中編4
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心理的瑕疵あり

F 駅まで3分!築2年3L D K マンション6階の角部屋が、驚きの3万円!

※ただし心理的瑕疵あり

詳細は現場にて弊社担当が説明致します

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─おいおい、まじか?

3L D K ?駅まで3分?しかも3万円?

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年始から俺は心機一転、実家を出て、独り暮らしを始める予定をしていた

F 駅の隣駅そばにある会社に勤める36歳独身の者にとっては、まさに最適で夢のような物件だった

ただ「心理的瑕疵あり」というところが気になるが

まあ、これについては、現地で担当に聞いてみよう

すぐに、取り扱い不動産会社に電話した

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「内覧をしたいのですが」

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「分かりました 本日の午後4時はどうですか?」

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「お願いします」

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「ありがとうございます それでは、現地の部屋内でお待ちしております」

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その物件は確かに、俺の地元F 駅からすぐのマンションだった

途中にはちょっとした商店街もあり、ライフラインも万全のようだ

8階建てくらいだろうか 茶色い壁で統一されモダンな雰囲気を醸し出している

約束の時間には少し早かったのだが、広い駐車場を横目にしながら、エントランスから入っていく

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エレベーターで6階で降り、廊下を突き当たりまで歩く

605と書かれたドアには鍵が掛かってなかった

覗いてみると、玄関上がって突き当たりの部屋のドアが開いており、既にグレーの制服姿の女性が立っている

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「こんにちは」

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女性は私に気がついたようで、爽やかな笑顔で挨拶してきた

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30代前半くらいだろうか

ショートカットで細身のその女性は簡単に挨拶をすますと、てきぱきと部屋の中の一つ一つを手際よく説明してくれる

リビングも台所も、そして浴室もほぼ新品で、全く申し分ない

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─何で、こんな好条件のところの家賃が3万円なんだ?

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好条件であればあるほど、情報誌に書いていた「心理的瑕疵」という文字が気になりだし、尋ねてみる

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「あの、、、雑誌にある『心理的瑕疵あり』というのは、何なのですか?」

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女性は一瞬顔を曇らせたが、すぐに笑顔に戻ると、

こう言った

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「ああ、あれですね 実はこの部屋は元々、弊社の男性社員が使っていたのですが、プライベートでいろいろと行き詰まっていたらしくて、ここのベランダから飛び降り自殺をしたんですよ」

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マンションのエントランスで別れ際に女性は「もし、ご契約ということでしたら、もう一度、弊社までご一報ください」と言って、立ち去った

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帰りの電車の椅子に座り、窓ガラスに映る自分の顔を見ながら、俺は考えていた

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─確かに飛び降り自殺というのは、穏やかではない

だが、部屋の中で首を吊ったとか、寝室で服毒自殺したとかいう生々しい類いのことではない

それよりなにより今後、こんな好条件の物件が見つけられるかどうか、、、

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その時だった

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─R R R R 、、、R R R R 、、、

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携帯が鳴り出したので、ポケットから出し、応答ボタンを押して耳にあてる

若い男性の声だ

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「もしもし、あ、すみません わたし、F 不動産の佐伯と申します」

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「はあ、、、何でしょう?」

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「いえ、あの、、本日午後4時から内覧のお約束だったのですが、何か急用だったのでしょうか?」

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「は?内覧なら、さっき終わりましたけど」

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「え!?」

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俺はマンションでのことを佐伯という男性に話した

そして、とても良い物件だったので契約まで考えている、ということも

佐伯はしばらく無言だったが、やがて意外なことをしゃべり始めた

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「あの、、その女性は30歳くらいで、細身ではなかったですか?」

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「はあ、、、

というか、彼女はお宅の会社の人なんじゃないの?」

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「はい、、、確かにそうなんですが、もういないんです」

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「いない?それ、どういうこと?」

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「とても優秀な社員だったのですが、1ヶ月ほど前に、亡くなりました」

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「え!、、、」

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しばしの重々しい空気の後、佐伯はとつとつと話しだした

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「実は5年くらい前から、僕と彼女は付き合っておりまして、件のマンションで同棲してたんです 

ゆくゆくは結婚しようとも考えてました

ですがお恥ずかしい話ですが僕、2年くらい前から、会社の事務の女の子とも付き合っていたんです 

つまり、二股というやつです

それが、前月のクリスマスにばれてしまって、、

口論の最中に、彼女、マンションのベランダから飛び降りてしまって、、、」

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この後は、佐伯という男性の泣き声だけが続いてしまい、会話らしい会話にならなかった

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俺はもちろん、改めて他の物件を探し始めた

Concrete
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