中編5
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視える【2】

Sちゃんは、森公美子さんの様な大きな身体で頼り甲斐もあり、とても穏やかで物静かな方です。

Sちゃんと出会ったのは、第二次世界大戦では激戦地となった離島。

最初は、友達の友達と言う関係でしたが、Sちゃんのお人柄に惹かれ、いつしか共に朝まで呑んだくれる仲になっていました。

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戦時中は激戦地となった事から、その島は兵隊さんの幽霊目撃談も数多く、戦前からその島に住んでいた方々から聞かされた、重い傷病兵や遺体を安置されていた場所だったと言うトンネルなどは、怖くて夜は通れなかったくらい。

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島の至る所に、トーチカがあり、ジャングルの中には縦穴と言う深い落とし穴が掘られ、落ちると一直線に下まで落ちてしまい、1人で這い上がる事は不可能との事で、ジャングルに詳しい人の案内無しでは入る事も出来ない。

前置きが長くなってしまいましたが、そんな島で聞いた、Sちゃんの話。

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[3・ぞろぞろ]

碧い海と青い空。

夜には満点の星。天の川は勿論、人工衛星まで見えてしまう自然以外に何もない島。

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娯楽と呼べるものも何もない事や、限られた人口での密な人間関係の中、元々、他人とコミュニケーションを取る事が苦手な人の多数は、数年も経たずに島を後にする。

有難い事に、私は周りに明るくて楽しく優しい友人達が居てくれたお陰で、今でも島は第二の故郷とまで思っている。

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そんな中、明るく元気なAから紹介されたのがSちゃん。

私も未だ元夫さんと結婚もしておらず、朝まで皆でガヤガヤと飲み歩く毎日。

そんな中で、Sちゃんはいつも優しく微笑んでいた。

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ある日、AとSちゃんと3人で飲んでいた時、Aが言った。

「Sちゃんって、幽霊視えちゃうんだよね?」と。

ホラー、怪談大好き娘だった私は、すぐにその話に食い付いた。

「聞きたぁ〜い!どんな事が有ったの?」と。

Sちゃんはいつもの優しげな笑顔のまま、静かに話をしてくれた。

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島には山まで続く海岸線がある。

その海岸線には、幾つかのトンネルがある。

先程話した遺体を安置していたトンネルではないものの、幾つかあるトンネルのうち、第二トンネルでは幽霊目撃談をよく聞く。

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確かに、トンネル内の壁に、二人の人…兵隊の様な形のシミがあり、気持ち悪いなと思いながらも、私はそれが動いている所も見た事がなかったので、気の所為としていた。

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だけど、Sちゃんはそれらのシミが行進をしている姿を見ていたらしく、かと言ってSちゃんも祓う事は出来ないので、気にしない様にしていたらしい。

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ある日、Sちゃんは東京の実家に帰り、地元の友達と遊ぶ約束をしたらしい。

待ち合わせ場所に行くと、先に着いていたSちゃんの友達が急に険しい顔付きになり、いきなりSちゃんの背中をバシバシと力一杯叩いて来たそう。

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ビックリしたものの、実は以前にもSちゃんはその友達に同じ事をされていた経験から、すぐに分かったそうです。

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以前、肝試しに行った際、変なモノを憑けてしまったSちゃんの背中をバシバシと叩き、汗びっしょりになっていた友達。

Sちゃんは、「又か…」と、思ったそうです。

Sちゃん自身も気が付いていたのですが、どうしようもなかったから。

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毎晩の金縛り。

傷だらけの兵隊さん。

悲鳴のような、嗚咽のような声にならない声でSちゃんに訴えてかけていたから。

友達は、長い事Sちゃんの背中を叩いていたが、「ふっ…」と溜息を吐き、「やっといなくなった…」と。

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「やっぱり憑いてた?兵隊さん」とSちゃんが聞くと、友達は

「憑いてたよ。兵隊さん。

Sを先頭に、前に倣えって、行列作ってぞろぞろといっぱい」

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Sちゃんは一人の兵隊さんが憑いていると思っていたのに、思いの外、沢山の兵隊さんをぞろぞろと引き連れていた事を、この時に初めて知ったそうです。

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[4・湘南の海にて]

又々、島に戻ったSちゃん。

何事も変わりなく過ごしていた。

前回の里帰りから1年が経ち、又、実家に帰った。

島から帰ると、例の友達と遊ぶのだが、その日は2人で夜のドライブに出かけたそう。

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着いたのは湘南の海。

(あんなに透き通った海を見慣れているのに、何で湘南なんだか…)

Sちゃんは思ったそうだが、夜の海は真っ暗で、海水の汚れも見えないので、静かな海岸を友達と歩きながらお喋りをしていたそうです。

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そして、何気なく海を見ると、暗い海の海面の数センチ上に、薄らと光る丸いボールの様なものがゆらゆらと揺れながら沢山浮かんでいるのを見る。

波の飛沫と呼ぶには不自然な大きさ。

しかも、見渡すと海面上、数え切れない数のソフトボール大のボールが。

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「アレ…あのボール何?綺麗だけど…?」Sちゃん、キョトン顔で隣の友達に聞く。

友達はSちゃんより先に気付いていた様で、Sちゃんに言い聞かせる様に話した。

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「綺麗に見える?

よ〜く見てよ?

あのボール…」

友達はボールに気がない風に砂浜を歩きながら言う。

Sちゃん。足を止めてその場からボールをじっくり見詰めた。

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「ヒャッ!!」

思わず変な声を漏らしてしまった。

ボールに見えた“ソレ”には、目も鼻も口もあったから。

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隣のボールにも、その隣のボールにも…

女性と思われる顔。

老人の顔。

赤ちゃんの顔。

ボールではなく、発光する顔だったから。

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「あんまり見ないの!

アレ…オーブだよ。

お盆だからね。

全員、亡くなった人」

そう言いながら、友達は相変わらず、海ではなく前を向いて砂浜を歩いている。

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「あんまり見てると着いて来ちゃうから、気にしないの!」

いつまでもオーブと呼ばれるモノから目を離せないSちゃんを叱る様に友達は言うと、急にSちゃんの手を引っ張って走り出した。

「だから言ったのに…」と…

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友達と走りながら、ふと振り返ったSちゃんが見たものは…

海面の上でゆらゆら浮かんでいたオーブ達が、砂の上をふわふわと漂い、Sちゃん達へ向かって着いて来ている光景。

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そのまま車に乗り込むと、急いで駐車場を後にした2人。

「あのまま、あそこに居たら…」

落ち着いた頃、やっと口を開いたSちゃんの言葉に

「あれだけの数に憑かれたら、ヤバかったね…」と。

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それから、Sちゃんはお盆の夜の海には行かないと心に決めたそうです。

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