短編2
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顔がない人間

俺は、会社帰りの夜道を歩いていた。

もうすっかり夜も更け、手元の腕時計は午前の2時を指している。

残業が随分と長引いてしまった結果なのだが、会社に泊まらなくていいのはまだマシな方だった。

俺が退社した時も、まだ何人かは忙しそうに仕事をしていた。 気の毒なものだ。

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深夜に出歩くのは少し不気味だな、と今更に思う。

普段からこの道を使用していたが、この時間となると、見慣れた道でも怖く感じる。

しかし、⋯⋯?

何処と無く、いつもの道とは違う気がする。

⋯⋯、残業で疲れているんだなと、俺は気にも止めなかった。

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「⋯⋯がない。⋯⋯がない。」

しばらく歩いていると、女が歩いて来るのに気付く。

何かを呟きながら、スマホのライトを使って必死に、何かを探しているように見えた。

俺はその女に興味を覚え、話しかけてみることにした。

正直、俺は残業明けで疲れていたから、はやく帰りたかったのだが、こんな夜遅くに何を探しているのだろう、と好奇心が芽生えたのだ。

俺は女に

「どうしたんですか」

と呼びかけた。

深夜にいきなり話しかけられて、少し驚いたのだろう。

女は一瞬ビクッと体を強ばらせ、ずっと下に向けていた顔を、初めて俺に向けた。

「⋯⋯、え」

俺は顔の血が引いていき、青ざめていくのがわかった。

女は顔を上げた時、俺と目を合わせた。

⋯、いや、合わなかった。

女には、目がなかった。

目だけではない。女の顔には、およそ顔と呼べるようなものがついていなかった。

本来ならそこにあるべきものが欠けていた。

「う⋯、あ」

俺はあまりの恐怖に思わず尻もちをついた。

口も、ガクガクと震え、言葉が出ない。

「きゃああああああああああああああああああ」

俺は、とても大きな悲鳴を聞いた。

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香織は男を見て絶句した。

「きゃああああああああああああああああああ」

周りに響く悲鳴が、自分のものであると気がつくのにも時間を要した。

ありえない。

香織は己を奮い立たせ、男から逃げた。

何故なら、何故なら。

この世に顔のある人間など、いるはずがないからだ。

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