中編3
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燃えるゴミの日

コロナの影響で、数週間前からテレワークだ。

テレワークに移れと言われたときは、正直うれしかった。

出勤しなくていいから、あの満員電車にも乗らなくていいし、タバコも吸いたいときに吸える。休憩時間も自由だ。ビールを飲みながらやったっていいわけだ。最高だと思った。

そう思えていたのは、最初の一週間だけだった。基本ずっと家だから、仕事とプライベートの区分けがいまいち曖昧になり、逆に苦痛になった。長く、薄く、ダラダラ仕事をするようにさえなった。

改善しようと思って、仕事は午前中しかしないことにした。その代わり、開始は早朝からだ。5時前には起きて、家の周りを軽くウォーキング、シャワーと朝食とコーヒーが終わったら、すぐに仕事と決めた。

このルーティーンを始めて、3日目くらいのことだったと思う。

この日の朝、ウォーキングでAさん宅(小さな庭付きの戸建て。50代くらいの夫婦二人暮らしだったと思う)の前を通った。Aさん宅は私の自宅の斜向かいだが、特に付き合いはない。そのときに「もういい加減に~~(~~のところはよく聞こえなかった)」という女性の金切り声が聞こえた。夫婦喧嘩か?こんな朝早くから?何にせよ私が関わるものではないので、さっさと通り過ぎた。

その次の朝だ。ウォーキングでAさん宅の前を通ったときに、中身がパンパンに詰まった中サイズの燃えるゴミの袋が二つ、Aさん宅の庭内、居間のガラス窓のすぐ外に置いてあった。うちの地域は、有料の指定ゴミ袋を使わないといけないんだが、そのゴミ袋は色付きの半透明で、中身が少し透けて見える。

そのパンパンのゴミ袋のうちの一つは、中にカツラのようなものが見えたんだな。少なくとも、それなりの量のまとまった髪のようだった。床屋で見るような、切ってバラバラになったやつじゃなかった。もう一つは、パンパンになった真っ黒なゴミ袋を、有料の袋の中に押し込んでいるような状態だった。

別に悪いことじゃない。家に帰って、仕事に取りかかった。私はマンションの2階に住んでて、窓に面したテーブルで仕事している。窓から、Aさん宅の庭、さっきのゴミ袋が見えるんだな。8時頃半頃だったかな、そのゴミ袋はまだゴミ集積所に出されず、元の位置にあった。

気になったのはここからだ。Aさん宅の奥さんが玄関から出てきて、ゴミ集積所の方へ歩いて行った。手ぶらだった。奥さんは、ゴミ集積所の様子をチラッと見て、また家に戻ったんだ。戻ると、玄関先の掃き掃除を始めた。

私は変に感じて、窓から様子を見てたんだが、玄関先の掃き掃除をずっとやってるんだ。

9時頃まで、ほんの2、3メートルくらいの幅しかない玄関先をずっと掃いてたんだ。

すると、ゴミ収集車が来た。ゴミ収集車が角を曲がって姿を現すと、奥さんは家の中に引っ込んでいった。収集車から作業員が下車して、黙々とごみを収集車に放り込んでいく。出されていたゴミが全部放り込まれて、作業員が戻ろうとしたときだ。奥さんが「すいませーん!すいませーん!これもおねがいしまーす!」って大きな声で言いながら、あのゴミ袋二つを抱えて走ってきたんだ。『持って』じゃない『抱えて』だ。

作業員は「まだー!」と運転席の人間に大きめの声で言い、奥さんからゴミを受け取ろうとした。奥さんはゴミ収集車まで走り着くやいなや、自分でそのゴミ袋を取集車に投げ入れたんだ。普通、そういうことはしないよな。作業員も驚いて「ちょっ!」て感じで、制止しようとしたが、遅かったな。ゴミは収集車の後部、ゆっくり回転する鉄板に飲み込まれ、取集車の内部に送り込まれていった。

ゴミを投げ入れた後、奥さんは家に戻っていった。

その日から2、3度、燃えるゴミの日には、奥さんは同じ行動をとった。

そして私は、ここ最近、Aさん、つまりその家の旦那さんを見かけないんだ。

Concrete
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