中編7
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不思議なJK

私が高卒で働きだして間もない時の話。

背筋が凍る体験でも無く、恐怖で震えた訳でもない。

だが何故か20年経った今でも忘れることが出来ない出来事。

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突然自慢から初めて恐縮なのだが、私は当時からかなり異性にモテた。それはもう絵に書いたようにモテた。

高校時代はファンクラブも存在し、スマホがない代わりに女子たちは『写ルンです』なるインスタントカメラを常備。それらを駆使し私を激写し、その写真を流通させる恐ろしいカルチャーまで存在していた。おちおち鼻くそもほじれないのである。

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それはさておき。私がモテたのは高校卒業した後も少しだけ続いたのである。

会社ではそこそこだが、プライベートでのコンパ合コンでは、下品な言い方だが入れ食い状態。女遊びには事欠かなかった。

独り暮らしを初めて間もない頃は、何人も女性が出たり入ったりで、さぞかしご近所様に不振に思われただろう。

急に女性が夜に駆け込んできて

「ねぇー、来たよー」

などと言われても、誰だったか、どこで知り合ったか覚えていないまま招き入れる。なんてことにも慣れてきた頃だった。

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その夜、今でも覚えている。どうしてもやってみたいゲームがあり、ソフトと本体を購入し、電話線を繋いでダイアルアップ。

そう。みんな大好きSEGAのDreamcastである。

そしてPSOである。

それらをワクワクしながらセットアップしていたら、インターホンが鳴った。時間は23時。

また女かな?

正直異性には不自由していなかった為、興味の優先順序が極端に表れる。今私はゲームがしたいんだ。

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居留守を使おう。電気もついてるしテレビの音量も下げない。

しかし居留守を決め込む。これは当時私のやり口で、堂々と空気を読めと言わんばかりの態度。

私は粛々と開封の儀を楽しんでいた。

その内外の気配も消えた。

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と思ったその時。

「あのさー、折角遙々来たんだから居留守とかマジでダルい。ウチ知ってるよ?その手口。」

と発する。やはり女だったか。

続けて女はこう言った。

「あのね。会いに来たのは確かだけど、帰るのも無理なんだなぁー、玄関前で寝ることになるけど、良いかね?」

「事情があってさぁー…」

なにやら本当に困っている気配がした。流石の私も玄関先に居座られたらゲームどころか睡眠すら出来ない。楽しめないならやめにしよう。

そう思い、招き入れる事にした。

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ドアを開けた瞬間。思考が止まった。

そこにいたのは想像していたケバい女性ではなく、まだ垢抜けきっていないブレザー姿のJKだった。

あり得ないのだ。

もう社会人になった私がわざわざJKと知り合い、この住居を教えるプロセスが記憶に無い。出会う女性を覚えていなくても、流石にそれは分かる。

いや、まてよ?

合コン等では社会人を装い、いざ仲良くなったら女子高生でしたー、的な何かですか?

もしそうなら、恐喝か!?

警戒心しか湧かない。少しばかり緊張した。

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が、しかし。その緊張とは裏腹に。

そのJKは家に入るなり目に見えて嬉しそうにする。

時には私を頭から足の先まで舐めるように観たり、部屋を見渡したり、ずっとニヤニヤしている。

なんなのだ?

女が口を開いた。

「T井さん。やっぱりお部屋綺麗やねぇ。うわっ、この本の並べ方兄貴と同じやんwきもw」

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名字を知っている!?

これは例外中の例外だった。私は当時、女性には常に下の名前だけで接して来た。T井の姓はそう易々と行きずりの女性にはおしえない。

しかも何だ?俺の性格を何故お前が語るのか。

薄気味悪い。違う意味で警戒心を強めた。

私は怯んだ。

「帰れないって?流石に制服姿の女子を泊めたりは出来んぞ?後が面倒やろ。」

女「あ、ウチはU美。よろしく。制服は今着替えるから。2、3日ここに滞在させたまへ。」

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ますます何を言っているのか分からない。

以前会ったからここに来たんじゃないのか?

何故今名前を言うんだ?

初対面なのか?

でも俺を知っている?

ってしかも2、3日いるだと?

U美「ウチさ、家出してん。絶対迷惑かけんし、言うこと聞くから置いてーなー。あとめっちゃお腹すいたー。

あ、あとウチらって遠い親戚やでな。」

親戚。らしい。

困惑し、散々拒否したが、お互いに引くことの無い仁義なき猛攻の末、『一時的な保護』という形で押しきられた。

私の盆休みがこれで消滅が確定した。

俺が親戚付き合いに億劫だったし、分からないのも無理はないが…釈然としない。

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次の日の朝。心地よい香りと効果音でめざめた。

小気味良い包丁の音。味噌汁の良い香り。絵に書いたような素晴らしい目覚めだ。どうやらU美が朝食を支度してくれている。制服では無く、様々な女性が置いてゆく衣類から適当な物を選び寝巻きとしていたため、女子高生という見た目が若干薄れたのが救いである。

しかし、普通は他の女性の衣類をつき出されて気持ちの良い女性はいない。U美は真逆で、昨夜は一人でファッションショーゴッコをして疲れて寝た程だ。ますます分からない。

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「おー。起きたね。朝御飯お食べー。」

U美に出された物をスムーズに違和感無く食す。

思えば昨夜は何も食べていなかった。U美には食べさせたが、自分は食欲が沸かなかった。そして今空腹である事に気付いたのだ。

回らない頭を暖気運転しながら、モグモグと咀嚼。

U美は突然言い放った。

「今日、どこいこうか?」

?

どこかにいく?

何を言い出すんだろう。バカなのか?

「1000歩譲って、家出少女一時的保護だろ。

かなりスレスレでギリギリ事情なのに、

外出とか危険一杯摩訶不思議アドベンチャーだろ。」

U美「ふーん。でも外出しなさすぎると、監禁臭くない?」

なんじゃこいつ。

「保護と監禁は違う。分かった。どこにいきたい?」

ため息混じりに、全てを諦めて答えた。

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U美「うーん。散歩。どこでもいい。」

はいはい。と食器を片付けて洗面所へ向かう。

顔を洗い、歯を磨きながらルートを考えた。

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外に出るやいなや、U美は目を輝かせてキョロキョロしている。ただそこらを歩いているだけで何が珍しいのか。

「あのさ、家出でもすると世界が違って見えるのかい」

「あー、そっか。ウチめっちゃ田舎から来たから。この市街地の感じがすごいなぁーって。」

ここは北陸の田舎の県だ。都会ではない。田舎だ。

田舎の田舎から来たのか。でもどうやって?

目隠しして歩いて私の家まで来たのか?

私の姓名を知っている事といい、矛盾が多すぎる。

ドッキリや下手な詐欺くらいでないと説明がつかない。

しかし何故だろうか。時間がたつにつれ

私はそのモヤモヤを抱えたまま、

いや、そのモヤモヤを考えない様にし始めている。

何故か心地よいのだ。U美と居ることが。

U美を観ていることが。

そしてその日は結局、まるで兄妹の様に打ち解け、沢山笑い合った。

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恋愛感情でもない。トキメキへの期待感でも、ドキドキでもない。心地よい落ち着きが心を覆っている。温かささえ感じた。初めて抱える感情だった。

そして3日間。

まるで妹が家に数日泊まりに来たのかの様な温かい日々過ごした。遊園地に行ったり、ショッピングに行ったり、美味しいものを食べに行った。夜に女性が訪ねてきて修羅場になりかけ、本当の兄妹を装い、うまく騙せたとゲラゲラ笑ったりもした。

途中だったDreamcast開封の儀も二人でやった。

3日目の夜。寝る前にU美が言い出した。

「ウチ、明日なったら帰るわ。」

正体不明、事情不明な人間からそう言われたのにも関わらず。

私は残念な気持ちになった。

「そっか…、家まで送ろうか?ってか家どこ?」

U美「あー、朝んなったら近くのコンビニまで迎えに来てもらう、大丈夫やよ。」

私はそれ以上言うことはなかった。

するとU美は突然切り出した。

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「会えて良かったよ。女遊びはほどほどにね。

ウチが思ってたより全然良い男やったわ。」

「何様やねんw」

私は寂しいムードと、不思議な台詞をかき消すようにふざけて返事をした。

その夜は一緒の布団で寝ることにした。

お互いにやましい気持ちが無いのが明白であったし、お互いに望んでたのが分かったから。遠い親戚なんだしな、くらいの気持ちでいたのもある。そして、今までにないくらい落ち着いた床に身を委ね、嘘みたいに寝入った。

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朝になった。何となく予感ていたがU美の姿はなかった。制服も無くなっている。言い表せない虚無感で周りを寝ぼけながら眺めていると手紙が一通置いてあった。

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内容は訳あって割愛するが、要約するとこうだ。

U美は何故か小さい頃から私を知っており、ずっと会いたいと思っていたそうだ。母親と猛烈な喧嘩をして、訳あって俺の所まで会いに来たと。

手段や方法は濁してあった。

親戚付き合いをサボって生きてきた事を少し悔やんだものだ。

母親はU美とその二人の兄、3人を一人で育てていたが、兄二人は独り立ちし、今になっては母親とU美で二人で暮らしているという。近頃は喧嘩も多く、その度に母親は父親がいれば云々と愚痴る。

父親はU美が産まれた直後にバイク事故で亡くなったらしい。

写真だけで見る父親は憧れ以外の何者でも無かった。母親から散々聞かされた父親の人となりは彼女の中でヒーローのようにその存在が大きくなっていったという。

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驚いたのは。

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その父親はどうやら私だと匂わせる書き方であるのだ。

確信はない。特定も確定もしない、その曖昧な文章。

しかし、その内容は私でしか知り得ない事実も混ざっていた。

摩訶不思議な感覚であっった。

私は35歳の時にバイク事故で死ぬのかもしれない。

何となくそう言う感覚につつまれた。

ただ、何の保証もなく確証もない。ドッキリ紛いのいたずらかもしれない。事実は死んでみないと分からないのかも知れない。

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今現在私は40歳。

実際死ぬことはなかった。

事実を知っていたから避けれただけなのかもしれない。

そんな事を最近思いだし、鳥肌が立つ事実。

一番下の娘。U美は現在5歳である。

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