中編5
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『都市伝説』

「ハーナーちゃん

 あーそーぼー!」

玄関先で、はしゃぐ子供たちの声。

『ちょっと、待っててぇ!』

家の奥から元気に応える花子さん。

──夏休みに入ったばかり。

この村に住む子供たちにとっては、村の全てが遊び場で、虫や動物たちは友達で、毎日が冒険です。

特に今日は、村のお祭り。

花火こそ無いものの、神社に並ぶ露店は、子供たちの心を踊らせます。

「ハナちゃん、浴衣かわいー!」

しろちゃんは、うらやましそうに言いました。

「そんなの着てたら、走れんぞ。」

口をとがらせる、真っ黒に日焼けした涼くん。

「涼くんだって、ゲタ履いてるくせにぃ…イテッ!」

涼くんにゲンコツ食らうサトル。

「わしは、もともと足が早いからええんじゃ。」

「涼くんほんとは、ハナちゃんのこと好…アイタッ!!」

「ボケッ!早く行くぞ。」

子供に負けじと、セミたちの声も一段と賑やかになります。

『あっ、ちょっと先に行っててぇ。』

ある民家の前で花子さんは立ち止まりました。

「またかよぉ、早くしないと置いてくからなぁ。」

花子さんは近くの小川で、一輪の花を摘み取ると、民家の門の前にしゃがみこみました。

そして両手を合わせ、なにやらブツブツと唱えています。

『……………ように。』

「ハナちゃん、もぉい〜い ?」

『ごめーん。行こっ!』

この行為が、後に村中を恐怖に陥れることになるとは、まだ子供たちは知りませんでした……。

数日後──。

「あっ!死神が来た。逃げろぉ!」

花子さんを見つけた少年達は、一斉に走り出します。

『…………、違うよぉ、わたしは…ただ…。』

「なんだよぉ、言ってみろよぉ!」

遠くで、はやし立てる少年達。

あれから、しばらくして花子さんは村の人々から、執拗ないじめにあうようになります。

理由は、あの行為が村中でうわさになったためです。

花子さんが門の前に花を置き手を合わせると、3日後にその民家に住む誰かが必ず亡くなりました。

それが花子さんの呪いとしてたちまち噂が広まり、村人達は花子さんを避けるようになったのです。

子供たちの仲も親達に強引に引き裂かれ、花子さんに近づくことを禁じられます。

花子に近づくな

花子と会うと呪われる

花子と目が合うと死ぬ

花子は死神

死神を村から追い出せ

噂は次第に尾ひれがついて、花子さんの家には悪質ないたずらが毎日続くようになりました。

そしてついに、花子さんの姿を誰も見ることがなくなったのです。

もちろん両親は村の警察に捜索願いを出しましたが、誰一人耳を貸してくれませんでした。

そして夏休みが終わり、始業式の朝────。

「誰じゃ!こんなことしたのは!?」

教室中に響き渡る涼くんの怒鳴り声。

「……こんなの……ひどいよ。」

泣きじゃくる、しろちゃん。

「絶対、許さんからな。」

唇を噛み締めるサトル。

朝、3人が登校したときに教室にソレはありました。

花子さんの

机の上に置かれた

花瓶に添えられた花

それは、今だ行方不明の花子さんに対しての死を意味するもので、それは彼らにも理解ができたのです。

彼らは、夏休みが終わることを楽しみにしていました。

学校が始まれば、花子さんに会えると信じていました。

また以前のように、毎日一緒に遊べることを願っていました。

それなのに

その気持ちを

踏みにじるような

あまりにも残酷な仕打ち……

と、その時───。

「ギャーー!!!」

教室の外から泣き叫ぶ声。

「は、花子ちゃんが…。」

トイレから女の子が飛び出してきました。

「ハナちゃん?いるの?」

しろちゃんは真っ先に走り出しました──。

確かに、花子さんはそこにいました。

女子トイレの一番奥の個室。

隅に体育座りをする花子さん。

でも、花子さんはもう二度と笑うことはないのでした。

花子さんの葬儀が終わった次の日、しろちゃんは教室の花子さんの机の中に、一冊の絵日記を見つけます。

涼くん、サトルをすぐに呼び、絵日記を開きました。

『7月26日

今日はしろちゃんたちと、神社のお祭りに行きました。

行くとちゅう、今日も死神さんが、屋根の上に立っていました。

やくそくどおり、お祈りをしました。

7月26日

先生、あのね、そうだんがあります。

お母さんに言ったら、だれにも言うなって。

私ね、死神さんが見えるの。

死神さんが屋根に立ってるとね、その家の人死んじゃうんだよ。

そんなことしちゃダメって言ったら、うんめえだからって。

うんめえって変えられないんだって。

先生、うんめえって、なーに?

7月27日

きのうのつづき。

その時に死神さんが言ったの。

花子の命を10年分くれれば、苦しまないように死なせることはできるんだって。

もし、そうしたかったら、死神さんが立っている家の門に花をおきなさいって。

そしてね、花子の命がけずられますようにって、祈りなさいって。

約束しちゃった。

でもね、先生。

花子は大丈夫なの。

七夕の時にね、200才まで生きられますようにって、短冊にお願いしたもん。

ちょっと減っちゃうけど、しろちゃん達と同じぐらいになるだけだし。

8月20日

先生、死神さんがお迎えに来ちゃったみたい。

短冊のお願い、とどかなかったのかなぁ。

七夕の日、お空が曇ってたから見えなかったのかなぁ。

でも、花子がお空に行ったら、お願い聞いてくれるかなぁ。

花子の机にお花をおいたら、誰かが助けてくれるかなぁ。

ねえ、先生。

しろちゃん、泣いちゃうかも。

りょうくん、きっと怒るよね。

さとるくんは、だまっちゃうよね。

みんな、ごめんね。

もし、花子がお空から戻ってきたら、また遊ぼうね。

ばいばい。

花子より    』

涼くんたちは絵日記を閉じ、すぐトイレに向かいました。

「ハナちゃん、もどってきてよ!遊ぼうよぉ!」

開かないドアに向かって、声を震わせるしろちゃん。

「もどってこないと、一生絶交だかんなぁ!」

腕組みをして座り込むサトル。

そして、無言で個室のドアを殴り続ける涼くん。

その騒ぎに駆けつけた先生達の静止を振り切ってまでも、子供たちの叫び声は、ずっと続きました。

夏の終わりを告げるツクツクボウシの鳴き声が、夕焼けの空に悲しく染み込んでいくのでした。

「花子さん、遊びましょ。」

都市伝説は今日も子供たちに語り継がれます。

怖い話投稿:ホラーテラー ソウさん  

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