長編10
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おん首さま

(編注)

 以下の記録は、とある中学生(少年Aとする)の残したSNSの記事(現在家族の手により削除されている)、およびスマホの録画・録音記録を独自のルートで入手し作成したものである。ただし映像については激しく画面が乱れており、何が映っているのか判別ができなかった。

 編者はできるだけ辻褄が合うように分かりやすく話を整理するため、多少細かい話や矛盾点については割愛した。尚、この記録を残した中学生は現在死亡している。彼が死の間際に残したと思われるスマホの音声記録(文字起こし機能付き。SNSへの投稿にはこれを用いていたようである)は、最後は殆ど聞くに堪えない絶叫となっており、その背後で聞こえる言葉も解読が困難であった。この件が一年前に起こった彼の友人の不審死と関連があるのかは定かではない。

 編者は本記録を作成するに当たり、実際に当該地xxを訪問して神主にも取材を行った。尚、地名や人物名は事件が未解決であることを鑑み、あえて伏せている。民俗学的な部分については、とある地方にだけ伝わる特殊な伝承、とだけ言っておこう。

 また、読者がこの記録を読んでxxを割り出し、興味本位で詮索の上何かしらの事件に巻き込まれるようなことがあっても、当方は一切その責を負わないものとする。

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 修学旅行で、とある田舎を訪れた時のことだった。低予算で組まれた修学旅行だけあって周るのはxxという自然豊かな地域で、要するにド田舎だった。

 途中、「おんくび神楽」というものを見学した。xxの古い神社に伝わるもので、本来この神社からさらに山奥の「おんくび滝」に奉納するものらしい。それは一体の人形に舞を舞わせ、最後に首を切り落とすという変わったものだった。

《(編注)「おんくび神楽」の由来は戦国時代にまで遡るようだ。飢饉に喘いでいた村が口減らしに間引きを繰り返し、その遺体を滝つぼに投げ捨てていた。しかし村人が次々に不審な死を遂げ始めたので、祟りだと恐れられるようになった。間引きされた子供の霊を慰めるために神社を建て、神楽舞を奉納することになったらしい。人形のモデルは最初に犠牲になった女の子だそうである。》

 神主の説明に、Kは退屈そうに「ひぐ〇しかよ」とか言ってバカにしたように笑った。Kは近頃家庭不和のせいでいきがっていた。俺の親も離婚したばかりなので、そういうところで気が合った。こんなド田舎の貧乏神社なんか見てもなんも楽しくねえよな、とお互い言い合った。

 担任バカ教師のTが、神主に色々と質問していたが、最後に俺とKを睨むようにしながら、

「お前ら、明日はその滝を見に行くが、くれぐれも粗相するんじゃないぞ」

と言った。Kはへっ、と唾を吐いた。「あんな恥ずかしい姿曝しといて偉そうによ」と二人で顔を見合わせて笑った。

「なあ、神社の中に入ってみようぜ」

 自由時間、神社近くの自然公園で皆が弁当を広げて思い思いの場所で昼食を取っていると、Kが俺とSに提案した。Sは幼いころからの付き合いだが、何となく俺とKの子分みたいな感じだった。

 神主がTの質問に対し、「拝殿の中に祭りに使う人形がある」と答えていたのを覚えていたのだ。神主とTはそれがいかに歴史的価値があるものかを話し込んでいた。Kはそれを聞いていていたのだ。

Kは別に本気でお宝があるなんて思っておらず、ただTの奴をコケにしたかったのだろう。俺の方はと言えば、人気番組「おお!!タカラ鑑定団」みたく掘り出し物があるんじゃねえかくらいには思っていた。Sは不安そうにしたが、結局の三人で忍び込むことになった。

 神主がいないのを見計らって、祭壇までこっそりと上がった。Sはこんな時でも靴を脱ぐなんてお行儀のいいまねをしていたのでKに早く上がれとせっつかれていた。

俺らは誰かが近づく足音がするたびにじっとして、人が通り過ぎるのを待った。祭壇の上には鏡があったが、無論そんなものに興味はなかった。

だが、拝殿の中は簡単なつくりで、探索できるところは殆どなかった。結局、興味を引いたのは祭壇の下に隠されるように置かれた小さな箱くらいだった。

 それは桐でできた鍵付きの箱だった。箱の全面にわたってお札らしきものが貼られていた。

「これ、なんかやばくない?」

Sが不安そうな顔でそう言った。俺もそう思ったが、ここまで来て手ぶらで帰るのも癪だったので持ち帰ることにした。Kの鞄に収まるサイズだったので無理やりに押し込んでこっそり神社を抜け出した。

その後、人気のない場所で、Kと俺が両手に何とか抱えられる岩を持ち上げて、箱にぶつけた。何度も繰り返しているうちに、とうとう蓋が割れた。

「うわっ」

Kが思わず声を上げた。中には着物を着せた木製の人形がびっしり詰め込まれていたのだ。それらは一体を除いては全部首が欠けていた。よく見ると、作った後で斧か何かで断ち切ったようだった。

その中心に安置されていたのは、小さな女の子の人形で、顔が真っ白に塗られているが目、鼻などは彫り込まれておらず、薄汚れていて薄気味悪いしろものだった。

元の場所に戻したらどうかとSが言ったが、Kはつまらなそうに、「なんでだよ、今更……」と取り合わなかった。Kが少女の人形を戦利品として鞄にしまったところで、みんなが乗るバスに戻った。

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 その夜は地元の旅館に泊まった。俺たちにはほかの班と十畳ばかりの部屋が割り当てられていた。テンションの上がっていた俺たちは夜遅くまで携帯ゲームや噂話で盛り上がった。その頃には人形のことはすっかり忘れていた。

 夜も更けてくると、さすがに一人、また一人と布団に潜って眠りについた。全員が寝たのは三時半を過ぎた辺りだったと思う。

 一旦は眠りについた俺だったが、ふと奇妙な感覚に襲われて目を覚ました。そして、はあっ? って言いたくなるものを見た。

 人が踊っていた。数は多すぎて何人いるのか分からなかった。奇妙に手を振り回し、足を跳ね上げてぐるぐるとKの周囲を廻っていた。その姿は半分透けていて、首から上が欠けていた。激しく動いているのに、物音が一つも聞こえない。ああ、これは夢なんだな、と一人納得した。

 夢にしても気味悪いなと思いながら、ふと誰かの視線を感じてそちらに目を向けた。すると、わずかに開いた襖の間から、白い顔が覗いていた。おかっぱ頭の少女だった。どんよりした黒目でじっとKの方を見つめていた。その顔の感情の無さに、思わず背筋に悪寒が走った。

 襖が音もなく大きく開いて、おかっぱ少女が部屋にそろりと入る。そのシルエットの異様さに、俺は叫びそうになった。部屋に入ってきたのは、天井にも届きそうなくらいの何かの塊だった。鼻をつく腐肉のにおいを充満させ、妙にごつごつとした肉肉しいものの間から、白いおかっぱ頭だけが、闇夜にくっきりと浮かび上がっているのだった。

 それはぞろり、ぞろりとカタツムリのようにKの所まで這って行った。そして、Kの顔を正面からのぞき込んで、ヌチャ~~~、と途轍もなく気色の悪い表情で嗤ったのだった。

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 それからどうなったのか、覚えていない。気が付けば日が昇っていて、Kも何事もなかったかのように皆と朝食をとった。

 午後に訪れた滝つぼ────例の、神楽を奉納する本来の場所だ────を訪れた。思ってたより広々とした場所で、皆思い思いの場所に陣取って涼んでいた。滝つぼの水は水際こそ澄んでいたが、奥に行くにつれ淀んで黒ずんでいた。

Kはわざと滝つぼに小便をしたりしてTを挑発した。Tが予想通り怒声を上げて俺たちに向かってきたので、大急ぎで逃げ出した。

「お前ら、後で指導だからな!!」

大声で怒鳴るTを、俺らはニヤニヤしながら無視した。だがその時、Kが突然凄まじい絶叫を上げた。

 目の前で、Kの首がねじれる様にぐるりと回転していった。俺たちは余りのことにぎょっとして目を見張ったまま何もできなかった。Kは飛び出さんばかりの充血した目玉で、俺に助けを求めているようだった。だが無慈悲にも首はさらに回り続け、ボキボキと骨が砕け、ギチギチと肉の裂ける音が否応なく耳に入ってきた。

 そして、とうとう容赦なくねじ切れた首が、ごろりと滝つぼへ転がり落ちていく。首元から血を噴き出しながら胴体がどさりと倒れた。Kの首は滝つぼの奥にぷかぷか流れていったが、とつぜん何かに引っ張られるように水中に沈んだ。

 その時、俺たちは見た。ごつごつとした肉の塊のようなものが身をくねらせるように水面に姿を現した。ひい、と女子の誰かが悲鳴を上げた。

 肉塊の盛り上がった部分は、すべて人の頭だった。両目が飛び出してごろんごろんと揺れて、舌がだらりと口の外に垂れていた。それぞれがうおおん、うおおん、とうめき声を上げている中で、ただ白い顔の少女だけは一人夢でも見ているように恍惚とした笑顔を貼り付かせ、喉の奥で肉のこすれ合うような、キュッキュッキュッという奇妙な嗤い声を立てていた。それがKの首を咥え、口の端を広げてヌチャ~~と嗤ったかと思うと、再び水中に潜っていった。

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 あれから一年が経った。Kの変死は何故か騒ぎにならなかったな。地元の警察が現場周辺でヒソヒソ話し合っていたけど、事件のもみ消しでもしてたんだろ。税金泥棒が。あの時の目撃情報も集団催眠で片付けられてしまったし、Kの葬式も身内だけの密葬だったみたいだ。

 Sを含め、当時の同級生の何人かは精神科に入院してる。俺は地元に住み続けているが、頻繁に悪夢を見るようになって、色々あって不登校になった。

 悪夢を見るのに昼夜は関係なかった。夢の中では首のない村人が踊り狂い、首団子を背負う少女が俺を見てニタニタしている。俺は冷や汗を流しながら念仏を唱えてるんだけど、その必死な声を上から押し被せるように、恨めしそうな、しわがれた声が俺の名を呼び続ける。長く尾を引く、聞き覚えのある気味の悪い声で。間違いなくKの声だ。

 にしても今日は母親がうるさい。部屋に入っていいかってしつこく聞くんで勝手にしろと言ったら、今度は後ろでぎゃあぎゃあ喚きやがって。人の気も知らずに。

 黙れ!!何なんだよクソババア!! …………あ、あれ? あ、あ、あああああ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“!!!!!!!!!!!!!!

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(補足)

 以後、複数の気味の悪い雄叫びと、解読不能のぼそぼそつぶやく声、肉のこすれるような笑い声、ギチギチ、ボキボキと骨が砕けるような音の後、静寂。

 後に残されていたのは、血まみれのスマホと、首のない少年の遺体のみであった。なお、この日母親はパートに出ており、少年は家に一人であった。

 またAは知らなかったようであるが、彼が殺害される十日ほど前に彼の友人Sが精神病院で自殺している。彼は終始何かに怯えており、特に死亡する一週間前辺りから眠ることすら怖がっているようだったと複数の職員が証言している。

 また、呪いと関わりがあると見られる人形については、その行方はついに分からなかった。

 ところで編者は、AやKの発言を不審に思い、教師Tを出自まで遡り調査を行った。教師TはしばしばAやKと揉めており、職員の間でもその対立は有名であったという。また、この二人がTの盗撮画像を録り彼を脅迫していたという噂が一部生徒の間でも流れていたようだが、真偽は不明である。

 そもそもxxを修学旅行先に強く推薦したのは教師Tであった。Tの実家はG県だが、そのルーツはxxであり、恐らく「おん首神楽」などについてもある程度のことは知っていた可能性がある。あえてKやAを扇動するような言動を取ったのが故意か偶然かは不明であるが、結果三名の生徒の命が犠牲になったことは事実である。編者はTに取材を申し込んだが返事をもらえず、再三連絡を入れるとやっと返答が来て、丁重に断られた。ちなみにTはKの死後、G県に戻り教師を続けている。

 

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(編集後記)

 この記録を作成した後、編者もまた少年Aが見たのと酷似した悪夢に何日も連続でうなされたり、幻聴や幻覚に悩まされるようになった。

 さすがに異常を感じたので、友人の伝手を頼り、祓い屋に除霊を依頼したところ、彼女は真っ青になって当該記録を公開し、音声も動画サイトに上げ拡散させるように指示された。こうすることで、「おん首さま」の呪いを薄めることができるそうである。さすがにあの音声を流すのは憚られるので、この資料を公開することにした。

 故にこの記録の読者のうち、「おん首さま」に白羽の矢を立てられたと思しき読者は、直ちにこの記録を可能な限り拡散することを推奨する。

 

 しかし編者の場合、既に手遅れだったようである。今もまた、PCモニタの画面が数秒おきに歪んでは「おん首さま」の白い顔が画面一杯に映り込むなどしており、この記録もこれで最後となる可能性が高い。一応断っておくが、編者は麻薬覚醒剤などの使用履歴もなく、また精神疾患の可能性は低いと自分では考えている。

 もし可能ならば、読者の中にこの「おん首さま」を封印する手立てをjjっじゃsvんqwmか;ぇ・ヴぇqmksFvmlce;ds..kndkdkflllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll

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《追記》

 主人の様子がここ最近おかしかったのですが、とうとうある日、事務所で本資料を作成中に何者かに殺害されました。記録はここで尻切れトンボに終わっており、モニターやキーボードに血飛沫が大量に飛散していたことから、資料作成中に突然襲われたものと推察されます。

 遺体からは首がもぎ取られており、他に外傷はありませんでした。頭部はまだ見つかっておりません。出入り口の監視カメラの映像からは不審者も見つからず、迷宮入りは確実のようです。この資料の「おん首さま」については、私は何も存じません。

 読者の皆様におかれましては、何卒身辺にお気をつけ、異変を感じましたら直ちに対策を取られるよう祈念しております。

                                             編者の妻よ"yrrpDh-_''&dれび!dy⁴4444444444444444444444444

Concrete
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