中編3
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スーツ

ある男性の話

27歳独身のその男性は、一人暮らしのために手頃なアパートを探していた。

某大手不動産サイトでもなかなかめぼしい物件が見つからなかったので、実家の近所の不動産屋に出向き、そこでいい物件がないか問い合わせてみることになった。

すると意外にもすぐに良い物件が見つかった。

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その物件は築数十年の二階建てアパートで、割と近所の幹線道路沿いにあるものだった。家賃もなかなか安く、ワンルームだが一人暮らしの彼にとっては丁度良い物件だった。

とりあえず内覧することになり、不動産屋と一緒に現地に行った。

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現地に着くと、そこには写真で見たより古びた印象があるアパートがあった。

部屋は6つで廊下のところに鉄製の階段がついているという、刑事ドラマとかでよく犯人が住む家で使われるような、一般的な古いアパートだった。

またすぐ横に割と交通量の多い幹線道路があるということで値段の安さにも納得したが、彼は古さとか騒音とかはあまり気にしない性格だったので、特に気にすることもなかった。

早速内覧する部屋に向かうことにした。

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アパートは横の幹線道路に対して直角に建っているのだが、例の部屋は二階の道路に最も近い角部屋だった。

不動産屋のおじさんが古びた鍵の束を出し、その部屋のドアを開錠した。

部屋に入るとレトロなタイル張りの玄関があり、そこから廊下が伸びていて、左側に風呂トイレ、右側にキッチンの流し台、廊下の先にリビングに続くすりガラスのドアが見えた。

風呂やトイレを簡単に見て回り、続いてリビングのドアを開けると、妙なものが視界に入った。

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8畳ほどのリビングは畳が敷かれ、入口の左に押入れがあり、向かいに窓があるという構造だが、その窓のカーテンレールの真ん中に、ハンガーに通された黒いスーツのジャケットが掛けられていた。

綺麗さっぱりしたその部屋にポツンとあるそのスーツは妙に浮いていて、異様な不気味さがあった。

不動産屋の人にそのことを言おうとする間も無く不動産屋は足早に窓際に近づいて行き、スーツを取り去り畳んでしまった。

そのスーツについて聞いてみると、どうやら前の人の忘れ物だろうとのことだった。

普通前の人が出て行った後に回収するだろうと思ったが、あまり気にすることもなくその後も内覧を続け、結局その部屋に入居することになった。

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翌日荷物を運び入れ、とりあえずあとは細かいものだけというところまで片付けが終わった頃には夜の10時を過ぎていた。

コンビニで買った弁当を食べシャワーだけ浴び、部屋の真ん中の段ボールをよけて布団を敷き、その日は早めに寝ることにした。

眠りに落ちてしばらく後、夜中の1時くらいか。妙な音で目が覚めた。

何やらバタンバタンと壁か窓を叩くような、物がぶつかるような音が左側の窓の方からしている。

彼はとっさにそっちの方を見てみた。

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そこにはレースのカーテンを閉めた窓があるが、何か激しく動くものが見えた。

よく見るとそれは前日に見た例のスーツのジャケットで、それが激しく動いていた。

さらによく見ると右手の袖口から手が出ていた。まるで右腕部分だけがスーツの中で実体化しているような感じだ。その右腕が縦横に激しくブルンブルンと振り回されている。さっきの音とは、その腕が窓や壁に当たる音だった。

彼は山道で熊に遭遇したように怯えることしかできなかった。下手にアクションを起こせばソレが何か襲いかかって来るような気がした。

結局布団をかぶって、3時くらいに音がなくなるまで耐えた。

翌朝見てみると、そのスーツはどこにも見当たらなかった。

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彼は結局その日のうちに出て行くことにした。不動産屋に行き手続きを行っている最中、例のスーツについて聞いて見た。すると不動産屋は、

「実は自分もよくわからない。昔住んでいた人が出て言った後に残されていたもので、その時は持ち主とも連絡がつかず倉庫に仕舞っていたはずだが、なぜそれが今になってあそこに置かれていたのか。これまでそんな事はなかったのに」

と言って、とりあえずスーツはお寺に持って行くということを話していた。

彼は現在、別のアパートで生活している。

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ネタバレ注意
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設定には引き込まれましたが、しりすぼみな印象です。
もっとオチの部分を細かく描写してくださると、さらに怖くなるかと思います。

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