白いキャンピングカーには白い薔薇

長編8
  • 表示切替
  • 使い方

白いキャンピングカーには白い薔薇

今年の春、ようやく長く暗鬱な受験勉強に終止符を打つことができ、なんとか希望の大学に合格できた

それまでの重い気分をリフレッシュして新しい一歩を踏み出す節目として、入学までの1ヶ月の間に、私は一人旅をすることにした

電車や車というのはありきたりだからヒッチハイクで行こう、と決めた

父母は「若い女の子が一人で、しかもヒッチハイクでなんて」と猛反対したが、毎日必ず一回は連絡するという条件で、ようやく許してくれた

separator

寒いのは嫌だから西の方に行こうという超おおざっぱな戦略で、まずは自宅のある大阪から九州方面に向かうことにする

長袖のTシャツにジーンズという出来るだけ色気を消した出で立ちにリュックを背負い、小春日和の朝、意気揚々と出発した

nextpage

徒歩で国道まで行き、歩道の適当なところに立つと、リュックを降ろして、中から50㎝角のパネルを出し、両手で頭上に掲げる

パネルには太マジックで「西へ」と大きく書かれている

目前を猛スピードで無情に通りすぎる様々な車を恨めしい目で追いながら、根気よく待ち続けた

nextpage

やっぱり、そんなに甘くないか、、、

nextpage

そんな思いがちらほらと出始めた頃だった

ようやく一台の大型トラックがけたたましい音を響かせながら、止まってくれた

ドライバーのおっちゃんは陽気でとても良い人で、幸運にも1日めにして本州を出て九州に入り、夕方頃には門司港に着くことが出来た

nextpage

おっちゃんに丁重にお礼を言って、港のだだっ広い駐車場でトラックを降りた時の私は、これなら後3、4日で九州一周出来るかもなどと、かなり楽観的な見通しを持っていた、と思う

nextpage

だが、それは大きな間違いだった

nextpage

門司港近くのビジネスホテルに一泊した翌朝、チェックアウトしてホテルの玄関を出たとき、タイミングの悪いことに雨が振りだしてきた

リュックから折り畳みの傘を出して、さしながら歩いていると、背後からクラクションの音がする

振り向くと、道路脇に一台の白いキャンピングカーが止まっており、ヘッドライトをパチパチしている

運転席側のウィンドウが下がり、バーコード頭のおじさんが笑みを浮かべて声を掛けてきた

nextpage

「お嬢さん、一人旅?」

nextpage

「はい、そうです」と返事をした

すると車はゆっくりと前進して、私の左側で止まり、またしゃべりかけてきた

50過ぎくらいだろうか

眉毛が濃くて、目鼻立ちがはっきりしているが、

頭髪の前面部が完全に禿げ上がっている

だけど、立ち居振る舞いはとても紳士的な雰囲気がした

nextpage

「今日は1日雨みたいだよ

実は今から宮崎方面に行くんだけど、そっち方面で良ければ、乗せていってあげるよ」

nextpage

雨も降っているし、これからまた車を探す大変だったし、丁寧で優しそうなものの言い方だったから、私はおじさんの好意に甘えることにした

separator

おじさんは運転しながら、終始優しい笑みを浮かべ話しかけてくる

白いワイシャツにストライプのネクタイを締めており、まるで会社に行く途中のような格好だ

ダッシュボードの上には、真っ白な薔薇の飾りがある

nextpage

「大阪からヒッチハイクで来たんだ

すごいねえ

きみはもしかして、大学生?」

nextpage

「はい、、、今年から」

nextpage

「いいねえ、女子大生かあ」

nextpage

「おじさんは家族とかは?」

nextpage

「いるよ、後ろに」

nextpage

そう言って、おじさんは左手で後ろを指差す

nextpage

「え?後ろにも誰か乗ってるんですか?」

nextpage

「そうだよ」

nextpage

そう言っておじさんは得意げに口笛を吹く

振り向いたが、背後には白いボードの仕切りがあり、後ろの様子は見えない

しばらくすると、おじさんは右にハンドルをきり、コンビニの駐車場に車を停めた

nextpage

「ちょっと、買い物してくるけど、何かいる?」

nextpage

運転席を降りながら、尋ねてくる

nextpage

「いえ、大丈夫です

ありがとうございます」

nextpage

丁重に断ると、おじさんはドアを閉めて店の方に走っていった

nextpage

フロントガラスは次から次に降る雨滴で覆われており、雨は弱まる気配はなさそうである

さっきは気が付かなかったのだけど、どこからか、テレビの音が聞こえてくる

どうやら後ろの方から、聞こえてくるようだ

後ろの仕切りの真ん中辺りに小さな窓があって、カーテンがしてあるのだが、そこから車の後部を見ることが出来るみたいだ

そっとカーテンの隙間から覗いてみた

nextpage

6帖ほどだろうか

天井のシャンデリア仕様のルームライトからは、暖色系の淡い光が灯っている

一番奥まった高いところに横型の液晶テレビが設置されていて、何か古い映画をやっている

テレビの真下にはガラスのテーブルがあり、数十本の艶やかな白い薔薇が花瓶に活けてある

その前にはいくつかソファーやテーブルが置かれていて、こちらに背中を向けて二人座っている

カーペットはベージュ色で毛足が長くて、贅沢な感じだ

なんだか車の中とは思えないような豪華な雰囲気を醸し出している

nextpage

ようやく、車に近づいてくるおじさんの姿が見えてきた

両手にレジ袋を提げている

おじさんはまず後ろの車両のドアを開けて荷物の一つを置くと、次は運転席を開けて、もう一つを私の座る隣に置き、ハンドルを握ると、「じゃあ、出発!」と言ってエンジンをかけた

separator

車は一般道をしばらく走ると、やがて広い国道に入った

左側をみると、青い海がどこまでも広がっている

だけど空は灰色の雲に覆われていて、ちょっと不安な気分になる

カーステレオからは、私のお父さんが昔よく聴いていたような歌謡曲が流れていた

おじさんが鼻歌を歌いながら、いきなり質問をしてきた

nextpage

「お嬢さんは彼氏とかいるの?」

nextpage

唐突な質問に少しどぎまぎしながら「いえ、いません」と正直に答える

nextpage

「そうかあ、でもまだ若いから、これからいくらでもチャンスがあるさ」

nextpage

「あの、、、おじさんは結婚されてるんですか?」

nextpage

この質問をしたことを、私は後悔した

というのは、さっきまで柔和だったおじさんの顔が、みるみる険しくなってしまったから、、、

気まずい雰囲気がしばらく続いた後、ようやくおじさんは口を開いた

nextpage

「あのねえ、お嬢さん、、、人にはいろんな事情があるんだよ」

nextpage

「はあ、、、す、すみません」

nextpage

明らかに今までとは違うきついしゃべり方にたじろぎながら、なぜだか謝ってしまった

nextpage

「例えば、この私だ

今年の春で49歳になる

49歳だ 笑ってしまうだろ

この年齢といったら普通、私にもお嬢さんくらいの娘がいてもおかしくない

そう思わないか?」

nextpage

「………」

nextpage

「どうなんだ?ちゃんと答えろよ!」

nextpage

「は、、、はい!」

nextpage

おじさんのドスのきいた声に亀のように首をすくめながら、あわてて返事をした

nextpage

「ははは、、、ごめん、ごめん、どうやら驚かしてしまったようだね でも、本当なんだよ

かといって私が49年間何もしてなかったか、というと、それは大間違いだぞ

私もそれなりに努力はしたんだ

特に40歳になってからはかなり頑張ったと思う

結婚相談所、婚活パーティー、マッチングアプリ、いろいろやったよ

たくさんの女性と食事に行ったり、映画を観たり、遊園地で遊んだり、した

でも、ダメだった

何でだと思う?

イケメンではないからか?

背が高くないからか?

頭が薄いからか?

それとも、年収が1000万もないからか?」

nextpage

「………」

nextpage

「何でだ、と聞いているだろうが!」

nextpage

「あ、、す、すみません!分かりません!」

nextpage

「そうなんだ、そうなんだよな、、、

お前たち、若い女はいつもそうなんだ

はっきりしない!

最初のうちは気のあるような素振りを見せるもんだから、高いレストランに連れて行ったり、ブランドバッグとか買ってやったりするんだけど、こっちが本気になると、結局ごめんなさい、だ

あの25歳のキャバ嬢もそうだった、、、

入店前に食事に行ったとき、キャンピングカーであちこち遊びに行くのが夢なの、とか言うから、貯金はたいてこいつを買ったんだ

そしたら、どうだ

二人きりは嫌、、、だと、、、」

nextpage

「………」

nextpage

「ふざけるな!!!」

nextpage

私は思わず、両耳を押さえた

すると突然おじさんが右に急ハンドルをきった

その拍子に私の体は左のドアの方に倒れこむ

それから車は右側面をガードレールにぶつけると、そのまま不快なブレーキ音を響かせながら止まった

nextpage

急ブレーキの勢いで私はフロントガラスに頭を強くぶつけ、目の前が真っ暗になる

しばらく朦朧としていると、いきなり左のドアが荒々しく開かれ、おじさんの手が私の左手首を掴むと、無理やり外に引っ張りだされた

そして何かぶつくさ喚きながら今度は後部ドアを開けると私を押し込み、ばたんとドアを閉じた

separator

nextpage

…………

nextpage

安物の香水と糞尿の入り交じったような匂いを感じとり、私は意識を取り戻した

シャンデリアがオレンジ色の淡い光を放っている

nextpage

テレビから能天気な笑い声が響いている、、、

と同時に何だろうか、若い女の呻き声が微かに聞こえてくる

nextpage

「うう、、、あああ、、、」

nextpage

ゆっくりと上半身を起こした

ずきずきと首と頭が痛む

どうやら軽いむち打ち症になっているようだ

さっきの衝突の衝撃のせいだろうか

ガラスのテーブルが倒れて、カーペットの上に白い薔薇が散らばっていた

nextpage

テレビの前のソファーには、並んで座る二人の女の背中が見える

一人は黒髪のストレートにシルクの白いドレス、もう一人は茶髪のセミロングに真っ赤なドレスを纏っている

nextpage

「た、助けてください」

nextpage

背後から声をかけた

すると二人は同時にこちらを振り向いた

瞬時に背中に冷たいものが走る

nextpage

二人の両目には眼球が無く、ぽっかりと穴が空いている

口はまるでナイフで切り裂かれたかのように両端にざっくり亀裂が入れられ、今にも顎から落ちそうだ

nextpage

「ひ!、、、」

nextpage

女たちは顎を動かして呻き声を漏らし、懸命に体を揺すっている

どうやら、ソファーに縛り付けられているようだ

なんとか立ち上がり、よろめきながらも左側の窓から外を見た

広大な草原が広がっている

放牧地だろうか 遠くに4、5頭の牛の姿が見える

草木が猛スピードで端から端に動いていているから、車は結構なスピードで走っているようだ

私は思いきってドアを開けた

一気に外の雨風が入り込んでくる

足がすくんだのだが、これから起こるであろう恐ろしいことを考えると、私は一か八か思いきって飛び降りた

nextpage

体は濡れた芝生の上で何度か勢いよくバウンドし、その都度、あちこちに強烈な痛みが走る

それからゴロゴロと転がり、最後は大きめの木にぶつかり、そのまま倒れこんだ

薄れ行く意識の中でジーンズの尻ポケットから携帯を引っ張りだすと、母に電話していた

separator

目覚めたときは、病室のベッドの上だった

体のあちこちに包帯が巻かれている

腕と脚がずきずきと痛む

左を向くと、心配げな母の顔が飛び込んできて、

「良かった、、、」という声が聞こえてきた

nextpage

携帯のGPS 機能によって、比較的早く私は発見され、すぐに地元の病院に運ばれたらしい

体の数ヶ所を骨折してたそうだが、命には別状はなかったらしい

nextpage

一週間が経過した

怪我は順調に回復している

時々母から怪我をした理由を聞かれたが、まだ言いたくない、と言って頑なに口をつぐんでいた

実際、あまり思い出したくなかったからだ

nextpage

そして、入院して10日が経った、ある雨の朝のこと

nextpage

朝食後に看護師が「今朝早くあなたのお友達という方がナースステーションを訪れてきて、お見舞いにと言って、これを持って来られました」と、あるものを部屋に持ってきた

それを見た途端、私の心臓は急激に鼓動を速めだした

nextpage

それは、一本の白い薔薇、、、

nextpage

「また後日、改めて伺います」ということです、とだけ言うと、看護師はさっさと出ていった

nextpage

Fin

separator

Presented by Nekojiro

Normal
コメント怖い
8
11
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

@天津堂 様
いつも怖いポチ、コメント ありがとうございます
昔のヨーロッパ映画のような、恐怖に余韻を
残したエンディングが好きです

返信
表示
ネタバレ注意
返信

@アンソニー 様
怖いポチ、コメント ありがとうございます

返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信