短編2
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命の値段

ある若い夫婦がいた。その夫婦には子どもが5人もいた。住宅は都心から少し離れたところにあり、割と立派な家であった。

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子どもが多いこともあり妻は専業主婦として家に残り夫が会社で働くことで生活を立てているようだった。

近所のおばちゃんたちの噂では「親から援助を受けている」「投資に成功した」「不動産屋でもしてるんだろう」「遺産を多く受け取ったのよ」などなど複数の推測が飛び交っていた。

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だがどれも違っていた。

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妻は5人いる子どもたちの一番上の男の子を連れて散歩に出た。男の子は小一で今日は誕生日だ。そこでこの日は下の子を預かり所に預けて母と息子2人きりで誕生日プレゼントを買いに行っていた。誰から見ても微笑ましい光景、そんな幸せな日に悲劇は起きた。

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それは細い道から大きい道に出るときのこと。正面にはよく息子と行くおもちゃ屋さんがある。息子は思いっきりおもちゃ屋に向けて飛び出した、車にぶつかり息子は死んだ。

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悲しむ母親。駆け寄る運転手、救急車のサイレン。パトカー、群がる野次馬たち。

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誰から見ても痛ましい光景。誰から見ても悲しむべき事故。しかし、その中でたった一人だけ心の底から喜び嬉し涙を流している者がいた。たった今事故で死んだ子どもの母親だ。

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歩行者を轢いた場合、車の運転手が全て悪くなり全責任を負うことは皆さんも知っているだろう。そして子どもは大人が轢かれて死亡した時よりも多く賠償金が支払われるのだ。この夫婦はそれを利用して生活を立てていた。

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妻は悲しんだフリをして悲劇の母親を演じ、夫も息子を失い悲しみに打ちひしがれる父親を演じた。

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何日か経ち事故のことが落ち着いた頃。

妻「次はもっと大きい家に住めそうね!」

夫「ああ、そうだとも。これほど楽に多額のお金を手に入れられることはないだろう」

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今もその夫婦は周りからはおしどり夫婦と言われ子どもに優しく素敵な家族。夫婦も自分たちの暮らしを豊かにする子どもという名の商品には大そう愛情を込めて接した。子どもたちは死ぬことが決まった未来に向けて今を楽しく生きている。

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