短編1
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祭り

主人の転勤で東北にいたときの話。

娘が幼稚園に入る前の年の夏。

夕刻。夏の空はまだ高く明るかった。

いつものように買い物を終え、社宅へ戻る車中でのこと。坂を下っている時に娘が言った。

「おまつりだー。いっぱいひとがいるね。◯◯(娘の名前)もいくー」

娘が言った。

「はあ?」 

何台かの対向車が過ぎ行き、後続車もいる。だが、歩道には誰もいない。

「人ねぇ…」

いないんだけど…

そう思いながら、周りを見てハッとした。

ゆるい下り坂は、先でゆるいカーブになっている。そのカーブの向こう側に雛壇になったお墓があった。

引っ越してきてから何度となく通った道。でも私は今までここにお墓があるのは気がつかなかった。

殆どの墓に花がお供えしてあるのが見える。

でも人は誰もいない。

ちょうどお盆の時期だった。

「誰もいないよ」

私は言った。

「いっぱいいるよ。たのしいんだよ」

娘は笑っている。

私には視えない、その人たちを見つめる娘の瞳は輝いている。

これは視てはいけない人たちではないのだろう。

「そっかー。楽しそうなんだ。お家に帰れるから嬉しいんだね」

そう言いながら、ひと気のない墓場を横目に、私はゆるいカーブを曲がって家路を急いだ。

Concrete
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@天津堂さん こんばんは
子供は無邪気なぶん、目にみえないモノを語らせると怖いです。あまりに怖くて視えてるであろうモノを全否定したこともありましたが、今回のはあまり恐怖をかんじることはなかったです。
天津堂さん、いつも御読みくださり、また丁寧なコメント有難う御座います。とても励みになります。

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