中編4
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不思議な家族

とある知人から聞いた話。

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知人が小学三年生の頃、隣の家にとある家族が引っ越してきたという。

両親と兄妹の四人家族だったが、全員がまるでテレビドラマから抜け出てきたような美形揃いだった。そのため、引っ越してきた当初は近所から遠巻きに見られていたそうだ。知人も、引越しの挨拶に自宅を訪れた一家を初めて見たときには、子供ながらに近づき難い雰囲気を感じたという。

しかしその家族は外見こそ浮世離れしていたものの、中身はごく普通の中流家庭だった。むしろ愛想はいい方で、家族揃って地域の清掃活動や子供の学校行事に参加していたため、やがて近所の人々と打ち解けたそうだ。

兄の方は知人と同級生だったため、こちらもすぐに親しくなった。彼は女の子と見まごう可愛らしい顔立ちの美少年だったが、中身は意外なほど腕白で、よく似た性格の知人と驚くほど馬が合った。

しかし彼は腕白な反面、妙に大人っぽい皮肉を言うときもあり、そんなときにはいつも右の眉をピクリと跳ね上げた。その仕草に、知人は憧れたのだという。

彼の妹もまた負けず劣らずの美少女で、「お人形のような」という形容句がよく似合った。兄に似てお転婆で、よく三人で暗くなるまで外で遊びまわったそうだ。

知人にとって彼は親友とも呼べる存在だったが、一つだけ不満があった。それは、決して彼の家に入れてくれないことだった。庭ではしょっちゅう一緒に遊んでいたが、その玄関の内側に入ったことはなかったそうだ。

彼の両親は愛想良く「中に入って遊びなさいよ」としょっちゅう声をかけてくれたのだが、その度に彼が、「僕たちは外で遊ぶよ」とか「もう帰らなきゃいけないんだって」と、誘いを断ったのだという。

一度知人は、それに抗議したことがあった。すると彼は、

「僕は君が大好きだからね」

と、よくわからないちぐはぐな返事をしたそうだ。

彼お得意の皮肉かとも思ったが、皮肉を言うときにはいつも跳ね上がる右眉は動かないままだった。知人はなにか理由があることを察し、それ以降家に入れてくれとねだることはやめたという。

しかし、そんな彼との楽しい時間は二年足らずで終わってしまった。親の転勤という子供にはどうにもならない理由で、彼ら家族はまた引っ越すことになったのだ。

「絶対また会おうな」

最後の別れの日、知人は手作りのプレゼントを渡して彼にそう言った。

「会っても、君はもうわからないと思うけどね」

彼はいつもの皮肉を言ったが、それは寂しさをごまかすためのものだったのだろう。

新しい引越し先に何度か手紙を書いたが、返事が来たことはないという。

やがて大人になった知人は、故郷を遠く離れて仕事に就き、家庭も持った。

ある日、近所のショッピングモールに家族で買い物に行ったときのことだ。

妻と子供の買い物を待っていた知人は、一人の美少年に目を止めた。彼は、あの子供の頃の親友にそっくりだったのだ。

知人は気づかれないようにそっと少年に近づいた。近くから見るとますます似ている。堪えきれず、声を掛けた。

「いきなりごめんね。もしかして、君のお父さんは〇〇っていう名前じゃないかな?」

知人は、目の前の少年がかつての親友の息子か、もしくは親戚ではないかと考えたのだ。自分がそうであるように彼にも子供がいて、それが幼少期の彼に瓜二つでも、おかしい話ではなかった。

少年は、突然のことに目を見開いていた。

驚かせてしまった。やっぱり止した方がよかったか。

そう知人が後悔して、謝ろうとしたとき。

「おにぃちゃーん」

少年の妹らしき美少女が駆け寄ってきて、知人は言葉を失った。

目の前に並び立つのは、知人の脳裏にある思い出そのままだった。瓜二つというレベルではない。二人の前に立つ大人姿の自分の方が、場違いに感じたという。

「気づくとは思わなかったよ。意外とやるじゃん」

少年はそう言うと、右眉をピクリと跳ね上げ小さく笑った。

「向こうでお父さんたちが待ってるから、早く行こう」

少女が少年の袖を引く。チラリと知人の方を見たが、その目は兄とは対照的に、冷たいほどなんの感情も浮かんではいなかった。

去って行く子供たちを見ながら、二人の先には美しい両親があの頃のまま待っているのかと、知人はボンヤリそう考えたという。

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「失礼ですが、それはあなたの勘違いでは?」

私の無礼な質問に、知人はうーんと首を捻った。

「確かに。僕もね、実際は半信半疑なんですよ。常識的に考えて、あの子たちだけ時が止まるとは考えられませんから。ただ…」

「ただ?」

「あの男の子がね、去り際にボソッと僕に言ったんですよ。『手紙、ごめんな』って。僕が出した手紙に返事を出さなかったことを言っていたのだとしたら、辻褄が合うんですよねぇ」

知人はそう言って、懐かしそうに目を細めた。

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