中編6
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月島喫茶(0)

『プロローグ』

1月上旬。

私は必ず毎年ここに一人で脚を運ぶ。

空気はまだまだこれからと言わんばかりに頬を刺すような冷たさが感じられる。周りを見渡すと地面や草木が所々凍てついていた。

私は大勢の人混みに紛れお詣りをする為、長蛇の列に並んでいる。

これだけ人が居ても気温は変化がなく、息を吐けば白いモヤが私の口内から出現して一瞬で煙のように消えていく。

「うぅ、寒い寒い.....。」

本日何度目だろうか、そう呟く人々が私の横を通り過ぎていく。私も列に並び、身体を小刻みに震わせ、鼻を赤くさせながらボソっと「寒い.....。」と呟いた。

そして数分が経ち、ようやく私の番がまわってきた。

私はお賽銭に10円を入れ、鈴を鳴らし、手を2回叩く。そして瞳を閉じ、拝む姿勢をとった。

ここで何か願い事をするのが普通なのだろうが、あいにく私は神様にする願いは持ち合わせていない。神頼みではなく自分の人生は自分で切り開く、かねてから私は自分にそう言い聞かせて生きてきた。

では、なぜ毎年ここへ脚を運ぶのかというと、それは私の幼少期に遡る。

母と父、家族3人で毎年この神社に訪れ、お詣りをする。ごく普通の家庭で普通の幸せ、お詣りが終わると、母は私に「今年はなにを願ったの?」と優しい笑みで問いかけてくる。

「来年も3人で来れますように!って願った!お母さんは?」

母は微笑み「お母さんはアナタがこの先もずっと幸せに生きていく事を毎年心から願ってるよ。あっ、ついでにお父さんのこともね。フフッ」

和ましい雰囲気の中、母は私の頭を撫で、その隣で父も朗らかな表情で私達を見守っていた。母が願うまでもない。私は既に幸せだった。本当に『幸せ』という言葉を全身で浴びるように感じていた。私はこの時、この家庭に産まれて来れた事を神様に感謝していた。

そう、あの日までは......

私が9歳になった時の事。いつも学校が終わると家に帰る前に公園で友達と遊ぶのが日課になっていた私は、その日も学校の近くの公園で遊んでいた。親には門限は17時までといつも言われていたが、その時、季節が夏だったので日が沈むのが遅かった。気が付けば19時に差し掛かろうとしていた。時計を見ずに無我夢中になって遊んでいたことが原因だったのであろう。辺りは暗くなろうとしていた。

「あっ!もうこんな時間!帰らないと!」

私は時計に視線を向け、そう口にした。

「ホントだ!全然気付かなかった。帰ろっか!」

そして公園を出てお互い違う道に分かれた。

「じゃあまた明日ね~!」

私と友達は手を振り、家に少し早歩きで帰った。

公園から家までは多少距離があったので案の定、帰宅途中で既に辺りは真っ暗になってしまった。

私は急いで家に着き、玄関のドアを開けた。

「ただいま~!」

威勢よく声を出したが誰からの返事もない。この時私は妙な違和感がした。もう母も父も帰宅している時間なのに、リビングの電気がついてない。

私は不思議に思い、「お母さ~ん。お父さ~ん。」と呼びかけたが一向に返事がない。

仕方なく私は靴を脱ぎ、リビングへ脚を運んだ。

「買い物にでも行ってるのかなぁ~」と私は思い、リビングの電気をつけた。

その瞬間、私は眼を疑った。今まで当たり前のように感じていた『幸せ』は一瞬で崩壊した。母と父がリビングで倒れている。しかも、身体の至る所から大量の出血。恐らくメッタ刺しにされたのであろう。私は状況を飲み込むのが少し遅れ、気付いた時には声を上げて泣き叫んでいた。双眸を充血させ、大量の涙と鼻水、そして、部屋中を轟かせる大きな嘆き。

さらに、チラッとだが、犯人と思しき人物が勝手口から出ていく姿を目撃してしまった。

その瞬間背筋が凍り付き、自然に口を閉ざした。

私はしばらく放心状態となったのだ。

警察は母と父、共に致命傷となる部位を複数刺され、もだえ苦しむ間もなく死亡。と世間に供述した。私は警察に目撃の話はあえて公言しなかった。

その後私は母方の祖母に引き取られ学校も転校し、強制的に新たな生活を始める事となった。

この時私は「神様なんか存在しない。もし存在するなら私は貴方を絶対に許さない。」と、半ば八つ当たりの如く思い続けるようになってしまった。

それでも毎年お詣りに行く理由は、思い出す為.....母と父......あのかけがえもない幸せな時間......その輝かしい記憶を鮮明に思い出す為......いや、それもあるが、本当は.....なんとなくだが、この場所へ訪れ、鈴を鳴らし、瞳を閉じると、同じように母と父が隣で拝んでくれている......そんな気がしてならないから。

それが、私を毎年この場所に通わす理由。

毎年、お詣りが終わると、「今年はなにを願ったの?」と母の声が聞こえてくるような気がした。

「なにも願ってません。なぜなら神様はあの時の私の願いを叶えてくれなかったから。」

私は胸を苦しませながら心で思う。

この答えに母と父はどんな表情を浮かべるだろうか。私はどんな表情でそれを口にすればいいのだろうか。母は今でも、こんな状態になってしまった私の『幸せ』を願い続けてくれてるのだろうか......。

あの悲劇からもう20年経つ、犯人はいまだに捕まっていない。

手掛かりすら、なにも挙げられていない。世間も、もうこんな事件は忘れ去られていることだろう。

警察もこの事件は関してもう動いている形跡はなさそうだった。

私は高校を卒業と同時に祖母の家を出て、独自に犯人を追う事を心に決めた。

様々な職を転々とし、プライベートでも調べたが、いまだに手掛かりはない、警察にも入ろうとも思ったけど、自分の思い通りに事件を追う事は出来ないかもしれない。そもそも、もし自分が警察の人間で、新たに入ってきた新人があの事件の子供だとが知り、その者をあの事件の担当にするだろうか、警察側からすれば、なにをするかわからない。最悪その犯人を殺してしまうかもしれないと不安に思う事だろう。

そう考え、私は警察には入らなかった。

しかし、今の仕事は少し有力かもしれない。入ってまだ間もないが、理由があって表沙汰にできない情報がかなり舞い込んでくる。いわいる裏世界の仕事だが......。

『月島喫茶』

表向きは普通の喫茶店だが、この街の人間なら知らない人はいないだろう。

ここの店長(月島金嗣)は顔が広く、あらゆる情報を網羅している。なのでこの喫茶店に情報を頼りに様々なワケあり客が依頼に訪れる。いわいる『なんでも屋』ってやつに近い。

基本的に表沙汰に出来ない情報を求め、依頼人がやってくる。そして依頼人と交渉し、調査に入る。という流れで仕事が進んでゆく。内容は様々で、「これって警察や探偵に行った方がよくないか?」と思わせるような依頼も多い。だが、なんらかの事情でそれが出来ないのであろう。しかし、その事情は私達が考える事ではないので基本的に追求はしない。

そのせいでかなり違法的な依頼も来るが、警察にバレることはまずない。いくら調査に来ようが何の証拠もなく、ただの喫茶店に見せかけているからだ。もう警察はわかっていながらも黙認している部分もあるだろう。

店長には私の過去を話している。

過去を打ち明け、その犯人をどうしても探し出したい。そう言って頭を下げてここで雇って貰えている。

私は犯人を必ず見つけ出す。そして、店長はどう思うかわからないが、私はその者を警察に突き出さずに、見つけ次第必ず殺す。

これは、母や父、そして私からの人生を賭けた復讐の物語。

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@源さん
ありがとうございます(^_^)

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続編楽しみにしてます。

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