中編5
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―ずっと一緒―

 ゾクッ 

 

 誰!?

背後に人の気配を感じ、振り返る。

「・・・・・・」

誰もいなかった。

「・・・いるわけないよね。もう閉店の時間なんだから。」

パチッと店内の明かりを消すと、昼間は客で賑わうカフェが、嫌な程不気味に見えた。

私はエプロンを外し、さっさと荷物をまとめると入口の扉の鍵をしめ、シャッターを下ろし、足早に自宅への帰路を辿った。

人影のない暗い道・・・・

数メートルおきにある街灯の明かりだけが頼りだ。

腕時計にチラリと目をやると、すでに深夜0時をまわっていた。

「遅くなっちゃったなぁ・・・。」

私は歩調を速めた。

すると、バタバタバタと、後ろで音がした。

え?

怖い・・・

怖くて振り返ることが出来ない・・・

私は最初よりもゆっくり、そろそろと歩き出した。

すると、後ろにいる何者かも同じペースでゆっくりとついてきた。

やだ・・・・ストーカー・・・?

それから、ギャッっと男の声がした。

ビクッ・・・何なの?

明るい街灯の下まで来たところで、私は思い切って後ろを振り返った。

そこには、自分から少し離れた所に、若い男が一人立っていた。

どこか懐かしいような、奇麗な顔立ちをした人が。

「・・・ユリ」

男は少し寂しさの混じったような微笑を浮かべて、私の名前を呼んだ。

「ケ・・・ケンジ!?」

それは、私の彼氏だった。

彼は一か月程前に留学で海外へ行ってしまい、私は日本で彼のいない日々を寂しく過ごしていたのだった。

「ケンジじゃない!うわーっ、久し振り!でも・・・、何でこんなに早く帰ってきたの?1年くらい向こうにいるはずだったでしょ?」

ケンジはちょっと困ったように微笑した。

「やっぱり、ユリが心配になっちゃって・・・帰ってきちゃったよ。」

私は、もうダメじゃん、とか言いつつ、ケンジが帰ってきてくれて、とても嬉しかった。

それから、彼と家に帰り、夜の間お互い離れていた時間を埋め合うように、楽しく語り合って過ごした。

―翌朝―

目覚めるとケンジは家にいなかった。

玄関に出てみると、ひどく汚れて擦り切れた、ボロボロのケンジの靴があった。

「・・・裸足でどこ行っちゃったんだろ・・・うちにあるサンダルとか、履いて行ったのかなぁ・・・それにしてもこの靴・・・どうしたんだろ?」

私は彼のことが気になったが、仕事のことを思い出し、急いで支度をしていってきまーすっと家を出た。

その日も、私は帰りが遅くなってしまった。

あーー、ケンジ合鍵持ってないのに・・・・ドアの前で体育座りなんかして待ってたらどうしようーー・・・・・

などと考えながら走っていると、後ろからスッと肩に誰かの手が触れた。

振り返ると、そこには裸足のケンジがいた。

「ケンジ・・・、何にも履かないで外出たの?笑」

「あぁ・・・」

そういえば、というように、ケンジは目線を自分の足に落とした。

「・・・朝、寝ぼけてたみたい笑」

「もー、帰ったら奇麗に足洗ってよー?」

それから、昨日と同じように二人で家に帰って楽しく時を過ごし、次の朝になるとケンジはいなくなって、私が夜仕事を終えて帰る頃に現れる、という日々がしばらく続いた。

不思議に思って、

「早朝からどこいってるの?」

と聞いてみたが、ケンジは「・・・バイトが早いから。」

と曖昧な返事をするだけだった。

それでも、二人で過ごす夜の時間が楽しくて、私はそれで充分だったから、そのことは次第に気にかけなくなっていった。

そんなある日、私はある異変に気付いてしまった。

そのとき、私はいつものようにケンジと夜道を歩いていた。

そして、街灯の下を通過しているとき、私はふと足元を見て何かがおかしいことに気付いた。

・・・あれ?

「影が・・・・ない・・・?」

そこには街灯の明かりに照らされてできるはずの影がなかった。

更に驚いたことに、ケンジにも影がなかった。

「ちょっと、・・・ケンジ・・・私たち、影がない・・・なんで?」

ケンジは困惑する私を寂しそうな眼で静かに見つめていた。

「・・・・ケンジ?」

どうしたの?と彼の手に伸ばした私の手は、虚しく彼の手を通り抜けて宙をかいただけだった。

「・・・・・どうして・・・?」

「ユリ、ごめん。・・・ずっと、言えなかったけど・・・僕は、もう死んだんだ。あっちで交通事故にあってしまって・・・でも、死ぬ最後の時まで、ずっと君に会いたくて、こっちに帰ってきたんだよ・・・」

「・・・・・・・・うそ・・」

私は何も言えなかった。

「・・・死んだなんて言ったら、ユリ、今みたいに泣くと思ったから。ユリには悲しい顔して欲しくない。だから、なかなか言えなくて・・・・僕は、ユリの影になってたんだ。あれなら、ユリを見守っていられたから。」

「・・・・・影に・・・?」

「うん・・・でもあの夜、ユリが一人で夜道歩いてたとき、不審者がユリの後ろ付けてたから、人間の形になって追っ払ったんだよ。そしたらユリに見つかっちゃって・・・」

そんなぁ・・・・ケンジが死んだなんて・・・・そんなのって・・・・嫌だよ・・・・

私の頭の中はそればかりで、ケンジが優しく話す言葉も、少ししか頭に入ってこなかった。

「・・・嫌だよ・・・・ずっと・・・一緒にいたかったのに・・・グスッ」

「もう泣かないで」

そう言ってケンジは後ろから私を抱きしめた。

氷のように・・・冷たい体・・・

「ずっと、一緒にいるから。」

その言葉に、えっ?と私はケンジを見た。

「・・・ずっと一緒に・・・いてくれるの・・・?」

ケンジはうなずいた。

「僕だって離れたくないよ。僕を・・・ユリの影でいさせて。それでずっと、ユリのこと見守らせて・・・?」

「・・・ケンジ・・・」

死んだのなら、もう会えなくなるものと思っていた私は、ずっと一緒にいるよ、というケンジの言葉を聞いて、とても嬉しかった。

泣きじゃくって体温の上がった私と、氷のように冷たいケンジは、お互いをきつく抱きしめ合った。

―翌朝―

「いってきまーすっ」

「ちょっ・・・待った待ったっ 靴!」

ドアを開けようとした私の背後で、黒い影がモゾモゾとうごめいた。

「ちゃんと履けたー?靴ないと帰り道裸足になっちゃうからねっ」

ちょっとしてケンジはオーケー!と無邪気に答えた。

今日は、晴れ。太陽の光が、より濃くケンジを映し出してくれる。

私は一人じゃない。

いつだって、影になったあの人が、私と一緒にいてくれるから―

そういう思いで、今日も私は生きています。

もし、影のない、彼氏と一緒にいる女の人がいたら・・・・それは私かもしれませんね。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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