短編2
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狂気

姉は数ケ月前から

ストーカーの被害に遭っていた。

外出すれば 誰かの視線、気配、尾けられている感覚。

最初は気のせいだと思っていた。

だが絡み付くような視線に鳥肌が立つと言っていた。

姿を現さない相手に苛立ち、恐怖感が増す。

警察にも相談したが 夜間パトカーで巡回 しますと事務手続きで帰された。

無言電話等の、嫌がらせはない。

ただ 夜に限らず、昼間でも粘着性の視線を感じる…らしい。

家族は協力し合って 送迎は、もちろんのこと防犯システム、 グッズ等を揃えた。

姉は美人でキャリアウーマンタイプだ。

気が強く仕事もできる。怨恨の線も否定できない。

ストーカーする相手は男だとは限らないということだ。

さすがの姉も疲労や焦りの色は隠せない。

私が、この手で犯人を捕まえて警察に突き出してやる、と明らかに尋常ではなくなっていた。

綺麗に着飾っていた姉が、ジャンバーにジーンズ、男のような格好をするようになった。

肌は荒れ 目は窪み、人相までもが険悪になってきた。

ある夜

自宅の電話が鳴った。

たまたま電話に出たのは私だった。

「もう勘弁して下さい」

押し殺すような男の声。

男は姉の会社の上司だと名乗った。

姉と男は一年前から 不倫の関係にあった。

男の妻が妊娠したことを、きっかけに男は一方的に姉に別れを告げた。

姉が異常なる行動に出たのは別れた直後数ケ月前からだという。

男の携帯に姉からの執拗な嫌がらせ電話が、一日に何百回とかかってくるらしい。

当然着信拒否にして無視してきたが、諦めない姉の執念に、精神的に参ってきたらしい。

警察沙汰にはしたくないと男。

出世や家庭を壊したくないと…

姉は会社では、普段通り仕事をこなしていたが、最近の姉の様子は危機迫るものを感じるらしい。

男は何度か姉を待ち伏せして話し合おうと試みたが、結局

水掛け論で終わったらしい。

ストーカー行為はしてないと男は言った。

私はショックのあまり、言葉がなかった。

だが疲労困憊した男の声に嘘偽りは感じられなかった。

こんな恐ろしいこと老いた両親には、とても話せない。

私は真相を確かめるべく姉に男からの電話内容を全て打ち明けた。

「そうよ」

姉は、あっさり認めた。

「あいつが私に何かしたら、ストーカー男として訴えてやるわ。どのみち私より彼の方が失うものが大きいのよ。いい気味だわ」

ストーカーは姉だった。

開き直った態度というより憎悪を感じる。

自慢の姉だった。

美人で頭がよくて…

男性にもモテるのに。

誰もが羨むものを持っているのに

何故 こんな選択しかできないのか。

他人を不幸にすれば必ず自分も不幸になる。

そんな簡単なことが何故わからないのか。

「男って弱いわね」

姉は笑っていた。

怖い話投稿:ホラーテラー サキさん  

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