中編5
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水神 ~水の障り~

我が家がある住宅地は今から50年くらい前に、山を切り拓いてできた住宅地だ。

我が家はその住宅地の中にあった、企業の社宅の跡地を分割して新築された10棟のうちの1棟だった。

この家を購入してから15年ほど経つ。その間、色々な怪異があり霊能者にもみてもらったが、解決には至っていない。

土地に原因があるのかもしれないと、過去に事件があったか調べてはみたが、何もでてこなかった。

今から3〜4年くらい前の話。

あるお寺の御上人に相談する機会に恵まれ、その際に話の中で、時々水が臭うという話をした。

我が家は引っ越してきた当初から、時々水が臭っていた。だが調べても何の異常もでないし、それを怪異と関連づけたことなどなかった。

だが御上人は少し考えて、近くに川か池がないかと尋ねてきた。もちろん川はない。だが過去に川や池があったかもしれない。

この話は前回投稿したときの寺院での話の内容で、御上人が我が家にくる日までに、私たちは過去に川か池があったかどうか調べることにした。

結果、昔この近辺に川は流れていた。だが住宅地として開拓されるときに埋め立てられてしまったようだ。

その川は我が家を含めた10棟に平行して流れていて途中でカーブしていたようだった。そこまではわかったが、その川と家が建つ土地が重なっていたかとうかまではわからなかった。(川はあった。だがその位置が正確にわかったわけではない。家のある処に川があったのか、家の前の道路が川だったのかわからなかった。

某日、夕刻。御上人が我が家に来た。

「やっぱり水の障りだと思いますよ」

開口一番、御上人は言った。

御上人は今朝からずっと胃が痛かったそうだ。

御上人曰く、水の障りに関わるときは必ず胃がキリキリと痛むそうだ。

私は近辺に以前、川があったことを伝えた。

御上人は少し考えてから言った。

「できることなら引っ越した方がいい」

それからひとつの提案をして帰った。

引っ越した方がいい。

できることならそうしたい。でも家にはまだローンが残っている。家を売却したとしてもローンは残るだろう。

そして我が家には愛犬がいる。ペット可の賃貸は少なく、あっても賃料は高い。

ローンを抱えた状態で新たに家を購入することも、賃貸することも不安だった私たちは、家からでて行くことを躊躇してしまった。

私たち家族は考えた末、御上人の提案を受け入れることにした。

提案、それはこの地を住処とし護っていた水神を祀ること。(御上人はこれを「ゴヘイカンジョウ」と言っていた)

正直な処、提案を受け入れることには躊躇いがあった。

私は無神論者ではない。でも宗教色の強いものは恐ろしく感じてしまうのだ。

ただ、御上人の御寺は宗派は違うのかもしれないが、私の実家や主人の家のお墓が入っている御寺と変わらない、ごく普通の御寺だ。なので御上人の提案を受け入れ、この家に住んでいる間、水神を祀ることとなった。

とは言っても、神棚を用意したわけではない。

後日、御上人から、横5cm 高さ15cm ほどの大きさの形代をいただいた。

形代は人が集まる場所に置くように言われたので、居間に置くことにした。

その形代に水道のお水を供えて毎日交換するように言われた。

水を捨てる場所は、私たちの場合は北側。理由は隣の土地にあり、そこに霊が集まる場所があるからだった。

神社などで理由もなく火事があったときは、祀り方に問題があると、以前御上人からきいたことがあった私はその不安を御上人に話した。

「これで大丈夫ですよ」

と言われた。

形代を居間に祀った翌日の夜。

日付けが変わって他の家族が寝たあと就寝した。

布団に入ってすぐに眠れなかった私は、ふと眼を開けた。そしてすぐに違和感に気づいた。

眼がおかしい。

和室には窓が二つあって、南側の、庭に出入りできる窓はシャッターが閉まっていたが、東側の小さな窓にはシャッターはなく、電気を消していても真っ暗にはならない。ましてや和室は常夜灯をつけていた。

なのに、室内は真っ暗だった。だがおかしいのはそこではなく、とにかく眼がおかしいのだった。

うまく説明できない。まるで自分の眼ではない感じだった。

しばらくすると暗闇が動いている感じがした。違和感のある眼でみていると、目の前の空間に蛇のような龍のような、そんな生き物が現れた。

それはもつれた長い身体をよじらせながら、空間いっぱいに広がっていった。

私は動くことができず、息を潜めてその姿を見ていた。

やがてそれは消えていった。同時に疲れ果てた私は意識を失うように眠りについた。

朝になって私は昨夜のことを夫に話そうかどうか迷った。何となく恥ずかしい気がした。何故だろう…?

多分、前回 お寺で清水が湧き出てそこに葉っぱが落ちるのを見た時に、からかわれたからだと思う。

また、勘違いオバさんと言われるのが嫌だったんだと思った。

でも翌日、夫に話した。

「実はね…」

夫は以外にも真剣に聞いていた。そして私が話し終えると、夫も話し始めた。

「実は俺もさ…」

私が水神(龍)をみた時、夫にも異変があったらしい。

夫は二階の西側の部屋で寝ているのだが、深夜3時頃トイレに起きた夫は階下から水の音がしたそうだ。

ちょうど、洞窟とかの閉鎖された空間で、水がいっぱいに満たされた処に水滴がぽしゃぁんと落ちるような音がしたらしい。まるで一階が水の中に沈んでいるような感じがしたとのことだった。

御上人に話すと形代を置いた影響だと言われた。

龍は幸運の生き物で、見た者に幸運をもたらすという。

けれど、私は勘違いしてはいけない。私が見たものは水の神すなわち龍神であるかもしれないが、私に幸運をもたらすものでは決してない。

遥か昔よりこの地を護り続けてきたのに、あとからきた人間に、挨拶もなく住処を奪われた恨みは計り知れない。知らなかったとはいえ、今そこに住んでいる私たちにも責任の一端はあるのかもしれない。

あの夜、私は現れた龍神の顔を見ていない。

それに意味はあるのかないのか…。

だけど、多分向こうは私を見てる。

昏い闇の水辺から。

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@天津堂さん こんにちは。いつもコメント有難うございます。そしてお返事が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
結論から申し上げると、怪異はおさまっていません。
御上人や霊能者が言うように、家を出るべきだったと思います。
もっと早い段階で出ていれば、あの家怖かったね。で、終わっていたかもしれません。
これまで家をでる話がなかったわけではないんです。
でもうまくいかなかった。
最初、霊能者に視てもらった時、隣家はヤバいけど我が家は大丈夫だと言われました。でも長く住んでいると何というか、(怪異に)侵食されていく様な、そんな感覚に囚われてしまい、今となっては引っ越しても無駄な気もするんですよね。
ただ色々な怪異はありますが、その殆どは私たちの前を通り過ぎるだけで実害があるわけではないのかな? とも思います。同時に、家系に埋もれている因縁が目を醒まして私たちに影響を及ぼしているのかもという不安に駆られることもあります。
怪異は怖話サイトに投稿している話だけではありません。
最初にお世話になった霊能者と、その人を私たちに紹介してくれた知人。そして私たちの話を聞いて霊能者を紹介してほしいと言ってきたもう一人の知人。
この三人は金銭トラブルをおこしてしまいました。そのトラブルに巻き込まれ、私は結んだと思った縁を失って
しまいました。少し人間不信にもなってしまいました。

得体の知れない怪異は恐ろしい。
けれど、横目で見る怪異は面白い。
そして、一番恐ろしいのは欲にまみれた人間から滲み出る悪意。
そして
その悪意が紡ぐ物語は、はたから見るとやっぱり面白い。

やはり
この世で一番恐ろしいのは、生きてる人間
そう思うのは私だけなのでしょうか?

天津堂さま、今回も御読みくださり有り難うございました。

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