久し振りに私の運転するバスに客が乗ってきた。
私の記憶が正しければ、この客は今年2人目の乗客だ。
20代位の女性だった。
水色のワンピース、真新しい麦わら帽子、縁の大きなダークブラウンのサングラス。
そして、右手に輝く銀のブレスレット。
彼女は、バスの中程の席に腰かけた。
私は、ドアを閉めてバスを発車させた。
窓の外を流れる景色を、彼女は寂しそうに見ていた。
大きな川に架かる橋を越えたところで、バスは終点に到着した。
サングラスの下に見える彼女の目には涙が溢れていた…。
彼女は、無言でバスを降りていった。
……え?
彼女はバス代を払ってないじゃないかって?
確かに、彼女はバス代を払っていない。
だが、私も、私の所属するバス会社もそんな事など、どうでもいいのだ。
何故って…、
私達は知っているのだから。
彼女の様にこのバスを利用する乗客は、三途の川を渡る為のお金を持ち合わせていない、不幸な死者達であることを……。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話