中編3
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Aくん曰く

僕が7歳のころ、おばあちゃんが亡くなった。

家系の長老格の訃報というだけあって、葬儀には親戚一同が揃って、しめやかに式が執り行われた。

葬儀の準備中、斎場に集まった面々の中に僕のいとこで、当時4歳のAくんの姿があった。

彼は何やら不思議そうな顔でご遺体の納められた棺を見つめている。

Aくんが口を開く。

「ねえ、おばあちゃんは、いなくなっちゃったの?」

幼児の素朴な疑問に、彼の母親(僕の叔母さん)が答える。

「大丈夫、おばあちゃんはいなくなってないよ。これから神様のところにいくの」

「ちがうよ。”さっきおばあちゃんのカラダから出てきた、もう一人のおばあちゃん”だよ。どこにいっちゃったの?」

その一言で、会場の空気が重たくなったのが、子供の僕にも伝わってきた。

大人たちがざわついている。幼児の純粋な一言ゆえに、なおさらだ。

僕はふと、斎場内の梁のところに一輪の赤い「花」が刺さっているのに気が付く。

何故かはわからないけれど、その花はおばあちゃんの棺のほうを、じーっと眺めているような気がした。

「ねえ、お母さん。あの花なんだろう?」

僕は花を指さして、母に尋ねた。

「えぇ!?花なんてないじゃない。やだもー、へんなこといわないで」

僕の一言で皆をさらに驚かせてしまったことは反省する。

でも花は相変わらず、棺を眺めていた。

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それから3年後、今度はじいちゃんが死んだ。

ばあちゃんのときと同じく、親戚みんなが集まった。やっぱりAくんの姿もあった。

Aくんは会場に入るや突然叫び出した。

「ねえ、やっぱりおじいちゃんもいなくなっちゃったよ!?おじいちゃん、苦しそうにしてた!すっごくこわがってた!」

こわいよ、こわいよ、と言って大泣きしながら母親にしがみつくAくん。

前回の件もあって、叔母さんもはじめは「いい加減にしなさい」と戒める姿勢だったが、そのあまりの泣きじゃくりぶりにただ事ではないと判断したのか、Aくんをギュッと抱きしめた。

大人たちもざわつき始める。

「わが一族は呪われているのか」なんて声も聞こえてきた。

ちなみにこの時も、僕は会場の端に例の赤い花を見つけた。

でも、あえて何も言わなかった。

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時がたって、僕が高校に入ったころ、今度は親戚のおじさんが死んだ。

酒の飲みすぎだったとさ。

もちろん葬式はきちんと行われ、僕は久しぶりにAくんとも再会した。

このころになると、僕もさすがに察しがついた。

Aくんには霊感がある、と。

そしてみんなには見えなかった例の「花」が見えた以上、僕にもある程度の力が宿っているらしいことも。

ただ、死んだ人の霊を視認できるという点で、Aくんの方がより強い力を持っているようだった。

葬儀が終わったのち、僕はAくんと話すことにした。

「・・・おじさんの霊、どうなった?」

「いなくなった。

・・・いやたぶん、”喰われた”」

「ばあちゃんや、じいちゃんの時もそうだった?」

Aくんが無言でうなずく。

「誰に」

「・・・たぶん、あいつに・・・」

彼がゆっくりと指さした先には、梁の上からおじさんの棺を見下ろす、赤い花があった。

心なしか、初めて見た時よりもさらに、もっと、赤く見えた。

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