中編7
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森の奥の井戸・前

夏になると何故か怖い話しをしたくなったり、心霊スポットに行きたくなりますよね。ならないよって方も居るかもしれませんが、私と私の友人は「なる」方でして、先週行ってきたんです。市内で噂になっている森の中の井戸がある場所に。

その日私は友人のA美・B子・C君・Dさん(C君の五つ上のお兄さん)の4人と共に近場のコンビニで待ち合わせをしていた。

そして夕日が良い具合に沈んできた頃、それぞれが飲み物やお菓子とかを持参して、半場パーティーする気分でDさんの車に乗り込んだ。

運転席には、もちろんDさんが。助手席にはA美。そしてA美の後ろにC君、B子、私の順番で座ってた。

その井戸がある森っていうのが、市内の端の方で、車が進むにつれ人の気の無い道になっていったんですが、全然気にしてなかった。

それに、この日初めて話したC君やDさんと意気投合して盛り上がっていたし。(二人はB子の知り合いです)

でも何十分か経って、その井戸があると言われてる森の入り口に着いた事で、私たちは気を取り直し車から降りた。

その時点で周りには道と緑だけ。

私たちは用意してた懐中電灯をそれぞれ持ち、森の中へと歩きだした。

噂にある井戸は注連縄で囲まれているらしく四方を懐中電灯で照らして目を凝らすかんじで。

で、結構すすんだ頃に前にいたB子の

「あっ!」

と言う声が耳に届いて、どうした?ってな感じでB子の視線の先に顔を向けたんです。

そしたら探していた注連縄とその奥に古い感じの井戸が見えて。

私以外の4人は興奮気味に「まじであったなー」「すごい雰囲気あるね」みたいな感じで騒いでたんだけど、私は何か嫌な気がして4人みたいには騒げなくて。

だってその井戸、なんかリングの井戸に似てるんですよ。

でも4人は楽しげに注連縄と井戸の方に進んで行くから、私は何も言えなくて。

それに今さら怖いから止めようなんて恥ずかしくて言えなかった。

そうしてる内に井戸が先程よりハッキリと見えてきたんだけど、やっぱり何か嫌な感じが続いて・・・ふと腕時計を見ると時刻は12時ちょうど。

A美達はまだ騒いでる。

そのときいきなりB子が

「ねぇ井戸覗いてみようよっ!」

って言って注連縄に足を片方かけだした。この時本当に面食らいましたね。他の皆もそれには驚いてて。

だって普通、注連縄がされてるってことは少なからず何かあるってことでしょ?

なのにその注連縄が囲んでる中心の井戸まで行くなんて。急いでB子に

「ちょ、それは危ないよっ!」って制止の言葉を投げ掛けたんだけど、気づいたらB子は注連縄の中にいる。

このとき弾かれたように悪寒が全身を巡った感覚は今でも覚えてる。

嫌な予感しかしない中、注連縄の中に入ったB子は私に「えーなに○○(私の名前)びびってんの?」って笑いながら尚も足を止めない。

異様な空気を感じとったのかA美やC君、Dさんまでも止めようと言葉をかけているのにB子は鼻で笑って

「全然怖くないしー皆ヘタレじゃん」

・・・もう、あんときは本当キレそうだった。でもやっぱり友達だし、キレる前に注連縄の中から出さなきゃって。

「B子!本当に危ないって!早く注連縄から出てっ」

必死に言ったけど

やっぱり

「余裕だしー」

とかのセリフしか言わず止まろうとしない。

笑いながら一人井戸の方へ進み、いつのまにかB子の姿も段々見えなくなってきた頃

私は見てしまった。

B子の前にある井戸の中から白い腕が一本、井戸から這い上がるように飛び出てるのを。

「ひっ!!」

前にいたA美がその腕を見ながら声を出して震えている。C君もDさんも次々に腕に気づいて青ざめてるけど、何故か一番ちかくにいるはずのB子は気付いておらず、

ますます井戸に近づく一方。

今思えば、このときの私達の行動や言動を聞いて流してたんじゃなくて、既にB子には聞こえなかったんだと思う。

でもやっぱりその時はパニクってたし、そこまで考えてなかったから、より焦ってた。

どうすればいい?って。

だって私は特別霊感があるわけではないし、陰陽師とかそんな格好良い血筋でもない。ましてや、こんなにハッキリと幽霊らしきものを見たのはその時が初めてで。

A美達も、ただ呆然と自分たちの声が届かないB子を見てた。

そして・・・

ついにB子は井戸の目の前についてしまった。木々のせいで少ししか地に通らない月の光が、ますます異様に感じさせる。

B子には見えてない白い腕がいつの間にか二つになっていて、顔も半分が見えてきていた。

もうまさに、貞子の登場シーン。

震えすぎて、もう現実なのか夢なのかさえもわからなくて、夢であってほしい、そう願うけど、でもやっぱり現実で。

B子が井戸から私達の方に振り向いて

「ほらー何もないじゃん。皆ビビりすぎ」

って言ってきた頃には、貞子みたいな幽霊の全身は井戸から全て這い上がり、B子の後ろに立っていた。

顔を覆い隠す程髪が長く、でも一番怖かったのは貞子と違って、そいつ赤いワンピース着てたんですよ。

本当の恐怖に私達は息をすることも忘れ、ただB子が無事にこっちに戻ってきてくれるのを祈る。

それしかできない。

笑いながら、こちらに戻って来ようとするB子。

そのB子の体が井戸に引きずり込まれるのは一瞬だった。

最初は何が起きたのか分からなかったんだけど、あの貞子みたいなやつが、B子の頭を白い両手でガシッ掴んだと思ったら、井戸に戻っていって・・・

やっと頭で理解した時には、井戸の底から聞いたことないようなB子の悲鳴が聞こえいた

目の前で崩れおちてるA美とC君は、必死にB子の悲鳴が聞こえないように耳をふさいでいたのを覚えてる。

でも一時したら、B子の悲鳴は、もう聞こえなくなって・・・

代わりにズル、ズルッっていう何かの音が聞こえてきた。

私はそれが何の音かなんて全然わからなかったけど、同じように立って呆然としていたDさんには何の音かわかったらしく、耳をふさいでる2人を凄い形相で立ち上がらせて、焦ったように

「車まで走るぞ!!」

と良い放ち走り出した。

自力で走れる様な状況じゃなかったA美を半場背負い気味で前を走るDさんの後を、C君と一緒に追いかける。

ズルズルという音は走っている間もずっと後ろから聞こえていて、涙目になりながら必死に走った。

まだ真っ暗なうえ、懐中電灯をきちんと照らす余裕なんてないから、何度も転けそうになったけど死に物狂いで。

そしてやっと見えた、Dさんの車。

Dさんは走りながらポケットから車のキーを取り出すと、センサーみたいなので車を開け、A美を助手席に放り込み、運転席にまわった。

その間に私とC君も車の後部座席に乗って、内側からロックをかける。Dさんも前のドアのロックを両方ともかけ、荒々しくキーを車にさしこんだ。

しかしいつまで経ってもエンジンが、かからない。

まるでテレビみたいに、何度やっても何度やっても。

その度にDさんが

「くそっ、なんでだよっ、動けよ!!!」

と声をあらげていたけど、程なくして車内を静寂が包んだ。

何故なら

ズル、ズルっていう不気味な音のかわりに、次は枯れた葉っぱを踏みつけるようなグシャ、グシャって音が車の近くに近づいてきたから。

ドクドクドク・・・

嫌な汗が背筋をながれる。

A美は助手席の上で体育座りをしてガタガタ震えていて。いや、もはや車に乗っている皆の体が恐怖で震えていたと思う。

グシャ、グシャが

ゆっくりゆっくり近くなる。

それがやけに恐ろしく感じられた。

そして、ついに

車から見える位置まで音が来たかと思ったら、ニコニコしたB子が森から出てきた。

もうその場にいた皆で固まった。

最初は無事だったのか?って思ったりもしたけど、私達はB子が井戸に落ちる場面を見ているし、何より悲鳴もきいた。

井戸の深さなんてわからないけど、落ちたら助からないぐらいの深さはあったと思う。

なのに車の外にいるB子はまるで無傷で笑ってる。

ずっと

「アハハハハハハハハハ」って。

笑うたんびに首を左右に振ってさ。

本当、そのときの真夜中に首を振って笑うB子の姿は怖い以外のなにものでもなかった。

必死にA美は

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」って目を閉じながら泣いてるし、

DさんC君は、B子の姿を見ないように顔を伏せてる。

それだけB子の姿は恐怖だった。

でも私は、目を閉じることも伏せることも出来なくて、車の外、森に入る入り口で笑ってるB子をただ見ていた。金縛りの一種だったのかもしれない。

そして気づく。

なんか可笑しいぞって。

いや、笑ってるB子の顔は紛れもなく私の知ってるB子なんだけど・・・

なんて言えばいいのかな。

笑ってる目の奥に、もうひとつ目があるんですよ。

しかもよく見ると、何か皮みたいなのがペラペラしてる。

言い様のない感覚。

私は何も考えずゆっくり目を凝らして、B子の着ている服を確認した

赤いワンピース

瞬間、全て理解した。

でも理解したことが怖かった。

・・・そう。車の外で笑ってるやつは、B子なんかじゃなく・・・B子の顔の皮を被った、さっきのあの女だったのだ。

弾かれたように駆け巡る恐怖、絶望。あまりの光景に声なんか出なくて、ただ恐怖に涙が流れるばかり。

外を見たまま固まる私に気づいた隣のC君が

「○○ちゃん!?」って言ってるけど、もはや反応することもできなかった。

「アハハハハハハハハハ」

「アハハハハハハハハハ」

「アハハハハハハハハハ」

もう嫌だ、もう嫌だ、これだけを頭で叫んでたのを生涯忘れないと思う。

怖い話投稿:ホラーテラー キーロさん  

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