短編2
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バスの怪

「ふぅ、困ったな。」と高校生のタケシは心の中で呟いた。タケシは春休みを利用して田舎へ一人旅に来ていた。タケシは冒険が大好きだった。

そのきっかけは幼少期の頃、祭りで家族とはぐれたことである。普通の子どもなら逸れたときの寂しさや怖さはトラウマになるのかも知れない。しかしタケシは寂しさや怖さで泣きはしたものの、いつもと違った景色や自分の胸の真ん中から来るソワソワする不思議な感覚。そういったものに心地良さを感じたのだ。

だから高校生になった今でも学校帰りに遠回りになろうともいつもと違う道を使うことがしばしばあった。未開の地の探索にとても魅力を感じたので、この春休みに日帰りの予定ではあれどお小遣いをはたいて田舎へ旅に来たのだ。

持ち物は乗り物の運賃と飲食のためのお金という最低限のものだった。普通の人はケータイを持って行くのだが、タケシは「ケータイなんていつでも他の人と連絡できるものを持ってきては冒険の楽しみが無くなってしまう」とケータイを持たずに来た。

そしてせっかく来たのだからとしばらく歩いていた。進んでいくうちに楽しくなり先へ先へと行くうちにここが何処なのか分からなくなってしまった。しかしこのタケシという男、困ったなと心の中で呟いたがこの状況を楽しんでいた。

「日も暮れてきたし、そろそろ帰るか。適当なところでバスにでも乗れば街に出るだろう」と軽く考えていた。そうして二車線道路の山道にあったバス停の椅子に腰掛け、自販機で買ったドリンクを飲みながらバスを待った。

やがてバスが来た、行き先は「西美黄駅」となっていた。駅に向かうのは好都合だったのでタケシは乗り込んだ。乗客は自分を含めて3人だった。バスは走り出し、霊園の横を通っていたときのことだった。「ピンポーン」と音が鳴り、乗客の一人が「ここで降ります!」と言った。バスは止まり女が降りて行った、その後に何人か乗客が乗ってきた。

次は交差点の前でバスが止まった、横断歩道前の電信柱には花が添えられていた。子どもがそこで降りた。

タケシはバスの意味が分かった、おそらく駅に着けば自分は死ぬであろうことも。あとどれくらい進めば駅に着くのかは知らない。だが、どうにかしてこのバスを降りなければ死んでしまう。

タケシは考えた、一つアイデアが浮かんだ。乗客が降りるタイミングで自分も降りるのだ。やがて他の人がチャイムを鳴らした。その人が椅子から立ったのを見計らって後ろについて降り口に向かった。あと一歩で外に出られる、その瞬間に目の前でドアがバタン!と閉まった。運転手が自分を睨んで「おまえ死んでねぇだろ!」と怒鳴った。

その運転手の顔は自分だった。バックミラーを覗くと自分の顔は無くなっていた。

タケシが乗ったバス停。その運行表の裏にはノルナと血で書かれていた。

Concrete
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