中編5
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写真の女 2

一週間後。

その日僕は、S介と一緒に卒業後に就職する会社に、挨拶がてら見学をしに行っていました。

S介とは5人の中でも一番気が合いいつも行動を共にする事が多く、就職先も2人で同じところに決める位、仲の良い関係でした。

就職先の会社を後にし帰る途中、僕は今住んでいるアパートを出て、会社に近いところに引っ越そうかと考えている事をS介に相談していました。

初めの内はああだ、こうだと言葉を返してくれていましたが、急に黙りだしたS介が気になり彼の方を見ると、何やら考え事をしている様な浮かない表情をしていました。

「なに難しい顔してんだ?」

そう聞くと、S介は、

「お前、気が付かなかったのか!?まさかとは思うんだけど、今すれ違ったんだ。あの女に…。あの写真の女だよ!」

最初なんの事なのか理解出来ずにいましたが、例の写真に写り込んでいた女の事だと気付き、

「そんな馬鹿な事があるか。あれはきっと、いや確実にこの世の者じゃないし……。きっと見間違いだって」

するとS介は、

「俺もそう思ったさ。でも…でも、すれ違う間際にあの女と目が合ったんだ。それにあの女、笑ってやがった……」

正直、僕は背中がゾクッとなりました。

S介はこの手の冗談は言わない奴で、それに何よりその時のS介の顔なんですが青ざめていて、それに目。怯えている様で焦点も合っていない今まで見た事の無いS介の目に、とても不安を感じました。

その日はそれでS介と別れたのですが、4日後……。

学校へある用事で行く事になった僕に、事務員さんが話し掛けて来ました。

それはS介に連絡が取れ無いとの事で、何か心当たりは無いか?との事でした。

僕の方から連絡させると伝えS介の携帯に電話を掛けたのですが、何度掛けても繋がらないのです。

T太達にも聞いたのですが最近、会ってもいないし電話も掛かって来ないとの事でした。

僕は急いでS介のアパートに行きましたが、部屋のドアには鍵が掛かっているし、呼びかけても何の返事もかえって来ません。

何だか嫌な予感がして、僕は大家さんに事情を話し鍵を開けてもらいました。

中を調べたのですが、S介の姿はありませんでした。

僕は学校で事務員さんにS介の事を聞かれた時から、何か嫌な胸騒ぎがしていました。

4日前のS介の様子が気に掛かっていたからです。

あの日S介は、あの写真に写った女と街で出会っていた。何かその事と関わりがある様で一層不安になりました。

5日後。

相変わらずS介の行方は分からず、僕達とS介のご両親とで警察に本格的に捜索を依頼しました。

相変わらず、S介の携帯へ繋がる事は無く、警察からの連絡を待つしかありませんでした。

その日の夕方。

M美から僕の携帯に電話が入りました。それはあの時、学校の図書室の本の間に挟んでおいた例の写真が、いつの間にか無くなっているとの事でした。

いつから無くなっていたのかは分からないけど、実際に本に挟んだM美が言うので間違いは無いと思いました。

でも、一体誰があの写真を持ち出したのか…。

もしかしたら、知らない間に誰かにもう捨てられているのかも。

何がどうなっているのか訳が分からなくなっていました。

ただ願う事は、S介が無事に戻って来てくれる事。

それだけでした。

5日後。

S介のアパートの大家さんから電話が有り、S介が帰って来たとの事でした。

その日僕は、不動産屋へ部屋を見に行く約束をしていましたが、直ぐにS介のアパートへ向かいました。

アパートに着くと警察官と大家さんがS介の部屋の前に居て、僕はS介と話しがしたいとお願いし、部屋に入りました。

中に入ると、壁に凭れて座り込むS介がいました。

少し痩せた感じでしたが、身なりもきちんとしていて髪も髭もちゃんと手入れされていた事で、幾分か安心しました。

ただ、僕の話し掛けにうなずきはしますが、言葉に出す事はしませんでした。それと、絶対に僕と目を合わさないのです。

学校の事、就職先の会社の事、部屋を越す事など一方的に話し掛けていました。

そして話しが四国旅行の事になると、S介は少し目線上げ小さな声で

「女と一緒に居たんだ」

「女?」

S介は話し続けました。

「アイツ、なかなか帰らせてくれないんだ。だから目を盗んで逃げて来た…」

僕は前にS介がすれ違った写真の女の事だと思いました。

でも、あれは間違いなくこの世の者では無い筈なのに一体どう言う事なんだと思いました。

S介はその後もこれで自由になったとか、ドアの鍵を変えなければなどと言っていました。

少しして、部屋のドアが開きT太達が息を切らし入って来ました。

今の現状を説明し、暫くそっとしておいて落ち着かせようと僕達は部屋から出ようとした時、突然S介がドアの方を見て、

「誰だ、誰が連れて来たんだ!」

今までの様子と打って代わり物凄い形相で叫び、窓の方へと走り出しました。

外に居た警察官も中の様子の異変に気付き、入って来ました。

S介は窓を開け、ベランダに飛び出し、手すりを乗り越えようとしていました。

二階とは言っても下はコンクリートの駐車場なので、もし落ちたりすれば無傷では済みません。

僕達は何とかS介の体を手すりから引きずりおろしました。

体を震わせ、何かに怯えた様子のS介は、警察官が手配した救急車で病院へ運ばれて行きました。

今、起こった現実を目の当たりにした僕達は、暫くの間黙り続けました。

急に行方をくらましていたS介が戻って来た。

そして訳の分からぬ事を言いながら何かから逃げ出そうと……。

一体S介には何が見えていてのだろう?

あの写真の女だったのでしょうか?何故S介にだけ……。

僕はある事を思い出しました。

あの写真の女、横を向いていたのですが、その視線の先にはS介が。

関係があるかどうかはわかりませんが、S介はあの旅行に行った事であの女に付きまとわれ、気がおかしくなった様に思えて仕方ありません。

それからS介は、精神病院に長い期間入院していて、3年前に退院したと聞きましたが、今、何処で何をしているかはわかりません。

それとあの写真ですが、未だに見つかっていません。

誰かの手に渡り不幸を招かなければ良いのですが。

長文、お許し下さい。

怖い話投稿:ホラーテラー カシューさん  

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