私には変わった友人が多い。
大学時代の友人で、今は福祉関係に進んだ友人と久しぶりに会う機会があった。
その友人が ポツリ と話してくれた。
彼は福祉作業所の現場までバスや電車を乗り継いで通っているそうだ。
途中、電車の一区間がものすごい混雑で、考えられないぐらいギューギュー詰めになるそうだ。
友人は几帳面な正確で、その一区間は約6分30秒。時計で計っている。
どのくらいすし詰めかというと、上半身のポジションと、下半身のポジションがまるで違う。気を抜くと、床を踏んでいる靴の位置と、吊革を掴んでいる手の位置が斜め45度になり、それを修正できない・・・誰も譲り合おうとしない・・・誰も声をかけようとしない・・・まあ、ここをがまんすれば・・・と通っていたそうだ。
この電車には、軽度の知的障害を持つ人も乗るようで、声をかけたことは無いけれど、友人にはわかるそうです。どこかの作業所に通っているのかな、ぐらいに思っていたそうです。
で、ある朝のこと。
いつものように満員電車に乗った。
知的障害をもっているらしき人も、同じ車両に乗り込んだ。
毎朝、同じ様な時刻に乗るわけで、友人は彼がいつも大人しく乗っているのを知っている。
しかしその朝はいつも異常に込んでいて、友人もまいってしまったそうです。
身動き全くできず。乗客の肉のカーテンに挟まれて顔も動かせない。でも声は聞こえる。
あの彼も、ドア側に押しやられて、“ 殺される! 助けて! 死んじゃうよ!”とわめいている。
ああ・・・大変だよな・・・俺の隣にいたらなんとかしてあげられるかもしれないけど・・・これじゃどうしようもないしなぁ・・・
わめく彼に、当初は同情的だった車内の雰囲気が、そのうち険しい雰囲気になり、やがて彼のわめき声が“ 痛い! 折れちゃう! 折れちゃうよぉ! ”に変わったそうです。
!?
知的な障害を抱える自閉症の症状に、同じ言葉を繰り返し繰り返ししゃべる、そういうことがあるそうで、「殺される! たすけて!」はなんとなく大丈夫だと感じていた友人でしたが、はっきりと「折れちゃう!」と言い始めた彼に、ただならぬ様子を感じていました。
そして6分30秒たち・・・次の駅で人波が押し出され・・・
友人が彼のところへ駆け寄った時には、すでに彼の足の指が無かったそうです。
靴の中で 踏み砕かれて。
友人が ポツリ と話してくれました。
怖い話投稿:ホラーテラー るすいさん
作者怖話