのかもしれないじゃない?だって単純に考えたらこの話殺人以外の何物でもないじゃないのよ。」

楓「言われてみれば‥鬼なんか現実にいるわけないし‥?普通にさわることも出来てたんだよね‥やっぱり人間だったのかな?」

咲「とはいえ、ただの人間だったらなんでそんな手の込んだ事をして殺したのか。わざわざ男を巻き込む必要もないじゃないの。つまり、本当に鬼だったのかもしれないのよ。真相は闇の中ね。そういえば、昔の人はよく解らない不思議な事、説明のつけられない事を鬼と言ったらしいけれど」

舞「こっちがオチかよ」

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