中編5
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巫女

これは私の祖母が実際に体験した話です。幼い頃に母から聞かされた時は、背筋がゾっとしたのを覚えています。

長いので、長文が苦手な人はスルーしてください。

(前置きですが、当時祖父と祖母は、別々の寝室で寝ておりました。)

ある日の朝、祖母が祖父に、「最近変な夢をみる」と打ち明けたそうです。

祖父がどんな夢かと訊ねると、「寝ていると、何人かの人に髪の毛を踏まれる」と言います。

そしてその足は、祖母の体を型取るようにしてぴったりとくっつきながら歩くのだそうです。

またその中の何人かは頭周辺に留まり、執拗に髪の毛を踏むため、痛さは感じないものの非常に不愉快な気分になるのだそうです。

気味の悪い話だと思いながらも祖父は、

「所詮夢だ、あまり気にするな。疲れているんだろう」

と祖母の日頃の疲れを気遣う言葉を言ったのみ、その後は特に耳を傾けなかったそうです。

そうして何日か経ったある日、祖母が真剣な顔をして祖父に言いました。

「どうも夢ではない気がする」

祖父は、まだ言っているのか‥と内心興味は薄かったものの、祖母の真剣な顔を見て、

「どうしてそう思うんだ?」

と訊ねました。

すると祖母は話し出したそうです。

「この前話した話には続きがあってね。髪の毛を足に踏まれるっていう話、あれだけじゃないんですよ。」

「あれだけじゃないって?」

「実はね、髪の毛を踏まれた後に、必ず部屋の押し入れの襖が開くんです。スーッて。」

「ほう」

「そしたら、上から降ってくるんですよ、バサって。」

「降る?降るって何がだ?」

「巫女さんですよ」

祖父は、正直驚いて黙ってしまったらしいです。巫女さんが降ってくるなんて話、いくらなんでも夢としか考えられなかったからです。

それなのに、それを夢ではない気がすると真剣に話す祖母を見て、すぐに心配する気持ちになったと言います。

ノイローゼにでもなってしまったのではないかと、本気で思ったそうです。

そんな祖父の気持ちを察してか祖母は、

「あたしはおかしくなってなんかいませんよ。ちゃんと現実かどうか確かめましたから。」

と言うのです。

祖母の話によると、押し入れの襖が開くと、上(中?)から巫女さんが降ってくるのだそうです。

そして暗闇の中、長い黒髪を振りほどいて上下に激しく振るらしいのです。

あまりに激しく振るため、静まり返った部屋の中には、「ゆさゆさ」と髪の毛が揺れ動く音が不気味に響き、顔を見てとろうにも大量の長い髪の毛と激しい揺れ、もちろん暗闇のせいもあり男女の判別すらつかないほどなのだとか。

ただ、巫女さんが着るような白に赤の袴姿をしていることから、「女の人なんだろうな」と思ったそうです。

初めは夢だと思っていた祖母も、何日も同じような光景を見ることに疑問を感じるようになり、ある行動を取ります。

巫女さんの降ってくる押し入れの襖をぴったりと閉め切り、その際に紙切れを一枚挟みます。

自分の寝ている間に誰かが襖を開け閉めすれば、この紙切れは当然床に落ちるはずです。

そしてもう一つ、この夢のことを話したある友達に、

「騙されたと思って持っておきなさい」

と言われて手渡された御守りを枕元に置いて眠ることにしました。

そして眠りについたところ、祖母はあの不気味な音で目を覚ますことになります。

「ゆさ‥ゆさ‥」

「ああ‥やっぱりきた」

そう思って押し入れの方を見ると、そこには巫女さんがおり、いつものように髪を振り乱しているのです。

何をされる訳でもないのですが、その瞬間から無性に恐怖を感じた祖母は、手と手を合わせ必死に謝ったそうです。

何に謝ったんだと突っ込む所なのかもしれませんが、同じ状況を想像したら、祖母の取った行動はごく自然なのかもしれないとも思いました。

そうしている間に祖母はそのまま気を失い(定かではないようですが記憶がないそうです)、いつものように目覚めを迎えたそうです。

押し入れの襖に挟んでおいた紙切れですが、黄色く風化したようになってそこにあったそうです。

開け閉めした形跡はないけれど、まるで何年も昔の紙のようになっていていたようで、

「このほうが気味が悪いわよね‥」

といって祖父に見せたらしいです。

また祖母が最も気持ち悪いと話すのは、御守りの効果でした。

御守りを枕元に置いて寝た途端、体の周りを這い回る足の夢を見なくなった。

もっと言えば、きっとその存在が周りから消えていたのだと。

それはつまり霊的な何かで、その何かに友人から貰った御守りが効いているのだと言うのです。

考えすぎとも捉えられますが、そのときは祖母なりの必死な思いだったのでしょう。

祖父もその話を聞き、あまり邪険にもしていられない、(もしかしてもしかするとただ事ではないのかもしれない‥)と思ったそうで、その夜、祖母と同じ部屋で寝ることにしたそうです。

次の朝、目覚めた祖父は祖母に、

「まったく同じ夢をみた」

と言います。

恐らく祖父の中ではまだ信じがたい思いがあり、それを夢だと言ったのですが、実際はひどく怯えていたようで、御守りをくれた友人に二人で相談することにしました。

すると話を聞いた祖母の友人は、

「御守りだけでは足りない。その足と巫女は全く別のものかもしれないから、ちゃんとみてもらったほうがいい」

と言うのです。

この話を聞きいよいよ怖くなった祖父と祖母は、友人の勧めるお寺に行き、お祓いをしてもらうことになったそうなのですが、

実際、巫女は人に憑いているものではなかったそうで。

押し入れから出てくるのであれば、そこに何か問題があるのではないかという見解でした。

問題の押し入れは、知り合いの大工さんに修築を頼んだものだったそうなのですが、

今回の現象をお話しした上で何か知らないかと質問したところ、顔を真っ青にして謝罪してきたそうです。

話を聞いたところによると、押し入れ襖の枠の部分に使用された桜の木がどうやら曰く付きのものだったようです。

(簡単にしか聞いていないのですが、どうやら昔、巫女さんが首吊り自殺をした木をそのまま木材として使用していたようです。

そういうリスクのある木材は、格安であるルートに出回ることがあるのだとか‥)

知り合いということもあり、あちら側も非常に申し訳ないという態度だったことから、この件に関しては穏便に解決に至ったそうです。

費用の半分は返却してもらったそうですが。

そして取り外した桜の木は、お寺に持って行きお祓いをしてもらったそうです。

それからは何事もなく、今に至っております。

巫女さんと足の関係は結局わからず終いだったそうです。

巫女さんが何かを伝えたかったのかもわかりません。

長々となってしまい、所々説明不足もあったかと思います。

すみません。

幼心にはかなり衝撃的なお話だったので投稿しました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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