神御呂司村の怪奇譚 本編5

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神御呂司村の怪奇譚 本編5

俺はこの記事を読んでいて祭事に壺が使われるという点に興味をもった。珍しいという理由で気にはなったものの、とても呪いの壺と関係があるとは思えなかった。神事に使われる壺なら神聖なものに違いない。ただ、土御門さんに頼まれた「壺にまつわる伝承」ではあるからひとまずは目的を達成できたと言える。

 村の祭りに関するページだけコピーして宿に戻ることにした。

 その夜、俺は食事を持って来てくれた女将に世間話がてら奇祭について訊いてみた。

 すると、女将は喜んで話してくれた。

 「私も若い時、赤い着物を身につけて踊ったものですわ」

彼女は遠い過去を反芻しながら語った。

 「うちの亭主は今じゃ病気がひどく市内の病院に入院していますが、若い時は輿を担いでおりました……」

 「いい思い出なんでしょうね。ところで清水家の近所にある竹林をご存知ですか?」

 「ええ、あの竹林のことですね。存じてはいますが……」

 「実は昨日、通夜の帰りにあの竹林がある道を歩いていた時、何故だかすぐに抜け出せなかったんですよ。似たような話とかあったりしませんか?」

 その話を持ち出した瞬間、相手の表情がこわばった。

 「さあ、どうでしょうね。ただ、ミサゲ祭りで使われる輿は竹林の竹を伐採して作りますので、この村であの竹林はミサゲ山と同じぐらい神聖な場所とされております」

 「そうだったんですね。知らなかった」

 「……ですので、村以外の人間があそこに踏み入れると良くないことが起きるそうです。他の道を通られた方がよろしいかと」

 「ご忠告、ありがとうございます」

 「……それではこれで失礼致します」

 そう言うと女将は怯えたような顔でそそくさと部屋から出て行ってしまった。

 俺は申し訳ないと心から思った。村の伝承は現代でも村民たちの中で息づいており、知らなかったとは言っても神聖な場所に踏み込んでしまったことを後悔したのである。

 

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