中編7
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Stay home

田舎から上京してきた俺は、親の前ではキッチンの狭さやユニットバスにぶつくさ文句を言ったものの、念願の「自由空間」を謳歌していた。

世の中では、経済損失◯◯超円だの、ゴールデンウィークはがまんのウィークだのごちゃごちゃ言ってるが、そんなことは俺には関係なく、買いだめしたお菓子とジュース、そして夜には19の俺には大人のアイテム、そう、こっそり買った安い低アルコールのお酒を飲むことが最高の楽しみだ。

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あー、今日も酔っちまったよ。

まあ3%もあるからな、俺もなかなか強い方だろうか

友達に話してみたい気もするが、罪悪感もあるので一人でこっそり楽しんでいる

まさしくお手本のようなstay homeだ

そんな下らないことを考えてた。

ほわほわ楽しい気分を味わっていると、、

ピンポーン

?何時だと思ってんだよ

夜の10時にインターホン鳴らすなんて非常識だ、うちの村でやったら翌日の一大トピックだ。

ピンポーン

ドンドン

あ、ドンドンやりやがった。

相当用があるのか?テレビもないし、俺は何の騒音もたててないはずだが、、

少し心細くなって、電気を消してやり過ごすことにした。

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電気を消しながら、ちびちびやっているとだんだん気が大きくなってきて、文句の1つ言ってやりたい気持ちが出てきた。

よっし行くぞ

俺は何の武器にもならない空き缶ひとつ携えて、玄関まで向かった。

そっと覗き穴を覗くと、なぜか真っ暗だった。

この辺りは夜は結構暗いんだな。

酒の力もあって、そのあとはすぐに寝てしまった。

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翌日ポストを見ると、何か便箋が入っている。雨が降っていたわけでもないのに、なぜかじっとり湿っていて気持ち悪い。

差出人も書いておらず、捨てようかと思ったが、怖いもの見たさに開けてしまった。

「どうしたの?20時からって約束したじゃん、遅れたから怒った?

明日も行くね」

誰だよ。約束なんて誰ともしてない。

昨日来たやつか?

悲しいことに、こっちに来てからまだ友達といえる存在とは巡り会えていない。

お手本のようなstay homeをかましているからな。

しかもこいつまた来るのかよ、、

親に連絡しようかと思ったが、念願の「自由空間」はもはや聖域と化しており、何人たりとも敷居を跨がせるわけにはいかない。

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19:59分

すごいそわそわする。

あいつの中では昨日の約束とやらは20時だったらしい、今日も20時なのか?

てかなんで遅れてくんだよ。

20:30分

静寂が辺りを包んでいる。

誰も来ない。

気抜けした俺はまた今夜もstay homeの楽しみを満喫する。

そろそろ飽きたな。最初こそ特別な感じがしたが、味はジュースの延長みたいなもんだ。

次はういすきーとかわいんを買ってみようか

でもそしたら一人じゃ飲みきれないかもしれないな

早く学校はじまんねえかな

ピンポーン

おいおいまじかよ、また22時だぞ。昨日の今日でめちゃくちゃいらいらしてきた。

すると、、

「ねぇー

いるんでしょー?

あーけーてっ」

予想外のカワボだ。

ん?どうすれば良いんだ。こんな可愛い子に文句をずけずけ言うわけにもいかない。

けどこの子は誰なんだ?俺は誰とも約束してない。

そもそもこんな時間にピンポンしてくるのは、誰であっても不快だ。

怒るのはやめといて、とりあえず顔だけでも見てお

ピンポーンピンポーン

ドンドン

結構乱暴だな、行くから待ってくれ

ピンポーンピンポンピンポンッ

ゴンッ

ゴンッ

ザァッ

何の音だよ、なんかぶつけてる?

「ごめんてー

なんででてくれないの

はやく

はやく」

「うるせえっ!」

おお、近所の誰かが怒ったみたいだ。引っ越し早々こんなリアルなご近所さんの怒号を聞くことになるとは。

幸い?俺の出る幕はなく、音も止んだ。

コトッ

郵便受けに何かが落ちた。

あの子からの手紙だろうか。

電気はつけず、ゆっくり玄関までいき、ポストをガサガサ

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ガシッ

いたっ、何かが手首を思いっきり掴んできた。

「いるじゃーん!いるじゃーん!!!

いるじゃん、、

なんでいないふりしたの?ねぇなんで?

いるじゃー」

「うるせえってんだよ!いい加減にしやがれ、痴話喧嘩ならよそでやれってんだ!」

フォンフォン

別のご近所さんが通報したらしく、警察までやって来た。

やべえ、酒がバレるのはやべえ。

俺の手首を思いっきり掴んでた手は何者かに引き剥がされた。

速攻で居間までダッシュしてマスクを装着。

その間にも、女の金切り声やおじさんの怒号、警察官の制止する声などが聞こえる。

何なんだよ、俺は自由空間を満喫していたいだけなのに。

しばらくして

ピンポン

「警察のものですー」

俺は仮病作戦を決行し、ウィスパーさんも驚くウィスパーボイスで乗りきった。

彼女との関係や騒音に対する注意を受けたが、事情がわからないため、パトロールは強化してくれるとのこと。

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ほっと一息ついていると、手首がじんじん痛い。今まで気に留めていなかったが、爪を押し込まれた痕が真っ赤に腫れている。

何なんだよー、もう全然かわいくねえよ。警察に見せて傷害罪とかで逮捕させればよかった。

俺はヒリヒリする手首を冷やしながら、爆音で音楽を聴きながら眠った。

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なんとも眠れず朝を迎えた。そして最悪なのは、昨日あいつが手紙をおいてったことを朝一で思い出してしまったこと。

まぁみるかあ。。

上京して早々こんな体験、これから4年間の良いネタになる。

「今日も遅れちゃって本当にごめんね、会うの楽しみで張り切ってお化粧してたら遅くなっちゃった。

だから許して。

そんなに怒らないで、はやく扉を開けて

いえのなかにいれて

おねがい、はやく扉を開けて

明日は絶対会おうね」

なんだか頑なに扉を開けない彼氏みたいな書き方をされている。いっそ扉を開けない俺が悪いんだろうか。

ヒリヒリ痛む手首がそんな甘い考えを吹き飛ばした。

理由はどうあれ、もう勘弁だ。

最近はまともに自由空間を満喫できていない。

今日こそ面と向かって勘違いを正してやる。

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19:59分

そわそわするが、あの女はしっかりおめかししているらしく、20時には来ないだろう。

ピンポーン

まじか

来たよ。

どうしよう、とりあえず出るか?

ピンポーン

ピンポンこそうるさいが、今日はやけに控えめだ。なんだかすっかり馴染みのやり取りみたいになってきた。勘違いしてるならあまりに不憫だから、ちゃんと言ってやろう。

はーい

極力自然を装って、返事をし、覗き穴を見るが、前回と同じく真っ暗だ。

壊れてんのかな

ん?なんかうっすら白くなった

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玄関のドアを少し開ける。

ん?いない

ドアをもう少し広げて、確認しようとしたところ

「わぁー、うれしーい!

ありがとー」

女が現れた。

うわ、全然かわいくねえ。

その可憐な声からは想像もつかないような見た目だ。夜の街灯に照らされてもわかるレベルの髪のパサつき、俺の部屋から漏れ出る光に照らされた顔は歯並びはがたがたしており、心なしか目も落ち窪んでいる。

なんだよ、さっさと切り上げよう。

「すいません、勘違いなさっていますよね?私は最近越してきた者で、恐らく想像してる人物ではな」

「んーん!合ってるよ!

おうちのなかいれて?さむーい」

「いや。だから、人違いだと思いますよ。失礼ですが、私は貴方を存じ上げません。もう夜も遅いですし勘弁していただけませ」

「なんでよ!!私が遅くなったから?頑張ってお化粧したのにちっとも褒めてくれないし。。そんなに怒らなくても良いじゃん!!

早くいえのなかにいれてよ」

「いや、すみません。だれか本当にわからないんです、お引き取りください」

そう言ってドアを閉めようとしたところ、

ゴスッ

女の頭が挟まってる

しかもこっちを見て笑いながら

すいません!

とっさに開けたと同時に

「いたーいじゃーんー!!いたーいー、ねぇどうすんの?また警察呼ぶ?今私の頭挟んだから捕まえてもらおうかな」

もう意味わかんねえ、俺が捕まるのか?俺が悪いのか?まあ確かに故意ではないとしても、怪我はさせたが。

「はやくいえにいれてよ

お願い、頭も痛いし」

キィッー

ドアを開けた。

「ありがとーう。えー結構汚いね、後で掃除しなきゃ!」

居間に座っていてもらって、酒をコップに注いでだした。

「すっごい優しいね、喉からから!」

彼女はそれを一口飲んだ。

「あーおいしい!」

よほど気に入ったのかもう一口飲もうと、コップに口をつけようとしたが

ゴポッ

大量の吐血。

「くるしぃ、くるしぃよ!!

なんで??なにか、なにカハイッ、、」

目は黄ばんで充血している。

元々の顔も相まって、ただただ汚い。

そのうち彼女はピクピクと痙攣し始め、血を吐きながら、ギョロギョロと目を血走らせ、死んでいった。

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お前が家に入りたいって言ったんだ。

俺はstay homeを満喫してたし、この生活が続けば良いと思ってた。

いつか終息して、stay homeが再びニートと呼ばれた時、ぎりぎりまで籠城して耐えきれなくなったら使おうと思ってた。

こんな人生も悪くない。

これで俺は普通の人じゃなくなった。

さぁ、

国のため、

大切な人のため、

自分のために、

stay homeを続けよう。

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