中編6
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海の吸血鬼

漁師の慶彦は目を疑った。同僚の岩平と鉄造が年端もいかないサトシを二人して縛りあげようと押さえつけている。

「僕じゃないよ!僕じゃないよ!」

「おい!お前達何のつもりなんだ!!」

「慶彦か…あれを見ろ!」

岩平の指差した先にあったもの…それは喉笛を無罪に切り裂かれて横たわっている船長の死体だった。

「こいつが殺りやがったんだ!船長の近くにいたからな!」

鉄造が興奮して叫ぶ。

(こいつら正気か?いくら現場にいたとはいえサトシはまだ小五だぞ?本当にサトシが船長を殺しただと…?)

「海の吸血鬼が現れたのかもしれんな…」

奥から源蔵爺さんが呟いた。もう七十近いが大ベテランの漁師だ。慶彦は聞き返した。

「源爺さん何なんだ?海の吸血鬼って?」

「わしら古くからの海の男に伝わる伝説じゃ。海の吸血鬼が乗組員を皆血祭りにあげるというな…」

(何の世迷い事だ?とにかくこのままにしてはおれんな)

「誰がやったかはともかくこんな大事件が起きたんだからな。一先ず報告するべきだな」

「そ、それはやめろ!!漁は続けるぞ!」

岩平と鉄造は頑として寄港も無線報告も拒否した。慶彦は不可解だったがその受け入れを条件に慶彦はサトシを自由の身にさせておく事が出来た。サトシは前の船長の遺児だ。父親の分身とも言えるこの船に一度どうしても乗りたいとの事で殺された船長が取り計らったらしい。

(一体何があった…?漁の初日からとんでもない事が起こったな。ちょっと待遇が良いからってこんな船乗るんじゃなかったぜ…)

慶彦は制服に一糸の乱れも無い船員の遺体を見下ろしながら呟いた。

「サトシ、あそこで何か見たか?」

「うん…慶彦兄ちゃんには…教えるよ。何か黒い影が飛び出して来て船長と揉み合った挙げ句に…喉笛に噛みついたんだ…」

(本当だとしたら…さぞ恐ろしかったろうな。まだ子供だし、これ以上の事情聴取は無理か)

慶彦は無論源蔵爺さんの海の吸血鬼等という話は信じて無かった。しかし、妙な違和感を感じていた。暗くなっていくにつれ段々海が荒れてきた。今夜はシケるか…

「この分じゃ今夜は大荒れだな。慶彦と俺は操舵に専念だ。鉄造は機関室に詰めろ。源爺さんは無線だ。サトシは飯の支度をしろ。握り飯を各々に配れ」

船長の突然の不在でリーダー格となった岩平が各人に指示を出した。

果たしてその夜は凄まじい嵐となったが、全員が力を出しきった事で乗りきった。漸く海が落ち着いた頃に慶彦はサトシが作った握り飯を食べようとすると、皿もろとも海水まみれになっているのを見て苦笑いした。

「皆良くやってくれたな。もう大丈夫だろう…慶彦、源爺さん、サトシ…ん?鉄造はどうした?」

「僕が握り飯を持って行った時は海水まみれになりながら頑張ってましたけど…」

不審に思った岩平と慶彦は機関室へと急いだ。そこで二人は目の当たりにする事となった。喉笛を切り裂かれて冷たくなっている鉄造を…

(一体誰が!?船長にしろ鉄造にしろ長年海で鍛え上げた屈強な男だ。体格だって二人共レスラー並だってのに何故ああもアッサリ殺られてるんだ?)

機関室を調べている間も慶彦の疑念は全く解けなかった。

(エロ本にビールの空き缶、煙草に灰皿、ライター…鉄造の奴火気厳禁だぞここは…あるものはこれだけか…)

自室に戻った時に慶彦はまた妙な違和感に襲われた。しかし睡魔には勝てなかった。

「源爺ちゃん、海の吸血鬼って本当にいるの?」

「ああ、いるとも…」

「じゃ船長と鉄造おじさんを殺したのも海の吸血鬼なの?」

「う〜む…それはどうじゃろうかなあ?」

「吸血鬼の襲い方というのはな…もう少し鮮やかなものじゃよ」

「相手の喉元に自分の牙の跡を二つ立てる。それ以外には一切傷をつけないんじゃ…」

「ふうん…で、吸血鬼って倒せるの?」

「ああ、吸血鬼を倒す方法は只一つ…心臓に木の杭を打ち込むんじゃ…それ以外の方法では絶対倒せんのじゃよ…」

慶彦は朝日に微睡みながら今迄の事を思い返していた。

(俺では無いから一番疑わしいのは岩平か…しかしどうもすっきりしない…何かがおかしい…)

ウワァァァー!!

サトシの悲鳴だ!慶彦が駆けつけ、座り込んで失禁し呂律も覚束無くなっていたサトシの指差す方向にあったもの…それは、またしても喉笛を切り裂かれた岩平の死体だった…

その夜。とうとう三人目の犠牲者が出た事で、慶彦は流石に、これは源爺さんの言ってる海の吸血鬼とやらの可能性も疑い始めた。

(これは只事じゃない…本当に源爺さんの言う海の吸血鬼がこの船にいるのか…?)

その時、慶彦の頭に稲妻が走った。

「何か黒い影が飛び出して来て船長と揉み合った挙げ句に…」

あの時船長には誰かと争った形跡は無かった!

「僕が握り飯を持って行った時は海水まみれになりながら頑張ってましたけど…」

あの時機関室にはあるべき皿が無かった!

慶彦はまさかという思いを捨てきれないまま、源爺さんを探すべく立ち上がった…

源爺さんは甲板に腰掛けていた。背後にゆっくりと黒い影が忍び寄った。影は口に筒状のものを加えると、次の瞬間何かが筒から飛び出し、源爺さんの後頭部に命中した。すぐに源爺さんは崩れ落ちた。

次に影は鋏を取り出すと、源爺さんの喉笛を切り裂いた。鮮血が飛び散った。

「サトシ!!犯人はお前だったのか!!」

「バレちゃしようがないね…」

「何でこんな事をしたんだ!!」

「お父さんの復讐だよ…実はこの船は麻薬を積んでる密輸船なんだぜ!それを知った父さんを船長達三人は父さんを殺して船を奪ったんだ!」

それで殺人事件が起きても岩平と鉄造は報告したがらなかったのか…!

「三人は僕も海で始末するつもりで船に乗せたんだろうけど、まさか自分達が殺られるなんて思わなかったろうね…こいつでね」

「サトシ…そ、それは?」

「吹き矢さ。こいつを人間の急所の後頭部のぼんのくぼにお見舞いすればどんな大男でも一発だよ」

「そして仕留めた後にその鋏で…?」

「そうさ。小さい頃父さんから海の吸血鬼の話を聞かされた事があってね。御陀仏にした後に喉笛をこれでズバッとやれば…吸血鬼現るって訳さ…」

「き…貴様…」

「あいつらは僕が犯人だと分かっていたから僕を縛り上げようとしたんだよ…全く慶彦兄ちゃんはお人好しだよね…クックックッ…」

慶彦はサトシに飛びかかった。しかし一瞬早くサトシの吹き矢が慶彦の目に突き刺さった。

ギャアアアア!!

「悪く思わないでね…真相を知ってるのは慶彦兄ちゃんだけだから♪」

「さて吸血鬼最後の来襲といくか」

サトシは手術を動かなくなった慶彦に施した。

「さてこれで証拠の吹き矢も鋏も大海原の底におさらばだ♪

サトシはその二つを海に捨てた。

「これで恐怖の吸血鬼来襲事件の出来上がりだ。この辺りは色々な船の航路になってるから明日にはどこかの船に助けて貰えるな♪」

サトシは悪魔の様な笑みを浮かべた。

「そうなったら、信じようと信じまいと…吸血鬼が乗組員全員を襲った…年端もいかない子供の僕は物陰に隠れて必死でやり過ごした…こんな筋書でいいだろ。今夜は徹夜で疲労困憊でいるとするか…フフフ…」

豪華客船が波間に漂う奇妙な漁船を発見した。乗組員が乗り移ると、一人の老人が甲板にしゃがんでいた。

「何があったんですか?」

「船が吸血鬼に襲われましてのう…」

「!?」

「ほれこの通り…年端もいかない子供迄…可哀想にやられてしまいましたんじゃ…」

そこには首筋に二つの跡がついている少年の冷たくなっている姿があった。

「気をつけた方が良いですぞ…吸血鬼は獲物を求めて船から船へと渡り歩くと言いますからのう…」

「それに吸血鬼は心臓に木の杭を打ち込まなければ…殺しても死なないのですから…」

「いや本当にありがたいこってすな…こんな大勢いらっしゃる船に乗せて戴けるとは…」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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角田二郎の、モロ朴李ッスね。