長編16
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第二部 ジサツオフ 2

目が覚めたのは真っ白な部屋だった。

何が何やら分からずボーっとしていたら、ガチャっと音がして数人が部屋に入ってきた。

白衣を着た医師風の男2人と、女性の看護師さん。

どうやらここは病院のようだ。

医師が私の状態をチェックし、看護師さんが水を飲ませてくれる。

どうしようもなくダルくて頭痛も酷かったが、健康状態には異常がないと言われた。

喉がカラカラだったので水を立て続けに飲んでいたら、次は尿意に襲われた。

部屋に備え付けてあるトイレに行くにも、体が言うことを聞かない。

看護師さんに支えてもらいながらどうにかトイレへたどり着く。

いったいこれのどこが健康体だというのだ。

 

トイレを済ませ鏡を見ると、酷い顔をした自分が映っていた。

目の下のクマがえらいことになっている。

頬もこけ、やつれているというより病人のようだ。

看護師さん曰く私は1週間近く眠り続け、点滴だけで生き延びていたそうだ。

何が何やら分からないままにベッドに戻され、そのまま医師と看護師さんは部屋から出て行った。

 

「…………」

真っ白な天井を見つめる。

どうにか回り始めた頭で現状を推察する。

確かあの時、お香で酔っ払ってフラフラになり、皆がいなくなっていて、タツヤさんが地味女を……。

そうだ。

それで私は男達に拉致られたんだ。

ということはここは、あの男達に連れてこられた場所なのだろう。

医師や看護師さんの態度を見る限り、ヤクザ的な感じではないように思えるが、どういう目的でここに連れてきたのだろうか。

人生に悲観して自殺オフ会に来るような女を捕まえてどうするのか。

まさか臓器を……。

不安と混乱で頭がグルグルと回る。

まとまらない思考のまま、私の意識は再び沈んでいった。

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いい匂いに目が覚める。

窓の外から夕焼けの日が差し込んで、白かった部屋がオレンジ色に染まっている。

倦怠感も頭痛もだいぶ良くなっている気がする。

いい匂いの元は入り口に立っている人物が持っている食事から漂っているらしい。

グウとお腹が鳴ったものの、胃の奥にのしかかる不安に食欲が失せていく。

「タツヤさん……」

お盆を持って部屋に入ってきたのは、あの時と変わらない笑顔のタツヤさんだったのだ。

 

「やあ、体調はどうだい?」

親しげにそう言って近づいてくる。

「体は起こせる?起きたばかりでちょっと早いかもしれないけどお粥を持ってきたから、食べられるなら食べてね」

そう言ってお盆をベッド脇の台に置いて私に近寄り、上体を起こそうとする私を抱き起こすように支えてくれる。

「あなた、なんなんですか?」

我ながら驚くほど冷静な声が出た。

割と近くにあるタツヤさんの顔がさらに近づく。

私の目を見てウンとうなずく。

「元気そうだ。これからちゃんと説明するから、食事しながら聞いてくれる?」

 

膝の上に乗せたお盆からモソモソとお粥を口に運ぶ。

とても食べる気にはなれなかったのだが、話は長くなるし温かいうちにどうぞと言われ、仕方なく食べ始めたら、ベッド脇の椅子に座ったタツヤさんがくっくっと笑った。

はてなとタツヤさんに目を向けたら、とんでもないことを言い出した。

「よく僕から手渡されたものを食べられるね。何か仕込んであるとは思わなかったのかな?」

そう言って笑う。

唖然とする私の顔を見て吹き出す。

「うそうそごめん。何も入ってないよ。ちゃんと患者さん用の食事だから安心して」

この野郎と思いながらも、屈託なく笑うタツヤさんに気勢を削がれてしまい、ため息をついて改めてお粥を口に運ぶ。

いい年したオッサンのくせにやけに爽やかに笑う。

こちとら死ぬつもりだったんだし、今更恐れるものなんてないんだいと心の中で強がる。

でもまあ、臓器をいただきますとか言われちゃうと流石に嫌だけど。

「それで?なんなんですかあなた達」

私の言葉に答える形で、タツヤさんが口を開く。

 

「うん。まずは僕らの正体だね。NPO法人ミルキーウェイ。表向きはそうなってるけど実際のところは宗教団体。天道宗って名乗ってる」

宗教?薬物を使う宗教団体?

おかしいでしょどう考えても。

「僕らは計画的に自殺者を募っている。もちろん殺したりするようなためじゃない。そこは安心して欲しい」

「いや、だってあの時、殺したんでしょ?」

「まさか、君があの時に見たのは死んだフリみたいなものだよ」

「嘘。だって息してなかったじゃない」

「君は医学の心得があるの?」

「ないけど……」

「なんだったら電話してみる?あの時死んだように見えた彼女は普通の生活に戻ってるよ。君のことも僕のことも覚えてないけど」

「どういうこと?」

「平たく言えば催眠術。詳しく言うと企業秘密。まあとにかく臨死体験みたいな感じの時に暗示をかけるんだ。薬を使うのもそのため」

何を言ってるんだろう。

「まあとにかく、僕らは自殺したがってる人に声をかけて集めて自殺を思いとどまらせる。そのために暗示を使うって感じかな」

「なんのために?」

「もちろん人助けのために、って言いたいところだけど、まあぶっちゃけ宗教活動。ウチの団体ではそういう深層心理に働きかける術を勉強したりしてる」

そのために自殺志願者を集めてるというのか。

自分たちの術?暗示?そういう宗教的な行為の実験台にしてるというのか?

自殺を選ばざるを得ない人達の思いを踏みにじってまで。

 

「…………」

いや、自殺の自由なんて認められるはずがない。

彼らにしてみれば正当な理由なのかも。

「それって勝手にしていい事なんですか?」

なかば投げやりな私の非難ぐらいではタツヤさんは動じない。

「まあ緊急避難というか、ね。だって放っておいたらすぐにでも死んじゃうんだし。それに自殺したいっていう意思そのものは尊重してるんだけどね。その上でちょっと思いとどまってもらってるというか。これ以上はまだ教えられないけど、とにかくまあそういうこと」

強引に話を切って、タツヤさんは話題を元に戻す。

「それで自殺しちゃいそうな人に声をかけて、一緒に死にませんかって誘って暗示をかけて自殺を回避させる。騙し討ちしてることには違いないし、自分達の術の実践の場でもあるんだけど、それが犯罪かと言われたら違うと答えるよ」

騙して自殺をやめさせる。

確かに褒められたやり方じゃないけど、私のような人間に優しい言葉や厳しい言葉を吐いても自殺の意思は変わらないだろう。

だから効率的ではあるのだが、どうにも釈然としない気がする。

 

「でも、やめてって暗示をかけるだけで自殺って止められるの?」

たしか催眠術で人を殺せとか自殺しろというのは、本能的な何かで効かないという話をテレビで見た記憶がある。

はなから無理なことを催眠術で強要しても無理なものは無理。

そんな話だった気がする。

「死ぬ意思が弱い人だったら催眠だけでもやめさせられるよ。違う生き方や解決策を教えてあげるのも有効。でも死ぬ意思が強い人は催眠だけじゃ無理。だから死ぬ方法や時期をズラして回避させたり、まあ色々と面倒なこともやってる」

死ねという催眠は無理でも、死ぬなという催眠は可能なのか。

それはなんとなくわかる気がする。

誰だって死ぬのが好ましくて自殺するわけじゃない。

生きるのが辛くて自殺するんだから。

その本来であれば忌避するような嫌な決断を催眠で変える。

それならば無理はない、のだろうか。

 

そんな感じでタツヤさん達のやっていることを延々と聞いて、納得しないまでもなんとなく理解することはできた。

まあ暗示やら催眠やら企業秘密で散々ケムに撒かれて、グウの音も出なかったというのが実のところだ。

 

「私はどうして目が覚めたの?」

あの時、私もお香と注射で昏倒していたはずだ。

「うーん。まあごくたまにいるんだよ。お香とか効きにくい人。こればっかりは改善が必要なんだけど、それは開発してるミルキーウェイの人達に頑張ってもらうしかない」

「私はどうなるの?」

「体調が良くなるまでというか、しばらくはここにいてもらうかな。もともと死のうとしてたんだし生活に未練ないでしょ?」

「まあ…ないけど」

「僕も色々喋っちゃったし、まあしばらくはゆっくりしてってよ。これテレビ用のカードね。このカードだとテレビ見放題だから」

そう言ってカードをテレビ横の機器に挿入し、タツヤさんは部屋から出ていった。

 

「…………」

しばらくボーっとテレビを見てから、電気を消してベッドに横になり考える。

タツヤさんはしばらくここにいるようにと言っていた。

深く知りすぎた私を始末するつもりなのだろうか。

いや、それならそもそも詳細を話すだろうか。

こんな入院なんてするだけ無駄だし。

特に私に知られても問題ない内容だった?

自殺志願者を募って催眠術をかけて自殺を思いとどまらせる。

それだけ聞けば良い人達じゃないか。

 

「…………」

わからない。

けど、どうやら私を傷つける気はないらしい。

臓器を取られる可能性は消えたわけじゃないけど、少なくとも今は安全のように思える。

どうせ死のうとしていたのだ。

タツヤさんに答えた通り、生活に未練なんかない。

最悪、臓器を取られるとしても、痛くないようにしてくれるなら別に構わない。

人の役に立って死ぬならそれもいいか。

そんなことを考えながら眠りに落ちていった。

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翌日の午後、タツヤさんがノートパソコンを持ってやって来た。

私のための支給品だという。

そこそこのスペックのパソコンでポケットWi-Fiもある。

ネットを閲覧するだけなら充分すぎるほど。

使用には条件があり、閲覧のみに限るとのこと。

ネットサーフィンは自由にして良いが、メールやツイッターなどの発信はダメだと言われた。

タツヤさん達がやっていることをバラされたくないのだろう。

別にバラしたりするつもりもないのに。

もともと友達もいない孤独な身だ。

ツイッターの相互フォローも20人いない。

今さら誰に何を訴えようにも、そんな手段すら無い。

 

「…………」

本当に何もない。

私の三十数年は何のためにあったのだろう。

もう何度も繰り返した自問にため息すら出ない。

パソコンを与えてもらったのに微妙な顔をしている私に、タツヤさんは微妙な勘違いをした。

「別に君を疑ってるわけじゃないんだけど、無用なトラブルを避けたいだけだから、気にしないでって言いたいんだけど、やっぱり気になっちゃうよね」

私が落ち込んだポイントはそこじゃないのだが、逆に気を使わせてしまったことに少し罪悪感を感じて、私はフォローすることにした。

「ごめんなさい。パソコン使わせてくれてうれしい。ありがとう。微妙な顔してたのは、秘密をバラそうにもバラす相手がいないから」

そう言って笑う。

文字通り自嘲の笑いだ。

地味な三十代処女の自嘲の笑みなど重いにもほどがあるだろう。

タツヤさんは私から漏れ出した陰気を払うように快活な声を返す。

「まあとにかく、パソコンは自由に使っていいから。また来るから…あー…元気でね」

そう言って私の陰気から逃れるように部屋を出ていった。

 

はあ、とようやくため息をつき、ありがたくパソコンを使わせてもらうことにする。

Yahooニュースを見て、いくつかのまとめサイトを巡回する。

まったく何も変わらない。

私も、世間も。

こんな状況なのに私が最初に開いたのはYahooだし、無職女が死にぞこなったというくだらない事件など無視して世間は何事もなく回っている。

私の居場所はどこにもない。

変わらない現実を再確認して、私はまた死ぬことを考えていた。

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結局その後数日間入院するハメになり、退院した私は実家に戻るのではなく、タツヤさんが手配したマンションの一室に泊まることになった。

どうやら私を解放するつもりはないらしい。

あの時タツヤさんが言った言葉。

「命を捨てに来たんだから、拾った人の言うことは聞くようにね」

私が捨てた命を、彼らが拾ったのだという理屈。

そんなこと許されるものか。

そうは思うものの、戻るべき日常に何も無いのは、私自身が自殺オフ会で言葉にした通りだ。

「生活に未練ないでしょ」

繰り返し言われたその言葉は、いつのまにか私の心に深く浸透している。

実家に戻りたいという願いは、自分でも驚くほどに沸いてこなかった。

 

あてがわれたマンションの一室で、いつものようにネットサーフィンで時間をつぶす。

仕事もせずに一日中ぼーっと生きている。

食事も小遣いも問題なく与えられている。

外出も認められているが、自殺オフ会の時に私を拉致った男がマンションの前に居て、外出する時にはついてくる。

振り切って逃げることも考えたが、実家の住所もバレているだろうし、特に帰る理由もないのだから、あえて立場を悪くする行動をとるつもりもなかった。

 

天道宗について検索してみたら、少し前にラジオ番組で起きた心霊現象の原因と考えられている団体だったが、内容はとても信じられるものではなかった。

霊を集めてコドク?をしている。

所在も目的も不明で一切の手がかり無し。

それだけだった。

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マンションでの緩い軟禁生活が始まって数日経ったある夜、タツヤさんがお酒を持ってやってきた。

自殺オフ会のやり直しでもするのかと身構えたが、どうやら単純に私とお酒を飲むためにやってきたようだった。

ラジオ番組でのことを聞いてみたが、霊なんて妄想だと笑われてしまった。

それから週に一度か二度、タツヤさんは訪ねてくるようになった。

他愛もない話をしながら酒を飲む。

最初こそ警戒していたものの、結局いつも不審なことはないので、繰り返すうちに疲れてしまった。

臓器を取るつもりならとっくにやっているだろう。

タツヤさんの話題はテレビや映画のことがほとんどで、まるで友人と話しているかのような気やすい内容ばかりだった。

互いに手料理を振る舞うこともあった。

そうして一か月もする頃には、タツヤさんに対する警戒心は、気がつけばほとんど無くなっていた。

 

いつしか私はタツヤさんがやってくる日を予想するようになった。

来るのは3日に一度か4日に一度。

たまに不意打ちのように2日続けて来ることもあった。

タツヤさんがいつ来てもいいように部屋の中を掃除し、マンションから出ないのに化粧をして髪も整えておく。

今日は来ないと分かると虚しくなるのに、それでも時間だけはたっぷりあるので、私は飽きもせずにそうしていた。

タツヤさんがやってくる日は段々と増えていき、部屋に滞在する時間も長くなっていった。

そうしてある晩のこと、私達は一線を超えた。

タツヤさんが私をどう思っているのか、聞いたこともないし確認しようとも思わない。

だけど彼が私を求める度に私も快く応じたし、そのために1日に2度お風呂に入る習慣までついた。

それまで何もなかった私の日常は、タツヤさんと過ごすためだけに費やす特別なものへと変わった。

タツヤさん達に対する不安は消えなかったけど、目が覚めた時にベッドの中で見つける温もりを知ってしまったら、もう後戻りはできそうになかった。

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タツヤさんと外食に出たある日のこと、新宿の三角ビルにあるちょっと良いレストランで食事をしようというので事前に購入しておいた上品な服を着て行ったら、目も眩むような高層ビルの上にあるレストランで驚いた。

窓の外には見渡す限りの夜景が広がる、まさに映画やドラマでしか見たことないようなシチュエーションに鼓動が強まる。

緊張で挙動不審な私の肩を抱いて店の中へとエスコートしてくれるタツヤさん。

その横顔を見上げて、私は完全に惚れてしまったのだと実感した。

夢心地の中、味もよく覚えていない料理を食べ終えて、そのまま2人でホテルに泊まった。

朝目が覚めるとタツヤさんはいなかった。

1人の目覚めを不満に思いつつシャワーを浴びて部屋に戻る。

と、机の上にメモを見つけた。

 

『仕事があるので先に出ます。キタムラを呼んでおいたから、ホテルを出る時には駐車場にいる彼に声をかけてください』

と書いてあった。

 

キタムラというのは自殺オフ会の時に私を拉致った男の一人で、マンションから外出する時についてくるし、車を使う時には運転手もしてくれる私の監視役兼世話係みたいな男だ。

キタムラさんにマンションまで送り届けてもらい、改めて一人の部屋で寛ぐ。

事実上軟禁状態にあるというのに、私はすっかりこの生活に馴染んでしまっている。

むしろタツヤさんと結ばれたことで、人生で最良の数週間を過ごしていると言っていい。

自殺することばかり考え鬱々としていた日々が嘘のように思える。

お茶を入れてテレビをつける。

幸せを噛みしめながらまったりと過ごしていると、午後のワイドショーがにわかに緊迫した様子となった。

 

流行りのスイーツを紹介するグルメレポートを押し除ける形で速報されたのは、池袋駅前で起きた集団自殺のニュースだった。

視聴者提供のブレた映像がいくつも流れて、ビルの上から人がボトボト落ちていく映像が繰り返し流されている。

ついさっき池袋で実際に起きたことだというアナウンサーの言葉に、番組内は騒然となっていた。

どうにも現実感のないそのニュースを不審に思いながらパソコンでYahooを表示する。

トピックスのうち2つが池袋での飛び降りを伝えるニュースだった。

 

「…………」

本当なのだろうか。

そのうちの1つをクリックする。

テレビ以上の情報はない。

もう1つをクリックしても同様だった。

仕方ないのでニュース速報系のサイトを検索する。

そこに次々にアップされてくるのは、Twitterなどに投稿された映像の数々だった。

 

ワイドショーで観るよりは現実感のあるその投稿の数々に目移りしつつ、そのうちのいくつかをクリックする。

様々な距離や角度から集団自殺を撮影した映像。

どれも緊迫感に溢れ、同時に現実感を希薄にしていく。

これは本当に現実の出来事なのだろうか。

誰かが仕掛けたフェイクドキュメンタリーや映画の宣伝なのでは?

そう思ってしまうほどにそれらの映像は迫真の出来であり、見る者に恐怖を与える効果があった。

しばらく映像を再生していたら、付けっぱなしにしていたテレビから悲鳴のようなどよめきが起こった。

女性のアナウンサーが震える声で原稿を読み上げる。

「えー……今入りました情報によりますと……たった今……渋谷のセンター街でも集団自殺が行われているという……ことなんですが……」

ざわめく出演者達。

それ以上の情報は番組も持っていないようで、私はニュース速報サイトを更新する。

 

即座に「池袋に続き渋谷でも集団で飛び降り」「飛び降り現場ライブ中継」「テロ確定!?今度は渋谷でも飛び降り自殺」という見出しが躍った。

薄気味悪い思いが込み上げてくる。

恐怖とも不快感とも判断つかない嫌な気持ち。

それでも目を背けられないニュースのうちの1つをクリックする。

そこに表示されたのは間違いなく渋谷のセンター街で、池袋と同様に集団がビルの上から落ちていく様子を映した映像だった。

次々に更新される映像の数々が、今この時、現在進行形で起きているのだという事実を突きつけてくる。

 

「…………」

とても信じられない。

それでも確かな現実として、集団で飛び降りをやっている人達がいる。

今、この瞬間にも。

私は滅入る気持ちをそのままに、現地の様子を伝えるニュースやSNS発の情報を見ていった。

そうこうしているうちに今度は、新宿でも集団自殺が行われたというニュースが流れてきた。

もうこのまま止まらないのではないかというほどに、立て続けに集団自殺が行われている。

ふと無性に恐ろしくなって、パソコンの前から立ち上がり窓の外を見やる。

 

「…………」

いつもと変わらない午後の日差しが降り注いでいる。

こんなに平和な世界で、今この瞬間にも集団で飛び降りをやっている人達がいる。

そしてそれを目の当たりにしている一般人がいる。

まるで外国の出来事のように現実感がない。

あの池袋で、渋谷で、新宿で。

あの賑やかで華やかな人のあふれる場所で、その日常をぶち壊す凶事が起きている。

「…………」

怖い。

ブルっと震えて両腕を抱く。

 

自殺の方法を考えていた時、当然飛び降りについても考えた。

誰もいないビルの上で、落ちたら当然助からない高さから身を投げる。

それを想像してすぐに断念した。

できるわけがない。

ただでさえ死ぬのは怖いのに、余計に怖い死に方をするなんて、私にはとてもできないと思った。

一緒に飛び降りる仲間がいればできたかもしれないが、自殺オフ会に行くまで誰かと一緒に死ぬなんて考えもしなかった。

 

あの時にタツヤさんの部屋に集まった面々を思い出す。

サラリーマン風の男と気の弱そうなオジサン。

地味女と派手な若い子。

あんな当日集まっただけの初対面の人達と、手を繋いで飛び降りましょうなんてできるはずがない。

 

冷めてしまったお茶を入れ直してパソコンの前に戻る。

温かいものを口に入れて少しは気を取り直したが、続々と追加される陰惨な映像に再び嫌な気持ちになる。

見たくないし見なくてもいいはずなのに、つい見てしまう。

新たに追加された映像のいくつかをクリックして見ていく。

ある映像でふと違和感を感じて再生を止める。

 

「…………」

なんだろう。

嫌な予感、というのだろうか。

見たくないものが映っている気がする。

もちろん飛び降りの映像自体がロクなものではないが、それ以上に私にとって不都合なものが映っている気がした。

映像をクリックして再度再生する。

ブレる映像の中で、ビルの端に立った男女が次々に飛び降りていく。

違和感の正体はわからない。

もう一度最初から再生する。

ようやく気づいた。

次々に飛び降りていく顔も見えない人達。

その中に見覚えのある服装の人物が二人。

なんの変哲もない服装だけど、あの時と全く同じなので鮮明に思い出すことができる。

飛び降りる男女の中に見つけたのは、あの時自殺オフ会にいた、地味女とサラリーマン風の男だったのだ。

 

「なんで……」

口から漏れた呟きに答えるものはない。

改めて映像を再生して、2人が映っている瞬間で映像を止める。

間違いない。

あの2人だ。

どういうことだろう。

あの時、自殺オフ会に来た人達はタツヤさんの催眠?によって自殺を回避させられたはずだ。

その後2人で新たな自殺オフ会に参加した?

大規模な集団飛び降りオフ?

そんなのあるの?

 

様々な言葉が頭に浮かんでは消えてゆく。

思考がまとまらず、私は他の映像をくまなくチェックして、改めてあの2人であるという確信を深めていった。

映像を見ていくうちに、全ての飛び降り現場にいる黒い服の女に気がついた。

飛び降り集団を引率しているかのようなその女は、夜になる頃にはネットの話題の中心となっていた。

あの女は何者で、いったいなんの目的でこんなことを仕掛けているのか。

飛び降りた人達は本当に自殺なのか、あの女に無理やり飛び降りをさせられた被害者ではないのか。

憶測が過熱してお祭り状態となったネットの勢いは止まることを知らず、匿名掲示板では瞬く間にスレが消費されていった。

その夜、タツヤさんは訪ねて来なかった。

 

続きます。

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@智花 さんありがとうございます。
女性にそう言っていただけて良かったです。
次回は来週いけたら。。。と思ってます。
ぜひまたコメントくださいね(^^)

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@かずさ さんお久しぶりです。
しばらく充電してましたので、ここからまた再始動です。
今後は週イチペースで投稿できると思いますので、ムネムネしながら長話にお付き合いくださいませ笑。

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