長編9
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究極の選択

皆さんも外出した際など夜遅くに1人で暗く寂しい夜道を歩くこともあるかと思います。

そんな暗く寂しい夜道を歩いていた時に体験した怖くて不思議なお話です。

説明しすぎで長いのでお時間のある方はどうぞお付き合い下さい。

あの日、私はバス停で友人と別れ一人バスに乗りました。

時間はそろそろ24時になろうかということもあってか乗客はポツポツとまばらでした。

私は運転席の直ぐ後ろに乗りました。乗車中は特に変わった事もなく、

私が降りるバス停までに乗客数人の乗り降りがあったぐらいです。

運転席の直ぐ後の席ということもあってどんな人が乗って来たかは見ていません。

(※こちらのバスは、バスの中ほどに乗り込み口があり、

降り口はバスの前方運転席の横になります。)

私の利用するバスは、降りるバス停が近くなったらブザーを押して

運転手さんに知らせないと、降りる客もおらずバス停に誰も待っていない場合通過されてしまいます。

夜遅く一人でバスに乗って帰る際は、必ずこのブザーをギリギリまで押しません。

他に降りる人がいて先に押されればそれまでだし、なんとなく自分が降りるバス停を

早くから他の乗客に知られるのが嫌だからです。

その時も『あぁ…バス停が見えたし誰も待ってないからそろそろ押さなきゃな。』と思いブザーを押しました。

ギリギリまで待って押したので3秒ほどでバス停に停車しました。

私がバスを降りた頃、後ろの方の席から走ってくる足音が聞こえました。

でも、その時は何とも思いませんでした。とにかく家に早く帰ることしか考えてませんでした。

バス停から家までは300メートル程の距離ですが、外灯も少なく薄暗い所です。

平屋建ての民家が並ぶ路地を進むと、その先は両側を竹やぶに囲まれた道になっており、

個人的には何か出てきたり連れ込まれたりしそうで一番嫌な所ではあるのですが、

長年通り慣れた道ですし今まで何かあったという話も聞いたことはありませんでした。

何より竹やぶを抜けた先には電話ボックスや自販機が並び、そこから家まではすぐです。

バスを降りると時間が時間なだけに電気の点いてる民家も少なく心細くなりましたが、

『何かあったら大声出そう』なんて思いながら歩いていると、

後ろから少し小走りでこっちに向かってくる足音に気付きました。

『嫌だな・・・』と思いつつも自意識過剰かな?なんて思い、

気にせず歩いていると後ろから「あの…すみません。」と、声をかけられました。

びっくりして振り返るとTシャツにGパン、サンダルの30代前半ぐらいの男性でした。

細身だけどなんか全体的に汚い感じで、メガネが汚れてたのが外灯の明かりで見えて気持ち悪かったです。

そして白いハンカチを見せて「これ…バスに落とされてましたよ。」と言うのです。

でも、そのハンカチには見覚えもなければ、当然私の物でもありませんでした。

「いえ、私のじゃありませんので・・・すみません。」と言って行こうとしたら、

「あぁ。・・・でも…!あなたの座ってた席に落ちてたんですよ?!」と明らかに焦ってる感じで言われ、

『え・・・?怖いかも・・・この人ヤバイ?!』と思い軽く会釈して行こうとすると、

「こ!・・・この道やめた方がいいですよ!!」とさっきより少し大きい声で言われ、

思わず「え?」と聞いてしまったら、「あそこの電話ボックスの女の人・・・見えてます?

あの人…人間じゃありませんから。」「・・・・・。」『何言ってんの?』と思いつつも、

振り返って見てみると、20代前半ぐらいの女性が電話ボックスの中にいるのが見えました。

ただ、距離があるので女の人がいるな。ぐらいで表情はもちろん服装等もよくわかりませんでした。

こちらからは角度的に女性が横向きに立っている姿が見えているだけでした。

よく怖い話に出てくるような長い黒髪で・・・という感じではなく、金髪に近いぐらいの茶髪の

ベリーショートの細身の色白の女性でした。ただ、不思議な感じがしたのはこちらから見ると、

公衆電話の裏側が見えているので、電話をしようと普通に立つとこちらを向く形になるのですが、

その女性は横向きに立っていました。私からは女性の左の横顔が見えていました。

そして、受話器が公衆電話にかかったままだったのです。

「電話もしないのに電話ボックスになんか入らないでしょ?雨も降ってないし。あの人動かないんだよね。」

「・・・・・?!」確かに微動だにせずじっと地面の方を凝視してる感じでした。

私は目の前の男性に対して恐怖心を抱いていたのにその女性を見て違和感を感じてからは、

すっかりその女性に対する恐怖心の方が強くなっていたのです。

『この人あの女性のことを教える為にあんな嘘ついて引き止めてくれたの?!

…勘違いして気持ち悪がったりして悪かったな・・・』と思っていると、

「あの女性・・・近くまで行くと近づいて来るんですよ・・・さっき行った時寄って来たんです。

だから危ないですよ。近づかない方がいいですよ。」

「でも、私ここ通らなかったら凄く遠回りしなきゃいけないんです。」

「じゃあ、危ないから送りますよ。」「いえ、ご迷惑ですし大丈夫です。有難う御座います。」

「いえいえ、余計な事言ったの自分ですし、こんな時間に女性の一人歩きは危険ですよ。」

『でも、この人本当に信用していいのかわかんないし、やっぱり2人きりでとか嫌だ・・・。』って

思ってしまって咄嗟に、「そうですか・・・じゃあちょっと家に電話してみます。

家の者が迎えに来てくれるかもしれませんので。」「・・・。…そうですね。わかりました。」

(※本当は一人暮らしなのでもちろん嘘です。)そしてすこし離れて家に電話をしてるふりしてる間に

さっきの会話が妙に気になってきて思い返して気付いたのですが、

『さっき行った時』って一緒にバスに乗ってたのに絶対おかしい!って思って実際には繋がってないのに

会話してる感じを装ってしばらく話した後、電話切って「あの・・・近くまで父親が来るみたいなので大丈夫です。

お気遣い有難う御座いました。もう来ると思いますのでお帰りになって下さい。」

「そうですか・・・。じゃあ、お父さんが来るまでいますよ。お一人じゃ心細いでしょ?」

「いえ、本当にすぐ近くなので大丈夫です。かえって気になってしまいますので、

お帰りになって下さい。お見送りします。」「・・・そうですか。じゃあ・・・。」「有難う御座いました。」

そう言って歩き出したのですが、ちょっと離れた所からこっちの様子窺ってるのがわかったんです。

向こうは隠れてるつもりなんだろうけど、外灯で影が出来てじっとしてるのが見えたんです。

『絶対父親なんかこないのわかってるんだ・・・』と思ってしばらくは携帯いじってていざとなったら

110番しようと思って通話ボタンに指置いてました。本当は1~2分だったと思うけど5分ぐらい

経ったような気がして『いつこっちに来るかわかんない。』と思って、

究極の選択で私は女性の方へ進む道を選びました。

行くしかないと思って歩き出して女性に近づくとだんだん彼女の様子が鮮明になってきてわかったのは、

彼女は裸足に薄い水色のノースリーブのワンピースを着てました。

ただ、ワンピースは凄く汚れてるし、所々に灰色の汚れとか血のような赤黒い染みがありました。

裸足の足は泥だらけだったし、本当に何処かから逃げて来たって感じがしたことと、

何より怖かったのは見えてる肌は痣とか傷とかがいっぱいだったことです。かさぶたになってる所もあれば、

血が滲んでる所もあって本当に生々しくて一瞬『この人、霊じゃなくて人間なんじゃないの?!』と思うほどでした。

さすがに怖くて首から下しか見れてなかったのですが、人間かもしれないと思って顔を見て人間じゃないってはっきり

わかってしまったんです。彼女の顔には、眼球が無かったんです。私、彼女の顔を見た時びっくりしたし、

怖かったけど『生きてる時きっと可愛かっただろうに・・・かわいそうだな・・・』って思ったんです。

顔も小さくて鼻筋通ってて、目が無くても端正な顔立ちしてるってわかったんです。

そしたら、本当に一瞬目を逸らした瞬間に姿が消えたんですけど耳元でか細い声で「助けて。」って

女性の声がしたんです。一瞬で全身に鳥肌がぶわって立ちました。

すぐ周り見たけどもちろん姿は無くって、すぐにまた女性の声で今度は「逃げて!」って聞こえて後ろを見たら、

さっきの男性が近くまで来てたんです。とにかく逃げなきゃと思って家までひたすら全速力で走って逃げました。

後ろから追って来てる感じはしてなかったんで急いで家の中に入って、すぐに電気つけたらバレると思って、

しばらく玄関の暗闇でじっとしてたんですが、人の足音とかもなかったしそろそろ部屋に・・・って思ったら

部屋の真ん中辺りに人影があったんです。さっきの男性かと思って咄嗟に外に出ようとしたらドアが

開かないんです。パニックになってガチャガチャするんですけど鍵閉まってる感じでノブが回せないんです。

でも鍵は明らかに開いてるのが見えてるんです。そしたら「どこいくの?」って耳元で聞こえて、

その時にあの時の女性だ!ってわかったんです。怖かったけど後ろ見たらさっきと同じ場所に同じ様にいて、

「助かってよかったね。」・・・その言葉聞いてなんだか怖いとかって気持ちがなくなって、

凄く冷静になれたんです。でも、やっぱりさっきみたあの顔がフラッシュバックしてどうしようって

思ったんですけど一呼吸して電気点けたんです。そしたらやっぱりそこにいたのは彼女だったんですけど、

今度はちゃんと眼球があったんです。そして、本当に可愛い顔でこっち見て悲しそうに微笑んでたんです。

あの男性はワンピースを着た彼女の彼氏だったんです。

彼氏の彼女に対する束縛がひどくなり、監禁、虐待するまでにエスカレートし、

とうとう彼女は亡くなってしまったそうなんです。

ただ、死んだ時の記憶やその後なぜあの電話ボックスにいたのかはわからないらしく、

思い出そうとしても全く思い出せないらしいです。

時間の感覚は無いようで、どのくらいあの電話ボックスにいたのかはわからないらしいのですが、

私が来た事を認識し言葉を発した後は、引き付けられるように私の部屋に入ったらしく、

気付いた時には部屋の中にいて私を見ていたようです。

恐らく私が、同情したことによって付いて(憑いて)これたんだろうということでした。

彼女曰くずっと暗闇にいた所に、光らしきものが見えたかと思ったら私の姿が見えた様です。

それで思わず声が出て、自分自身も驚いてたら彼氏が近寄って来てるのが見えたらしいです。

その後どうなったかと言うと、彼女の望みは彼氏に復讐することらしいのですが、

彼女の記憶も曖昧だし、思い出せない事が多すぎてわからないことだらけでなかなか進展しないのです。

しかし、諦めるつもりもないらしく今では彼女との変な同居生活中です。

彼女曰く、もうあの電話ボックスに行くことも他の場所へ行くことも出来ないらしく、

私の部屋のある場所からは動きません。また、消えることもないのです。

24時間その場所にいるのです。私にはもちろんずっと姿が見えますし話もします。

私の方は他に変化は無く、他の霊が見えることも無ければ声が聞こえたりもしません。

彼女に同情もするしあの男に対して怒りもありますが、手助けになってあげれず途方にくれてます。

彼女も私と一緒にいることで気持ちに変化があるらしく、時々こう言うんです。

「あなたといるとあいつへの憎しみが和らいできちゃって、どうでもよくなるときがあるんだ・・・。」

そんな時はお互いに顔見合わせて「・・・困ったね。」って言い合うんです。

私は、人間の方へ行くか、霊の方へ進むか究極の選択で霊を選び現在こうなりましたが、

この選択は間違ってなかったと思っています。

霊より人間の方が怖いですよね。皆さんはどちらを選択しますか?

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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途中で読むモチベーションが保てない作品、

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